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秋に散る桜  作者: 傘部蘭
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3.折り紙の手紙


「凛の推理通り、『百舌鳥』ってのは犯人の異名っぽいね。しかも殺人を複数起こしている。」


「うん。でも串刺しにしているのが人じゃなくてカナヘビでまだよかったよ。」

2人で凛の部屋のテーブルを囲みコピーにざっと目を通したが、3人の被害者のうち1人が自分の母であることの実感がわかない。


父はこの5年間ずっと誰にも言わず1人で抱えてきたのだろうか。


「この2人の被害者と、『木暮れ院』って聞いたことある?」

「いや、ないよ。でも、木暮れ院が何かの施設なら調べれば出てくるかもしれないね。」

僕の提案より先に凛は自分のスマホでインターネットを開いていた。

軽快なタップで「木暮れ院」を検索にかける。

「岩手県の老人ホームと神奈川県の孤児院、、、。確か蓮のお母さんって、、、。」

「うん。小さい頃事故で両親を亡くしてる。」

母は5歳の時両親を交通事故で亡くして孤児院で育てられたと聞いた事がある。車の衝突事故で運転席と助手席に座っていた母の両親は亡くなり後部座席に座っていた母は奇跡的に助かったらしい。

凛が神奈川県の孤児院の方の「木暮れ院」のホームページに飛ぶ。

ホームページは、上側に院長らしき男の写真があり、下はポリシーのようなものが書いてある。

「電車に乗れば行けない場所ではないね。」

「今から行くつもり?」

「いや、今日は今ある情報を一旦整理しよう。明後日あたり放課後空いてる?」

「空いてる。」

「じゃあその日にこの孤児院に行ってみよう。」

凛は要領良く明後日の予定を決めると院長のプロフィールのページに飛ぶ。

ーーー滝島邦洋ーーー

「滝島邦洋って、どっかで見たよね?」

その名前を見たのはいいや聞いたのは昨日のことだ。

「日本のモンサンミシェルの持ち主。そして、僕らが今週末参加する推理ゲームの主催者が滝島邦洋だよ。」

「よく覚えてたね、蓮。」

「まだ、幼稚園生のかの時だけど会った事があるんだ。」

「なるほど。」

続いてスタッフ一覧のページに飛ぶ凛の顔は少し笑みが浮かんでいた。

少しずつ繋がってきている。

冒険で1番楽しい時間だろう。

ホームページに載っているスタッフは3人。


1人は滝島邦洋の妻・滝島香苗


そして他の2人のうちの1人は冴島麻衣子だった。


「またまた、繋がったね。もう1人の被害者の中川慎太郎っていう人は年齢からみて蓮のお母さんと同じく孤児院にお世話になっていた子供っぽいね。」

「そうだね。まあそれも明日そこに行けば全部聞き出せるでしょ。それよりも凛。他の現場の情報とかから分かることはないの?」


凛は再びスマホからコピーに目を移して髪の毛を弄る。

「まず、カナヘビを用意できてる時点で分かるけど、指紋とかここまで完璧に証拠を残してない時点でその場の衝動での殺人ではなく計画殺人だよね。その上、蓮のお母さんと中川さんは自宅の中、冴島麻衣子さんは自家用車の中どちらも被害者の知り合いじゃないと入れない場所で殺害してるから3人の共通の知り合い。つまり犯人は木暮れ院に関係のある人物ってことくらいかな。」

「殺していった人が偶々みんな木暮れ院に関わりのある人だったっていう可能性は?」

「極めて少ないね。家に押し入って殺してる殺人鬼ならまだ何億分の一ありえるかもだけど、新宿の裏路地でも人がいないことはないのにわざわざリスクを背負いながら車内っていう殺害しにくいところで冴島さんは殺されている。こんな小さな確率を考えていたら拉致が開かないしね。」

「確かにそうだよね。」

「まあ全ては明後日分かるよ。取り敢えず明日はこのこと忘れて今週末の準備しなきゃ。」

いつも通り凛は要領良く冷静だ。

現状で自分たちがどこまでできるのかの線引きをしっかりしている。

立ち上がりコピーを二つ折りにして自分の手帳に挟んで机の中にしまう凛は満足げで、明後日と今週末への期待に胸を膨らませているようだった。

父の気遣いは案外効果大だったのかもしれない。






水曜日。

月曜日と同じようにさようならの言い終えないうちに教室を出る。

今回は1度家に戻り私服に着替えてから駅に集合することになった。

僕が駅に着くと先についていた凛が「遅いよ」と笑いながら手を振る。

孤児院「木暮れ院」のある場所はそう離れた場所ではない。電車で45分かかるかどうかのところだ。


「何気に蓮とこうやって電車でお出かけするの初めてじゃない?」

「確かに車で桃狩りに山梨に鹿野家と名代家でいったことはあるけど。電車で、しかも2人っきりは初だね。」

僕らは幼馴染みと言ってもお正月と夏休みの10日間程度を一緒に過ごしていただけで、凛が今年の夏に一人暮らしすることになり僕の家の近所に引っ越してくるまではそれ以外で会ったことはなかった。

行きの電車では事件の話はあまりせず、化学の教師の話し方の癖について話し続けていた。

凛との会話は今までも弾まないことは少なかったが、最近は共通の話題が劇的に増えたことによって話しても話しても話題がつきない。

そんなことで目的の駅に着くまでの45分は苦には感じなかった。


駅からはホームページに書かれていた住所を地図アプリに打ち込みそれに従う。駅前を離れると住宅地が多く家か小さな公園しか見当たらない。


「ここっぽいんだけど。」

凛が指した場所にあったのは子供たちが走り回る孤児院ではなく、少し場違い感が否めないスポーツジムだった。

「間違えていないはずなんだけどな。」

僕も地図を覗き込むが確かに住所を示すピンはこのスポーツジムのある場所を指していた。

「もうなくなっているとか?」

僕らはそこら一帯を散策したが結局木暮れ院らしき施設は見当たらない。


最後にスポーツジム前に戻って来た時、スポーツジムの向かいの家からお婆さんが出てくるのが見えた。

「あそこの家古そうだからあのおばあさんならなんか知ってるかも。」

そう言って凛は走り出してお婆さんの肩を叩きにいく。そこらへんの行動力はそこらの小説に登場する探偵と変わりないとさえ思えてしまう。

「すみません、おばあちゃん。ここに住んで長いんですか?」

初めからおばあ「ちゃん」と呼ぶところに相手の懐に飛び込む秘訣があるのか?

僕には絶対にできない。おばあ「さん」って言ってしまうだろう。

「そら私ここにもう45年近く住んでるからね。そこら辺の綺麗で新しい住宅地ができる前から。」

周りと比べて優位性を持とうとする老人にありがちな主張は入っているが、言い方は優しく嫌味は感じさせない。

「そしたらここら辺に木暮れ院っていう孤児院がありませんでしたか?」

「それだったらこの目の前のスポーツジムがあるところに10年か8年くらいまではあったよ。」


いきなりビンゴだ。


凛の顔に集中という文字が浮かぶ。

「どうしてなくなっちゃったんですかね?」

「火事だよ。昼間にね火事が起きてね、そりゃ大変だったよ消防士が来て警察が来てってねぇ。幸い子供たちは院長の人に連れ出されてどこかの畑の手伝いに行っていたから助かったんだけど、残って事務作業をしていた院長の奥さんが逃げ遅れて亡くなったんだよ。それからはこのスポーツジムができてね、子供達の声が好きだったんだけどねぇ。」

「その院長って滝島邦洋さんですか?」

「そうそう、滝島さん。いい人だったよ。近所の人たちともちゃーんと交流してね。子供達もみんな慕ってたねぇ。今は中国地方の方にいるんだっけ?お金持ちなのに全然嫌な感じもなくて。」

「ちなみに木暮れ院の子供達の名前とかって流石に思えてないですよね。」

「覚えてはいないけど、ずっと昔からお手紙をみんなくれるのよ。全部取ってあるから名前も分かるかもよ。けど、どうしてそんなこと、、、?」

見知らぬ高校生2人に名前をスラスラと教えてしまうほどセキュリティが甘い人ではないらしい。

「実は僕の母が木暮れ院出身で、母の所縁のある場所を巡っているんです。来月に誕生日があってそのサプライズにビデオとか送ろうかと。」

僕の嘘はバレることなく、お婆さんは僕らを家にあげてくれ、居間に通され少し探してくるから待つように言って家の奥に去っていった。

名前は奥美和子というらしく、昨年夫を亡くし今は週2でくる娘に面倒を見てもらっているらしい。


部屋を見渡していると奥から小走りで奥さんが戻ってきた。2番目の「奥」は家の「奥」でも、あら「奥」さんの「奥」でもなく苗字の「奥」だ。面倒なので以後は美和子さんと呼ぼう。

「お待たせー。えっと何年前くらいか分かる?」

「多分、30年前くらいです。」

「オッケーオッケー。」

美和子さんは手際良く缶の中に綺麗にファイル分けされた手紙を漁っていく。

「名前は?」

「名代京香です。」

「あったあった。この年だね。」

そう言って机の上に提示された5枚の手紙のうち紫の折り紙で書かれた手紙には大きく「名しろ きょうか」と書かれている。

「ありがとうございます。読ませてもらってもいいですか?」

「勿論だとも。」

僕は母が幼少期に書いた手紙を持ち上げた。

いつもありがとうとか、大好きだよなどといった言葉がデカデカと書かれている。

「この5枚は同じ年齢の子達何ですか?」

僕が読んでいる間に凛が聞いた。

「そうよぉ。仲良しでね。主人が足の骨折った時に千羽鶴を5人で折ってきてくれたのよ。今でも覚えてるわ。あの子達が初めに孤児院で生き物を飼い始めたのよ。なんだっけねぇ。トカゲみたいなんだけどトカゲじゃないんだよって教えてくれたんだけど、、、。」

流石にどんな鈍感な僕でも気づく。


またもやビンゴだ。当たり中の当たり。


「カナヘビですね。」


「そんな感じだったかね。そこからだんだん生き物を飼い始めて鶏とかもいたわよ。」

「あの、母と同じ年齢の4人の居場所とか知ってますか?」

「流石にそこまでは知らないわねぇ。名前ならこの手紙に書いてあるけど。」

四つ折りにされた折り紙を一枚ずつ開けて見ていく。


荒木圭介

中江瑞樹

中川慎太郎

若山大智


予想通り中川慎太郎は母と同い年の施設の子供だった。

「名前だけじゃ、どこにいるかは難しいかしらね。」

「いえいえ、ありがとうございます。」

「あなた達のおかげで懐かしいことを思い出せたわぁ。こちらこそありがとね。他になんか見たいものある?」

「いえ大丈夫です。本当にありがとうございました。」


「6年から5年前おばあちゃんこの家離れてました?」

僕が感謝と別れの挨拶を告げ去ろうとした時、凛が美和子さんへ唐突に質問する。

「ええ、入院していてね。4年間くらいはずっと病院よ。でも何でそんなことが?」


「私、名探偵なんで。」


その時その場を見た人がいたら、満足げな凛以外の2人は口が開いていたのが見えただろう。

衝撃が強い。

美和子さんは不在が当てられたことへ、僕は自ら探偵だなんて名乗るキャラの急激な変化へ。

冷静にみて最後の一言は後で後悔するタイプの発言だ。

改めて礼を言って奥美和子さんの家を去る。





「何でおばあさんが5年くらい前に家にいないことが分かったの?」

「バカ蓮の嘘のお陰だよ。」

「え?」

「蓮のお母さんが来週誕生日でビデオをどうのこうのって奴。冷や汗かいたよ。」

「だから何でその嘘がおばあさんの不在に繋がるのさ。」

「考えてみてよ。私達が数日間でここまでたどり着いたんだよ?警察がここまで辿りつかないわけがないじゃん。んで、辿り着いたら私たちと同じように木暮れ院について知っていそうな、お向かいの奥さんに聞く。この奥さんは苗字の奥さんね。そしたら美和子さんだって、蓮のお母さんが殺害されたことを知っていたはずなんだよ。」

僕はバカだ。そのまま電柱に頭を打ちつけようかとも思えた。

「けどラッキーなことに警察が奥家に調査しに行った時には美和子さんは入院中。多分今は亡きご主人に聞いて調査を終えたんでしょう。」

「でも、ご主人が美和子さんに伝えてなくてほんとによかった。」

「ここからは完全に推測だけど、ご主人は入院中でただでさえ気が病んでいる美和子さんに昔遊びに来ていた子供達の死を伝えるのを避けていたんじゃないかな?多分警察にも美和子さんへの質問は避けてもらうよう頼み込んで。そして退院してから話そうとしていたけど美和子さんが退院する前にご主人が亡くなったんだと思う。」

なるほど。ご主人にかなり救われたのかもしれない。

「もし、嘘がバレてたら怪しまれて教えてくれなかっただろうね。」

「反省します。」

「反省しなさい。まあ、話を変えて、だいぶ犯人に近づいた気がするね。」

父の調べによると現状、被害者は母と同じ年齢の人たちか職員であるところを見ると荒木圭介、中江瑞樹、若山大智の3人が怪しいことになる。

不特定多数から3人の目星を立てられたのだ。進歩と言えるだろう。

「でも、警察もここまでは来て、犯人が捕まえられていないのか、、、。不自然だよね。なんかあるのかな。」

確かに不特定多数から3人の目星を立てられたのは警察も同じことだ。それでも犯人が挙げられていないのはここから先にもっと大きな壁があるのかもしれない。

「取り敢えずその3人の今に関しては今週末会う滝島邦洋さんが1番知ってるでしょ。」

「また、お預けだね。」

「そんなもんでしょ。」



帰りの電車でも事件の話はせず、化学の教師のジョークは本人も面白いと思っているのかについての議論をしていた。






土曜日。

朝5時24分。

僕らは始発の電車に乗り込んだ。










次回から今作品の本章『烏凪城』でのストーリーに突入します!

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