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ぼっち希望は夢を見ない!  作者: 唯
第一章
38/115

ぼっち希望は誘われない!#12

 俺はそこではっと気づく。そういえばスマホを取りに来たのだった。

 いや、全然、全く忘れてたわけじゃないし。ていうか見とれてないし。

 誰に向けるでもない言い訳をしながらロッカーを開けた。

 彼女はこんな時間に教室で、しかも一人で、何をしているんだろう。誘いを断っていた理由はなにか用事があるからじゃなかったのか?

 考えることに夢中になって、思わずロッカーを勢いよく閉めていた。

 バタンと言う音が廊下に響く。廊下には俺一人だけだから音源がバレてしまうだろう。吹奏楽の演奏もあり、さしてそう遠くまでは届かないだろうが、近くであれば特定される。


「あれ、秋月くん?」


 教室から顔を出し、俺の名前を呼んだのは夏見葵(なつみあおい)だ。

 俺も、呼ばれたのだから彼女の方を向き、「おう……」となんとも無愛想な返事をしてしまう。だってー女子と話すことなんてーほんの少しもない人生なんだもん。女子と話せない人生を送ってきました。

 彼女はどこか恥ずかしそうにこっちをあまり見ず、俺から視線をそらす。それ、にらめっこなら反則負けしない?

 笑ったら負けというルールだが、実際に今この場でもそれは適用されている。まあ、こんなに重い空気感で笑えるほど精神は図太くないから俺が負けることはない。かといって彼女が負けることも多分ない。

 結果、引き分けという誰からしても面白くない結末を迎える。

 人は面白くなかったり、下手にすべったりするとそこには気まず〜い、急な無音が響き渡る。しかもそれが伝播するかのように広範囲が静まっちゃうこともある。

 教室とかでそうなると「幽霊が通った」とか言う。正確には、ざわついた空間が一斉に静かになった時とかに使われる。まぁ、豆知識だが。

 つまり、俺の近くはいつも幽霊が通っているということになる。なにそれ怖い。まさか憑かれているのか? それなら俺のタイプの女性であってくれ。

 気まずくて思わず思考に逃げてしまう。三次元の女子を前にして、より高次元の女子を望んでしまった。

 まて、幽霊は高次元か? 一つ次元が上がるならポケットにしてつけてやりたい。


「えっと……その……」


 耐えられなくなったのか、彼女がぎこちなく目線を下にうろうろさせながら口をもごつかせる。

 俺から言うことはなにかあるのだろうか。

 ない……と、思う。そもそも俺と彼女はこういった関係だったのではないか。

 いつだって彼女が話し、俺はそれに付き合っていただけ。

 だから、彼女が離れてゆけばそれを俺が止める理由はなく、今回だって彼女の言葉を待つことしかできない。

 ただ、ここで立って待つというのはなんとも疲れてくる。ほら、運動部じゃないから体力空っぽなのよ。


「とりあえず教室に入っていいか?」


「え、あ、うん」


 誰の席なのかも分からない、彼女がそれまで座っていた席の向こう側。俺は廊下側の席に腰掛けた。彼女は俺が座るのを見てから、なんとも言えぬ顔をしては先まで座っていたところに向かった。

 教室は少しひんやりとしていた。冷房は入っていないようだが、今日はいつになく暑いと思っていたのが嘘のようだ。冬はそこまで来ていいるみたいだ。

 やはり、霊的なものがいるのでは? 二人の間にはたぶん幽霊がずっと通っている。反復横跳びしているのかもしれない。

 幽霊は疲れたのか、それでもまた言葉が通う。幽霊なのに疲れるのか……。


「秋月くん、今日どうだった?」


 夏見さんはいつもみたいに笑って聞いてくる。その笑顔は陽に滲み虚ろだ。


「別に、どうってほどのこともなかった」


 彼女は「そっか……」と笑う。

 彼女を困らせただろう。悪い気はしたが、これ以上続ける言葉が見つからない。だから、今度はこっちが聞くことにする。


「夏見さんはなんでここにいるの?」


 彼女は約束を蹴ってまでなぜここにいるんだろう。用事などと嘘をついてまで。

 聞くと、彼女は言いづらそうに、言葉を探しながら答える。


「う〜ん、なんで、かあ。ちょっと体育祭の余韻に浸りたかったからとかかなー」


「何言ってるの?」


 つい強く言ってしまった。

 それから落ち着いて俺は言葉を紡ぐ。


「言いたくないなら別に言わなくてもいい」


 うん、全然紡げてないわ。落ち着いてもない。むしろ棘ばっか。

 こんなもの彼女をもっと困らせることにしかならない。

 しかし、彼女は予想外にも朗らかな顔を浮かべた。


「……ちゃんと言うよ」


 彼女はなおもこっちを見ていた。


「今日はなんか行きたくなかったんだよね。それに、ここ最近なんだかつまらなくて」


 笑って、みんなと一緒に楽しんでいるように見えたのにつまらないと彼女は言った。


「たぶん秋月くんと話してなかったからなのかなって思って」


「え?」


 意外な回答だった。


「だってそれくらいしか変化がなかったし」


 なんだか恥ずかしいな……。頬かくフリをして視線をはずす。


「それで、いろいろ考えてたんだよね。なんで秋月くんと会わないだけでこんなにつまんなくなるんだろうなって」


 ………あれ? なにこの展開。ん? ちょっと待ってこれって……ん?


「でね、さっき秋月くんを見かけてそれで分かったんだ」


 チラリと彼女を見ればその顔は夕日を含み、その細部まではよく見えないが視線は俺を離さなかった。


「私は……」


 今の俺の心臓はそのテンポを乱しまくっている。たぶん不整脈。誰か、誰か救急車呼んで!


「私は、あなたと友達になりたいんだと思う」

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