俺はぼっちを希望する!#2
「気を付けー、れー」
よし、終わった終わった。飯はいつも通り二図書で食うか。
この学校、なぜか知らんが第二図書室まであって、しかもその第二図書室(通称、二図書)は昨年だったか一昨年だったか、はたまたもっと前だったか。もう図書室としての機能を完全に失っている。だからといってはなんだが、春宮先生に頼み込んで使用許可を貰い鍵を借りれることになった。
はっはっは!もうここは完全なる俺のプレイス!こういったのってアニメとかラノベとかの世界限定だと思ってたけど、ほんとこの学校にしてよかったなー!
二図書までにつながる廊下は、昼休みにしてはやけに静かで夏だというのを忘れてしまうほどに冷気を帯びている。
ガラガラガラー……
少々立て付けの悪いドアを開けて、中に入る。閉めて、そのまま開かなくなるなんてことがないようにドアを少し開けておく。
ふぅ。やっぱりここは落ち着くな……。
木棚には、決して多くはないが蔵書が詰められ、大きな窓の向こうからは日光が、緑緑しい樹々の影とともにこの空間に入り込む。閑散とした、どこか哀愁漂う造りだ。
こういった物を残していくことこそが、どこかこの忙しさに押しつぶされている現代社会に一つの小さな憩いになるのではないだろうか。
ふと、またも自分の世界に入ってしまっている自分に気付く。おっと、そんなことより食べてしまおう。少し自慢になるが、俺が作った。両親は朝早くて夜遅いみたいな感じで最近はろくに顔を合わせていない。
まぁ、そんなこんなでずっと自分で作って食べているのだ。ちなみに、弟の分も作っている。え?何これ?俺ってばまじで優秀すぎない?
「いただきまーす……」
ぼそり、呟いてから包みを解く。梅の乗った白米に、明太子を加えている卵焼き。お浸しやきゅうりの酢漬け。沢庵なんかも入っている。色合いを良し。今日も美味しいなぁ。
自画自賛したくなるほどの(というか、もうしてました。)出来に、一人静かな空間と余韻を感じる。
あぁ、やっぱり一人はいいなぁ……
ガン!ダン!
何だ?と思うままなく、勢いよくドアは開けられ閉じられ。そうして彼女はズンズンと俺の下に来た。
「やっほー秋月君!」
ーーーーっ!?
夏見さん……なんでこんなところにいるんだ?あなたみたいな友達多い系リア充が来るところじゃないですよ。ちなみに俺はぼっち系リア充。その人が充実してるなーと思えばそれはもうリア充なのであーる。
顔に出ていたのか、態度に出ていたのか定かではないが彼女は持ち前の笑顔で俺の疑問に答える。
「いやー、秋月君全然捕まらないからさ?後でって約束したのに……だから昼こそはっ!と思って後つけてきたんだー!」
えへへーと、言われても……それ、犯罪者予備軍入っちゃってませんか大丈夫ですか。
「……他の奴らはいいのかよ」
聞くと、え?あははーと、なんかどうやっても表情を崩さない。ただ、何となく引っ掛かりがあった。それが何かと聞かれると困ってしまうが。ただのぼっちの勘だ。
「まぁいいじゃん!それよりなんかここいいねー!雰囲気?ていうか、んー古臭さがあるみたいな!」
それ褒めてんの?風情があるねーとか、落ち着きがあるねーとか、なんかこう……もっとあったろ……。
うん、そう言う俺も大して思いつきませんけど。
まぁとりあえず、食べるか。昼の時間がなくなってしまう。
そう思い、先ずはじゃあ……卵焼きから。箸を伸ばすが、思わず手を止めてしまう。
…………
じーーー。
……なんですかね。とても食べにくいんですけど。あの、そんなに寄らないでくれませんかね。味も匂いも分からなくなりそうなので。
「……なんだよ」
少し、機嫌を悪そうに聞くと卵に向いていた視線が離れる。飛び跳ねたのかと思うくらいに、動揺しているのか身体を俺から遠ざける。
「あっ、ご、ごめん!美味しそうな卵焼きだなーって思ってたらつい、ね!あははー」
ふむ。自分が作った物を褒められるのは素直に嬉しい。その作った事実を知らない人から言われるから、嘘でも何でもない、真っ向からの意見。
「一個やろうか?」
べ、別に食べて感想が欲しいとか、褒められてちょっと舞い上がってるとかじゃないんだからね!
聞くと、夏見さんはありがと!と、これまた男子を貶めるであろう素直な笑顔で答える。危ないなー。俺でなかったら勘違いしてるぞ。
「あっ!そうだ」
ふと、何かを思いついたような声を出して持っていた小包を俺の隣に置き、その場所の椅子に座る。そうして、包みをほどき中にある弁当箱を開ける。
白いご飯に卵焼き、ブロッコリー、小さいハンバーグ 、のり玉ふりかけetc...
夏見さんの弁当の中身は、小学校の遠足の時とか幼稚園の時とか、めっちゃ嬉しい宝箱のような。子供の夢詰めました!みたいなものだった。
なんか、懐かしいな。あの頃を思い出す。
と、思ったが、冷静に思い返すと俺そんな弁当の具入れてこなかったわ。漬物とか梅とか昆布とか、きんぴらごぼう、美味かったなぁ。お婆ちゃん子でした故今でもそういったものが好きなんですよね。
「じゃあ、私の卵焼きと交換ね」
昔を懐かしんでいると横から手が伸び、そのまま俺の弁当に優しい黄色をした卵焼きが乗せられる。それと同時に、弁当から一つ、俺の卵焼きが持ち上げられ、彼女の口へ運ばれる。
「んーまぁー!」
へーへーそれは何よりで。顔全部使って美味しさを表現してくれている。流石にここまでされると、悪い気はしないどころか嬉しいまである。
「じゃあ、俺も……」
そう言って、先ほど加えられた卵焼きに箸を伸ばし口へ運ぶ。ふむふむ。うん……。美味い。美味いのだけども……。
「これ、甘すぎね?」
「そう?砂糖少ししか入ってないけど」
え?卵焼きって砂糖入れるっけ?……貰っといてなんだけど、しょっぱいの希望します。
「てか、秋月君の卵焼きすっごい美味しい!お母さん料理上手なんだねー」
「あぁ、ありがとな。作ったの俺だけど」
その瞬間、彼女はこちらを向いて固まり、箸を手からこぼす。おい、俺メデューサじゃないんですけど。
「あ、秋月君の、手作り……」
信じられないって顔に浮かび上がってますよー。あのね、俺これでも結構スペック高いから。
「そんな驚くことじゃないだろ」
「えっ?いや、ちょっと意外だなーって思って。でも、そっか、えへへ」
えへへって、何かいいことあったんですかね。それとも、俺の卵焼きにワライダケかなんか混入してましたか。