俺はぼっちを希望する!#4
最初は冗談かと思っていたが、実際にドアを引いてもびくともしない事からようやく確証が持てた。
ここ二図書は老朽化が進んでいるため建て付けが悪い。だからいつも少しドアを開けていたのだが……。
「お前……そういえば来た時ドアすっごい音立てたたけど」
そう言うと、彼女は笑顔のまま固まってしまった。その笑顔は引きつっていて口角がたまにピクピクと動いている。漫画とかなら今の彼女は額に汗マークをたくさん入れられていそうだ。
「そっそうだ!つゆを呼ぼう!」
とっさに彼女はポケットからスマホを出すが、それに対しほぼ反射的に俺はそれを止めた。
「それはやめてくれ。ここには俺が隠れられるところがない。もし二人きりの状態で見つかったらどうだ?明日からクラス中、いや学年中の人気者になってしまう」
皮肉まじりに理由を説明すると、うーんそれは困るか……と、どうやら納得したようにスマホをしまう。
よかった、これでみんなに明日から白い目とか憎しみに満ちた目とか向けられなくて済む!ナイス神回避。
ただ、そうはいってもこの状況を打破しない事にはどうしようもない。そのためにはまず……。
そうして向かったのは本棚だった。
何分経ったか、その間時計のカチカチと進む秒針の音だけが二図書に流れていた。少ないながらも蔵書はあり、夏見さんが頑張っている間は状況整理と心を落ち着かせるために適当に手に取った本を眺めていた。
授業が始まれば多分夏見さんがいない事に誰かしらが気付くため捜索が始まり発見。みたいな流れになるだろう。え、俺は?俺のこと気付く人居ないのー?
ただ、その場合この状況もひどくまずい。
隠れれそうな場所が特にないここは見渡せば必ず俺の存在もバレる。ただでさえ人気者でしかも美人な彼女と二人きり。側から見れば誰だこいつ……とりあえず埋めようか☆みたいな感じで、今後俺の周囲には敵以外いなくなることうけあいだ。
そうなるとやはり、残り時間で脱出夏見さん先に行かせてそれを追うようにして俺も教室へゴール。これが理想。
考えがまとまりパタリと本を閉じる。
彼女はうーんとかえいっ!とかまぁなんとも可愛い掛け声に唸り声を上げてドアを引っ張っている。
時計が正しければ予鈴まではあと五分ほど。
となると、そろそろ教室へ先生方が移動している頃合いか……よし。
ここは一階の奥ほど。人の通りは少ないが、近くには職員室がある。だが、この五分は先生方も担当教室へ移動し一階にいるのは用務員や事務員のおじいさんおばあさん達だ。だから大きな音がしてもなんら問題はない。
「ちょっと下がってろ」
それだけ言うと彼女は不思議そうに顔を傾げながら俺の後ろに下がる。
あんまりこれやりたくないんだよな。
ドアを少し確認して、うん、まぁ問題ないだろと納得したら数歩下がり勢いをつけて……ガン!
ドアにあたる。衝撃が当たったところから全体に広がり痛い。そしてゆっくりと体感が落ちていく。
バタン!と、大きな音が床に伝わる。
これで脱出成功。老朽化しているからちょいと力のベクトルをあれやこれやして……いてぇ。
起き上がると、彼女が慌てて駆け込んでくる。
あわあわおろおろとしながら俺への安否確認をしてくる。
「だっだ大丈夫!?馬鹿なの!ねぇ馬鹿なの!?」
テンパってんのは分かるが馬鹿て……あなたよりは頭いいと思いますけどね。ていうか心配してんのかおちょくってんのか。
「大丈夫だから、早く行け。予鈴鳴るぞ」
結構本気で心配してくれていたようで保健室とかいかなくて大丈夫?とか、気使わしてしまったため少し息災する。心配しながらも駆け足で戻る彼女を見送り、ドアをとりあえずは立てかけ俺も教室へ戻る。
…………痛い。