【44.5話】 ウッソ村のハロウィーン ※過去の話し※
ウッソ村があるルーダリア地方にもハロウィーンがある。
村のあっちこっちには顔を模したカボチャを置き、子供達もカボチャ頭になり、コスチュームを着て、家々を回りお菓子をもらう。
何故、家を回ってお菓子をもらうのか?それは、その家にはパンプキンヘッドがいないと確認するため。
何故、子供はパンプキンヘッドの恰好をするか?それは、パンプキンヘッドを呼び出すため。
パンプキンヘッド
どうやら、伝承や文献によると、妖精か鬼の仲間らしい。
普段は精霊界にいるがハロウィーンの夜だけ人間界に姿を現すと言われている。
カボチャに目、鼻、口をくり抜いた頭、貴族や紳士のような服装、ランタンを手にした姿をしている。
出現時間はハロウィーンの日没前後の時間帯、一説には夕日が地平線に落ち始めてから、入りきる間とか、日の入りから1時間程度の時間とか諸説ある。
また、出現には子供達が大勢カボチャ頭になり、楽し気にしているとその雰囲気に呼び寄せられるらしい。大人に見られる事を極端に嫌い、パンプキンヘッドに出て来てもらうには大人は家に隠れていてもらって、子供達だけで探さなければいけないようだ。
出現条件にも諸説あるが、毎年現れるわけではない。どちらかというと5年に一回程度現れたら良い方。
日暮れ時、村内を子供達だけで探すと、どこからかフラっと現れ、村の外に消えていく。
しかし、何故かどこかの家に潜むことが多いらしく、家をノックするとその家の人間に変わり戸口に現れて、捕まえようとするとダッシュで村の外まで逃げる。
パンプキンヘッドが居ない家は家人が出てお菓子をくれるが、パンプキンヘッドが出てくる時は、なぜか家の中の大人は放心状態になるらしく、ノックの音も子供が来たことも記憶のないうちに、次の日等、今年はお宅からカボチャ頭は出たらしいよ、と聞かされる。
なかなか捕まえられないらしいが、捕まえると村に幸福が来るとか、子供達に豪華なお菓子がもらえるとか、言われている。子供達にしたらご褒美よりもドキドキ、ワクワクの楽しい行事。
日暮れの短い時間にのみ出現なので、散らばって回らないと見つけられない。しかし、大勢でないと捕まえられない。結構難しい。
「ちょっと、早く次の家を回るわよ」リリアは手招きしながらハロウィーンを一緒に回っている友達を呼ぶ。
今日は、ハロウィーンだ。ウッソ村でも子供たちも山の向こうに日が落ち始めると手造りのカボチャ頭を被り、家々を回り始めた。リリアの両親は数年前に亡くなり、教会生活をしている。
「待てよリリア、ちゃんとお菓子を貰って、ハロウィーンを楽しまないとパンプキンヘッドは出てこないぞ」ロブが呼び止める。
「そうだけど… 別に今お菓子を確かめる必要ないじゃない、時間ないよ」リリアは山の裏に入りかけた夕日と長くなった自分の影を見比べながら言う。
子供達がそれぞれグループを作り、あっちこっち家を回って歩いている。
“皆、ちゃんと効率的に家をまわってる?どこか見逃してない?”リリアは不安。
「トリック・オワ・トリート」扉をノックして呼ぶ、ドキドキの瞬間だ。
リリアは被り物を直しながら、身構える。なんたって視界が狭い、見逃せないのだ。被ったカボチャの目と自分の視線を合わさないと、相手が誰だか全然見えない。
「ギギィ」ドアが開く。リリアはカボチャを持ち上げながら見上げる。
「なんだ、レイナおばさんか…」思わず、落胆の声が漏れる。
「ロブかい?そっちはカレンだね。リリアは私の家に来て、なんだはないだろ」レイナおばさんが笑いながらお菓子を渡す。
もう日も落ち切ってしまった。村では飾ったカボチャの顔とランタンに明かりが灯り普段の夜より明るい。
「もうほとんど家を回ったわね… もう何年間も現れてくれないけど、やっぱり焦って探しても出てこないのかなぁ…」リリアは被り物を直しながら呟く。
「気まぐれだろ。出る時は出る、出ない時は出ないよ」ロブもカレンも被り物を直しながらリリアを見返している。
「クラウドの家で最後だぜ、お菓子貰えるだけでもいいじゃん、行こうぜ」
言われて、リリアもお菓子を一つ口にする。ハチミツたっぷりの味がするお菓子。
甘くて美味しい。今日初めてお菓子を食べたが確かにもっとお菓子と、友達と村巡りを楽しむべきかも知れない。村の夜も普段よりオレンジに染まっている。
「トリック・オワ・トリート」今年最後のドアをノック。
扉が音を立てて開く。
戸口に立った人物を見上げる。被り物を直しながら見上げる、黒い… あまり見かけない服装… なんか立派そうな洋服。視界が悪いし、戸口が暗くて顔が見えない。
「……… おじさん?」リリアが言うか言わないか…
「リリア、パ、パンプキンヘッドだ!カボチャ頭だ」ロブが慌てて叫んだ。
「ロ、ロブ、カレン!」リリアが慌てて捕まえようと男の足に飛びつくが
フワっ!と跨ぐように飛び上がるといつの間にか通りに立っている。
「…………」長いような、短いような一瞬、三人顔を見合わせる。
「皆!誰か!カボチャよ!カボチャ頭!来た!そこのにいる!」リリアが走り出した。
「わぁ、今年はでたぞ!逃がすな!」子供たちが走り寄る。
パンプキンヘッドは軽やかに村の出口に向かって走り始めた。わざわざ一番遠い出口に向かうようだ、よっぽど自信があるのだろう。
子供達の波がカボチャ頭に寄せるが、フワリフワリ、軽いステップでかわして逃げる。
何か、笑っているような表情、パンプキンヘッドも楽しそう。
リリアも必死に追いすがる。カボチャ頭はチェイスを楽しむように、右に左に、時には壁に上がったり、柵に乗ったり、軽やかに逃げ回る。もうちょっとのところまで来るが、指先を上手にかわしていく。
「逃がすな!!」「俺に任せろ!」
もうお菓子どころではない。貰った菓子をぶちまけながらカボチャ頭を追う。
「もうちょっとじゃないか」「しっかり」「惑わされるな、出口にいけ」
大人たちも騒ぎを聞いて顔を出す。
猛然とダッシュするリリアの目の前でも、友達がカボチャ頭に飛びつこうとしては、転がりながら脱落していく。リリアは巻き込まれて、転びながらも追いかける。大勢が何かを叫びながらリリアの後を追って来る。もう村の出口は目の前だ、今年こそ逃がすか!
「リリア、逃がすな!もうないぞ!」「どけ、俺がいく」
もう、先頭を変わる時間はない、ブランとロイドか?何人かがリリアに並ぶ。
「今だ!飛び込め!」誰かが叫んで、リリア達がパンプキンヘッドに飛びつくのと、村のゲートを飛び出すのがほぼ同時だった。リリアが辛うじてカボチャ頭のズボンの裾を握ったが、後ろから大勢の友達にのしかかられる衝撃を感じた。
「いだぁ…」
大勢の下敷きになりながら、リリアがうめく。皆、息を切らせ、汗びっちょり。
リリアには確かに服を握った感触があったが、乗っかられる衝撃で放してしまったらしい。
地面に潰れながらパンプキンヘッドを見上げると、村を出たちょっと先で立ち止まって、こちらを振り返り、ゆっくり闇に溶け込んでいった…
リリアにはカボチャ頭が楽しそうに笑っているように見えていた。
「今年もだめだったな」「無理だろ、あれ」「今までで一番惜しかった」
皆、息を継ぎながらゆっくり起き上がる。
リリアも起き上がる。残念だけど、爽快感がある。メッチャ楽しかった。
ロブがリリアの顔を覗き込みながら言った。
「おまえ、顎からすごい血が流れてるぞ」ロブが笑ってる。
「ロブも脛をざっくり切ってるよ」リリアも笑う




