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勇者の血を継ぐ者  作者: エコマスク
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【43.5話】 イノガシラ線と蛍と

ハシェックとリリアのなんとなくな関係を続いていた。

リリアは冒険者ギルドに所属しているし、ハシェックは兵士としての務めがあるので、会う回数は少ないものの、何回か二人でぶらぶらして、最後はバー・ルーダの風で皆にからかわれて解散というデートをしている。

何しているとかいうと、屋台でお茶したり、城外でお弁当食べて寝っ転がったりのノンビリデートらしい。

特定の男性と付き合う気が全くないリリアには非常に珍しい。

コトロ達も珍しがってからかう。

「頼まれたって二度と同じ男と寝たりしない、あっさりリリアにして珍しいですね」

「好青年は認めるけど、兵隊さんはフラグ立つだけニャン、やめとくニャン」

「リリたんが、まだ夜をともにしてないなんて、たぶん逆に本気ピョン、良い事ピョン」

「どうせリリアじゃ、喧嘩別れして終わりだぜ」

「ちょっと皆かってな事言わないでよね。リリアは楽しくやってるのよ。ってか最後のコメント、誰よ!リリアの何を知ってるの!」リリアの反論。



日差しも傾き始めた晴天の午後。もう草原も夏程うっとうしくない。あちこちに刈り込んで束ねた枯れ草がロール巻きにように転がっている。

今日、リリアとハシェックはデート中。

城外の川、用水路があり、田園地帯が広がる平野で休憩をしながら武術の稽古デート。

すこぶる健全なデートをしている二人。

城壁と道路が近く、農場で田畑の監視を雇っていたりする比較的安全な場所。

今日は二人で日暮にコトロ達と待ち合わせて、このちょっと先にある蛍スポットで蛍ウォッチング予定。

「ふぅ、涼しくなったとはいえ、さすがに汗かくわね」

リリアとハシェックは剣術の稽古を終え、切り株に腰を下ろし一休み、水とチーズを口にする。

さすがに本職兵士の青年、剣の打ち合わせすると剣線が基本的で綺麗だ。

二人が楽しくおしゃべりをしていると

「…… ハシェック… 何か来るよ…」

リリアは弓を手に、立ち上がり森の方を窺う。

「… そうなのか?何か来るの?何が来るの?」と不思議そうな顔をしながらも装備を手に森を見る。その時…


「イノガシラだ!魔物イノガシラが来るぞ!」畑守が叫ぶ声がした。

見ると木々の間から、蹄の音と、鳴き声を轟かせイノガシラが並んで一直線に走って来る。

イノガシラは知ってのとおり猪の頭だけのデカいやつだ。頭に直接二本足がついていて、何かをきっかけに猛ダッシュしだす。馬車程もある体で走り出したら倒すか、なにかで興奮を沈めないとひたすら爆進する。連中が通った後は更地になる。


リリア達が見ると、イノガシラが直線に並んで爆走してくる。

「イノガシラが線になって、暴走してる!イノガシラ線よ!」リリアが言う。

「イノガシラ線かどうか知らんが、このままじゃキャラバンの列に突っ込むぞ」ハシェックも叫ぶ。

リリアは次々と矢を射かける、ハシェックはクロスボウで射撃。

「こっち来るぞぉ!」「キャラバンに突っ込むぞ!逃げろおおぉ!」

蹄と唸りが轟き、人々が叫ぶのが聞こえる。巡回兵達も加わって応戦する。

「正面に入るなぁ!」「矢を放てえぇぇ」往来のキャラバンが慌てている様子が見て取れる。

リリアも次々と射かける、デカい的だ、猛スピードだが外すことはない。ガンガン連射するリリア。周りもイノガシラに向かって矢の雨。矢を受けたイノガシラは先頭から倒れていく。先頭が倒れると、二匹目以降が躓きながらダッシュが続く。先頭を避ける時にわずかに方向を変える、逆効果? とにかく止めないと。


何匹か倒したがとても全部は無理だ。

「リリア、もういい、下がれ!避けてろ」ハシェックに呼ばれて、リリアも逃げる。

イノガシラ線はリリア達の側を走り抜けていく。地響きと土煙。田畑には連中の作った道が出来ている。

「もういい全部は無理だ!逃げろ」「道を明けろ、このまま行かせろ」「皆、じっとしてろぉ!」

人々が叫び、キャラバン隊が作った隙間をイノガシラは猛然と横断していった…

イノガシラが通った後は柵が倒され、大地が一直線に剥げている。


どうやら、被害はほとんど出なかったようだ。往来の旅行者もキャラバンも被害を避けられた。イノガシラの勢いに驚いた馬が暴れて、多少の被害が馬車に出ただけ。

やれやれ、リリア達は巡回兵に事情聴取と感謝をされ一件落着



「すごい!ウッソ村も蛍凄いけど、こんなに広い草原で蛍の群れを見るのは初めて!」リリアは感激して声をあげる。

秋の虫の合唱が続く中、星空以上に緑の輝きが舞っている、幻想的。

イノガシラの後、リリア、ハシェック、コトロ、ネーコ、ラビは合流して蛍ウォッチング。

茣蓙を敷き、皆、お酒とおつまみを手に光のダンスを眺める。

有名蛍スポットだけあって、結構見物人が辺りにいる。

暗闇に描かれる光の曲線はいよいよ変化していき飽きることが無い。

人は多いが、話し声はあまり聞こえてこない。


リリアはなんとなく、ハシェックの手を握る。兵士のわりにはゴツゴツとした体ではないがさすがに手のひらはマメが潰れて硬い。リリアはなんか恥ずかしくなって

「やっぱり鍛錬してるのね」とそっと言うとすぐに手を放してしまった。

ハシェックの指がリリアの手を追ってきたが、ますます恥ずかしくなってジッとリリアは膝を抱えて座っていた。

蛍が舞い、鈴虫が鳴いている。


次の日、ルーダリア西方の戦線に向けて、軍の派兵決定が国から発表された。


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