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勇者の血を継ぐ者  作者: エコマスク
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【4.5話】 リリア隊長とバフダン岩 ※過去の話し※

ガウムドの死後、アランという村長の息子が村の隊長役をしていた。リリアが父と母を突然失った時、リリアは7歳。村長は村の地主であり、アラン自身、生活に困る身分ではなかったので、その頃から並々ならぬ弓の腕前を見せる勇者の血筋のリリアがいずれ隊長に収まることと、ちょっとでもリリア本人が生活に困らぬように、給料が少しでも高い隊長の地位を王国に申請してくれていたのだ。小さな隊長の誕生だったが、実際にシェリフの活動を始めたのはリリア15歳の時。それまではアランが隊長役をしていた。15歳になったのをきっかけにいきなりシェリフ・リーダーとしてデビューしたわけだが、弓の才能、頭の回転もさることながら、誰にも物怖じせず言いたい事を言ってのけるリリアは職にとって不足なく見えた。


さて、リリアがシェリフ・リーダーになって、しばらくした早朝。

「隊長、リリア隊長!起きて、起きて」

「ん… んん…」と、寝床でちょっとまどろんだが、いきなりガバっと飛び起き素早く狩りに出るときの支度を始めた。だいたい、リリアにとって隊長等と呼ばれるときは何か問題が起きている時くらいだ。若いシェリフはあられもない姿で突然ベッドから飛び出し、着替えを始めたリリアの姿にあっけに取られていた。

「ちょっと、ぼけっとしてないで、何か報告あるでしょ?」もう支度を終えそうなリリア。

「あ、あぁ… それが、垣根のところに魔物がいるのをクワの母親が見つけたみたいで、なんかやばい奴らしいって」

「何なのそいつ。垣根に引っかかってるって、ゾンビ?アンデット?… 要領を得ないなぁ、やばい奴なら皆を逃がして アランに知らせた?… じゃ、アランを一番に、それからシェリフ、自警団全員フル装備で出動!」そう言い放つと圧倒されている若いシェリフを置いて、教会から飛び出していった。

「あいつのベッド、ベルフラワーの香り」シェリフは半ば茫然として呟いた。


リリアが垣根に来ると、村人が数人集まっていた。子供達もいる。

「ちょ、ちょっと魔物でしょ?危ないから離れて、逃げて」そういいながらリリアが近寄るが皆にさほど緊張感がない。

「リリア、怖くないよ、かわいいよ」っと子共が言う。

「… う、うん。 ちょっと可愛いかも…」リリアも思わず頷いた。

なんだろうか、リリアは見たことのない… 石というか岩というか、灰色のゴツゴツした物に顔がついているやつが垣根に挟まっている。しかも二匹。挟まったまま目をキョロキョロしている様が、挟まってしまった悪ガキみたいで愛嬌ある。

何て言うのだろうか、年齢を重ねた梅の実に精神がやどると“オトコウメ”と呼ばれるこんな感じの顔のついた魔物になるらしい。それだろうか?

「ママ、これ飼っていい?」子供がとんでもない事を言い出した。

「お前、ウチには猫がいるだろ」判断は正しいが理由はとんでもない。

「ウチならいい?ウチ何も飼ってないもん」とんでもないが続く。

「ウチは父ちゃんがいるよ」父ちゃん飼ってる?いや、父ちゃんが断るってこと?

その様子を魔物はキョロキョロしなが見ている。

「ウチならいいでしょ?ねぇ、父ちゃん」父ちゃんビシっと子供に言ってやれ、これは魔物なんだ。

「母ちゃんがなぁ… 外でならぁ…」

「待ってえぇ! ダメ!ダメダメっダメ! これ魔物なのよ、ま・も・の!!」どうなっているんだ。慌てて怒鳴るリリア。

「リリアのケチィ」子供の唱和。

「いい!魔物はペットにできないの!絶対にダメ!」リリアも必死だ。

「黒カラス、黒猫、オウム飼っている人いるよ!おとなしいよ、かまないよ!」

「オウムはただの鳥、黒カラスと黒猫は使い魔。魔物とは違うの!」

「座敷童は?天井にいるニシキヘビは神の使いでしょ?ガーゴイルは建物の守り神だよ」拙い知識をフル回転させて押し込んでくる。

「ガーゴイルは… 飼ってるわけではないの、魔力の命令に沿ってるの。神の使いのニシキヘビが人に姿を変えると座敷童になるの… 確か…」リリアも対抗する。とにかくなんとしてでも諦めさせなければいけない。子供達が恨めしそうにリリアを見上げる。魔物の目より怖い。

っと垣根に引っかかってる魔物に目をやってリリアは叫んだ。

「ちょ、なにやってるの!! だめぇぇぇ!」子供が雑草を魔物の口に押し込んでいるのだ。

「エサだよ。さっきからよく食べてるよ」笑う子供。

見ると、ゴリゴリと摺り合わすような音を立てて、雑草を食べている。

「た、食べるのねぇ…」とリリアは唖然としている。

「トム、あんまり変なもん食わすとお腹こわすよ」と母親。

もう何が善やら何が悪やら、しかし、面白くも可笑しくもないっといった様子で黙々と雑草を飲み込んでいく魔物と姿はヤギの食事にちょっとにていて見方によっては微笑ましい。

皆も同じような気持ちなのだろう、ちょっと沈黙と和んだ空気がただよった。鶏の鳴き声が響いていた。


「お前ら、何やってんだ。そいつは突然弾けて、お前ら皆死ぬぞ!」アランが怒鳴りながら走ってきた。

「わーーーーーーー!!」一瞬の間をおいて全員四散する。

全員遠巻きに取り囲み立つとアランがリリアを怒鳴りつけた。

「お前までいったい何してるんだ!死にたいのか!」

「何か近くでみたらハマって、かわいくて、つい… いったいなんなのあれは?」

「あれはバフダン岩だ」アランが言った。

「バフ、爆弾」聞き返すリリア。

「いや、間違うな。バフダン岩、ば・ふ・だ・ん、だ」

「何か違う気がする。ばく、じゃないの?」リリアが言う間にシェリフ達や自警団も集まってきた。皆とりあえず遠巻きだ。

「違う。間違えると大変なことになるんだ。とにかくバフダンなんだ」強い口調のアラン。

リリアは何となく納得いかなかったが各地で傭兵経験もあるアランが言い切るのだから、そうなのだろうと思った。

「で、その、バフダン岩だけど、どんなやつなの?」リリアが聞き返す。

「奴は強いぞ。やっかいだ。刺激を受けると爆発して自爆するが、周囲の相手も巻き添えにして死ぬ。まあ、重傷は確実だ」

「うっ」リリアは石が四散して飛んでくること想像してゾッとした。

「できればやり過ごしたいところだが、場合も場合だ。物理攻撃でも魔法攻撃でも効果はある。できれば剣より、ウォーハンマーかモーニングスター等の重量系でガツンと行きたいところだ」アランはそういって垣根の方を見た。


バフダン岩は様子を見ている。


「近づいたら危ないなら決まりね」そういうとリリアは矢を弓につがえようとした。

「まてまて、かなりの力で打ち砕くと割れて死ぬが、中途半端に刺激すると爆発するぞ!」

「爆発するんでしょ?やっぱり爆弾」

「いや、言うな。やつはバフダン岩なんだ」

「… とにかく、ハマって動けなくって、近づけない以上は葬るしかないでしょ」

「ちょっと様子をみるか」アランは言った。


バフダン岩は様子を見ている。

リリアとアランもバフダン岩の様子を見ている。

シェリフと自警団はリリアとアランの様子を見ている。

村人はその様子を見ている。

子供達はリリアを仇のような目で見ている。

しばらく牛の声が響いていた。



「ラチが開かないでしょ。射る! 盾を持っている者は横一線防御隊形!」リリアが言い放つとシェリフと自警団達が距離を作って並び、盾に身を隠した。

「皆下がって、ケガするわよ!下がって下がって!」

全員の安全を確認すると弓に矢をつがえて引き絞った。


「待て、リリア待て待て」突然アランが発した。

「何なの、今更なんなの!」腕を休めて振り返るリリア。

「リリア、あれば爆発したら垣根が壊れるだろ」

「壊れるでしょうよ。アラン、垣根の心配してるの?」

「いや、ああ、まぁ違うがそのようなものだ。垣根壊すなら、親父に、村長に許可をもらった方がよくなか?」心配そうなアラン。

「はぁ、なんなのよそれ、事後よ事後、あとであなたが報告したらいいでしょ」

「できれば、魔物の襲撃として書類を出して、損失を国から助成したい。村は豊かではないんだ。お前も協力の義務がある、リリア」

「だから、そのまんまじゃない、書類でしょ後でいいじゃない」

「いちよう許可を…」こだわるアラン。

「知らん。し・ら・ん!! 射る! 皆さがって!」


バフダン岩は様子を見ている。

皆もこのやりとりの様子見ている。


ギュ!! リリアが再び弓を絞った。


「リリア、あれ」いつの間にかそばに来ていた子供に袖を引かれた。

「なに、今度はなに、ペットとして飼えないのよ」っと言いながら見た子供の差す方向に…

猫のチャトとトラがバフダン岩の近くでじゃれている。

「な…」さすがに猫と一緒に吹き飛ばすわけにはいかない。リリアは様子をみることにした。


バフダン岩は様子を見ている。

リリアは猫の様子を見ている。

皆もその様子を交互に見ている。

日が上がり、陰が短くなってきた。


「チャト、また子供産むね」子供が呟いた。

見るとチャトとトラが交尾をしだした。もう見てらんない。


バフダン岩は交尾をめっちゃ見ている。

リリアはそっぽ向いている。

大人はちょっと間をもてあましている。

「お母さんちょっとトイレ」誰かがその場を離れていった。


弓と矢を手に半身に立たづづむリリアの後ろ姿は凛として絵になっていた。そよ風が吹くとアップにした髪がサラサラと靡いた。リリアは交尾待ち。

その時リリアはフッとした仕草で弓を絞った。

「な!」アランが声をかけるのと、矢が猫の至近の地面に音をたてて刺さるのが同時だった。チャトとトラは慌てて逃げていった。

準備すると邪魔が入る。そう思ったリリアは、パッと次の矢を引き絞ると

「射る! 頭下げて!」と声をかけると、一瞬にして矢を射た。

“ブっ”鈍い音がして、バフダン岩に刺さった。岩肌ではなく目に刺さったようだ。

一瞬遅れて

“ぐゎっしゃ”と音をてるのと同時にバフダン岩が四散、続いて二匹目もその衝撃で爆発。大小の岩が八方に飛び散ってバラバラと雷のような地響きをたてていった。



村の男達総出で垣根の応急処置をしていた。女達は畑などに散らばった石を拾い集めている。その様子を見ながらリリアとアランが話をしている。

「書類、書類でしょ。書いとくわよ」リリアが言う。

「あぁ、出来ればバフダン岩5、いや10匹を村総出で倒したって」

「見に来られたらバレるって!書類書いた私の罪になるのよ!」口をとがらせるリリア。

「大丈夫。村の全員でうまくやるから。だいたいイチイチこなだろ」

「はぁ… やっとくから。私朝ご飯まだなの、とりあえず書類は後よ」と言いながら立ち去ろうとするリリアにアランは言った。

「今度、俺の股間のバフダン岩も処理してくれよ」リリアが振り返るとちょっとドヤ顔のアランが笑ってた。

「チャトに相手してもらって」そういうとリリアはさっさと歩き去った。


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