ぼっち希望は誘われない!#6
全く、どうかしている。俺が人のために動くなんて。ぼっちには必要のないスキルだろ。
急いで保健室まで向かう。こういうときのために最短経路、及び人があまり通らないルートを知っていてよかった。ぼっちの為せる技だね。
保健室が見えてきた。急ぎだからという理由でノックを省かせてもらった。
「すいません! 急ぎ、いいですか。中庭で女子が倒れていて……」
お約束どおり、急に開けたら裸の美少女が登場……なんて現実では起こるはずもなく、居たのは養護教諭の原先生と、そこのソファに腰を掛けているつゆさんだけだった。
とりあえず、大雑把に状況を話すと原先生に案内を頼まれた。それから、三人で現場へ向かうことになった。ついでにということで、アイスと、その他諸々の救急道具を、「男手、よろしくね」といった具合に持たされもした。ちょっと、ここの保健室人使い荒くない? いや人命に関わるから今は深く考えないけどさあ。
先程彼女を寝かせたベンチに駆けつけると、彼女はまだぐったりしている。でもだいぶ呼吸が深くなったみたいだし、汗も少し引いたみたいだ。
原先生はそれから、なんだかよく分からないけど彼女を確認しているみたいだった。暇を持て余し、ただその光景を傍観する。
「ねえ、彼女だれ?」
つゆさんが俺に聞く。そんなこと聞かれても分かるわけない。偶然居合わせてしまっただけだからな。むしろつゆさんの方が面識ありそうだ。
「知らない。偶然会っただけだ」
「そう。なら、彼女は相当運が良かったみたいね」
確かに。普段こんな道通るやつそうそういないし、今日だって本当に偶然が重なって俺がぼっちだからこそと言うべきか、人と関わることが最低レベルだったからと思うべきか、なんにせよ正規ルートを外れたおかげで彼女を発見できた。そういった意味では彼女は相当運が良かったみたいだ。
………いや待て、彼女からしたら助けられたことには変わりないが、むしろその助けたやつが俺みたいなぼっちだったと、何という不幸だ! ということになるのか? 彼女が不幸が故に俺と会ってしまったとか。なにそれ、土に帰ろうかな。
「まあ、中くらいの熱中症ね。処置が早いおかげであとは安静にすれば回復するでしょ」
くだらないことを考えていたら、いつの間にか診察が終わっていたみたいだ。とりあえずは良かった。ということで。これからは先生たちに任せよう。
「ありがとうございました。じゃあ、俺はこれで」
「ちょっとちょっと」
原先生は俺を引き止める。
「彼女を保健室まで運んでくれないかしら?」
「え、いや、それはちょっと……」
「いいじゃない。合法的に女子を触れるチャンスよ? むしろ率先すべきでしょう」
何を言っているんだこの教諭は。そんな邪な考えをこ、この僕が持つわけ無いでしょう! ………やめよ、つゆさん。そんなゴミを見るような目で俺を見るのは。俺まだ何もやってないよ。
「先生が運ばれては……」
「最近肩が上がらなくて……」
原先生は肩をさすりながら言う。あなたまだ三十も前半でしたよね? なんですか、見た目は三十路、中身は二十歳、だけど体は四十代。なの? まだいけますって。
「つ、つゆさーん?」
「同世代を、私が持てるわけ無いでしょ」
あっさりと断られた。まあ、そうか……。仕方なく、腹をくくる。
「……はあ、わかりましたよ。言っときますけど、俺は人命救助の類から手を出しますから。履き違えないでくださいね」
きちんと確認を入れる。
「あんたもねー」
原先生が茶化す。もう、無視無視。
よっと、体を持ち上げる、先程もそうだったがこれって、俗に言うお姫様抱っ………いや、なにもない。そう、さっきの救急道具と何ら変わらない。無だ。というか、意識しすぎるからだめなのでは? 普通にしてればいいじゃないか。こちとらやってることは人助け。何も邪なことなどないのだから。
なんだか気持ちがだいぶ楽になってきた。
そして俺は一人の女子を抱えながら保健室に向かった。んだけど………どうやら運が悪いのは俺みたいだ。
「なんでこんなときに………」
彼女にあまり刺激を与えないためにゆっくりかつ迅速に保健室まで向かうが、先程までと打って変わって道すがらに必ず誰かしらとすれ違う。そいつらが俺をいかにもな目で見てくる。状況を知らない奴らからすれば確かに稀有な光景ではあるが、もう少し状況理解をしてほしい。
そんな願いも通じるわけはなく、なんであいつ白昼堂々女を抱いてんだ?(別に深い意味はない)とおよそすれ違う人の八割にはそんな顔された。
保健室に着き、彼女をベッドに寝かせる。そして俺はうなだれた。直後、首筋にヒヤッとした感覚。
「ちょあ、な、なにすんだよ」
つゆさんがお茶を俺の首筋に当てたみたいだ。変な声出ちゃったよ。
「なにそんなに落ち込んでんの、きもいよ、元気だそ?」
つゆさんは手に持っていたお茶を俺に渡す。きもいってさらっと言われてから元気なんて出ないんだよなぁ。
「……どうも」
持つと手にはひやりとした感覚が伝わってきた。いろんなことが起きすぎて、無意識に力を入れていた右手の熱がペットボトルごしの冷気とともに逃げていく。それにしてもこれ、俺が買ったお茶じゃない。わざわざ新しいのを用意してくれたのか。なんだかんだいい人なんだよなあ、つゆさん。
せっかくだから蓋を開けて冷や汗も疲れも喉を潤すお茶と一緒に飲み込んだ。残ったのは爽やか、お茶の苦味香る味だった。
お茶、美味しいですよねぇ。
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