【39話】 契約マッチ第一試合
闘技場の控室で試合待ちのリリア。外は歓声で溢れている。
今夜は有名なタイトルマッチがあり、リリアは前座試合として、マッチを行う。
リリアの控室には、サポートでついて来たラビ、出来る女キャシィ、リアルゴールドの人、ハンズマンの人、闘技協会の人、マッチコミッショナー、勇者管理室のディルがいる。
偉い人いっぱい。ちなみにうさ耳ラビはリングガールと間違われ、連れ出されそうになっていた。早くも波乱の予感。
昨日、ルーダ港の広場でリリアの握手会を行った。宣伝ばっちり。リリアは街中を歩いたが、リアルゴールド系列のお店にはリリアの試合のポスターが張られていた。剣を構える凛々しいリリアの姿が… リリアは感心しながらポスターを見ると目に画鋲が刺してあり、胸に乳首、お尻には違う剣が突き立てられ、吹き出しつきで“夜の剣技も凄いのよ”と落書きされていた。教育のなってないガキ共め、現行犯を見つけたら真っ先に成敗よ!
ポスターにはサブタイトルを添えて“戦乙女リリア (世界の男はリリア様の前に膝まづくのよ)”と書かれていた。有名ワードをかけ合わせたらもっと有名になるとでも思っているのか、小賢しい。
リリアの対戦相手はマウンテン・エンペラー・コングだそうだ…
キングよりランクアップ、エンペラーの上にマウンテンらしい… 大丈夫か?強そうだぞ…
「相手、強すぎない?あたし剣盾得意じゃないよ」リリアはキャシイに言うが
「相手との体格の差が明確な程、相対的に… 《以下省略》」
とにかく… 決められた事をこなすしかないらしい…
「まず呪文を大きな声ではっきりと唱え、十分間を作って剣を抜き… 最初はやられを演出… 何度かピンチに陥って… 心肺停止から鼓動が再スタート… からの逆転勝利… これを可能な限り演出してください。後、試合後のインタビューはリハーサル通りです。」
心肺停止から?… その部分だけでも心配続き…
「……… 心肺停止は聞かなかった事にするけど… その…全部の演出は… コングは仕込んであるの?」当然の疑問。
「コングはチンパンジーより知能が低いんですよ、正気ですか?」と呆れられた。
本当はこっちが表情にだして呆れたいところだ。
男どもはリリアの胸元にメッチャ熱い視線を送ってきている。
「リリたん、ファイト!ファイトぴょん!」
「リリア様、もっと中央へ!もっともっと中央へ!」
大歓声の中、セコンドスペースからラビとキャシィの声が聞こえる。ラビはともかくセコンドくらい、経験者を付けるべきじゃないのか?
コールとともにフィールドに立ったリリア、歓声が凄い、大人気みたいだ。
が、檻のなかのコングを見て驚愕。デカい!想像以上!まさに山の塊が動いているようだ!
興奮剤を使われているのか明らかに目つきが変。涎をまき散らし目を血走らせてすでに大暴れしている。
なんか… 股間のエンペラーまでマウンテン状態、ガンガン行こうぜモード。
女勇者の試合に全然似つかわしくない。
「ちょっと無理無理!ギブ!降参!降参!白タオルどこ!」コングの異様なデカさ、興奮ぶり、尋常ではない、リリアはすっかりビビってセコンドスペースの壁にへばり着いて叫んでいる。
「リリア様!もっと中央へ!早く早く!」キャシイが怒鳴る。人の命だと思って…
「無理でしょ!あれ見えるでしょ!契約違反でいいからお願い!白いタオル投げて!ほらタップ、壁タップ!ギブアップよ!」リリアは叫んで必死に壁をビタビタ叩いている。
「リリたん、タオル全部花柄でリアルゴールドのロゴ入りピョン」ラビが申し訳なさそうに言う。
「そんな問題かぁ!何でもいいから投げ込んで!これじゃ明日の朝はスポーツ紙の一面どころか三面にリアルゴールド、お悔やみ欄にリリアの名前が載っちゃうよ!いいの?ダメじゃない!」試合より試合を止めるのにリリアは必死。
「リリア様ぁぁ~」にわかファンが花束を投げ込む、そんなん要らんねん…
そんな中、アナウンスが流れ、ゴングが打ち鳴らされて、コングの檻が開かれる。
リリアのプロデビュー戦の始まり。契約イルミネーションマッチ第1試合の始まりだ。
“もうダメ、こんな死に方したくない。父さん母さんに申し訳ない、覚悟を決めないと、生き残らないと”
檻のゲートが開かれる。コングは大暴れ。リリア、剣よ剣を構えるのよ、呪文を唱えて剣を抜くのよ…
「勇者リリア参上!商人ギルド・リアルゴールと」まで唱えた時だった。まだ半開きのゲートからコングが暴れ出て来る。
“デカい!早い!”と思った時だった、リリアの姿を認めたコングが飛び上がって拳を振るってきた…
「……… なに?何があったの?…」
コングにぶん殴られて、フィールドの片隅まで飛んだリリアはしばらく失神したらしい。
「… ふぐぅ…」リリアは唸りながら身を起こす。
気がつけば、両鼻から滝の様に鼻血が噴き出ていて、鎧が大きくへしゃげている。
「うげ、っぺ… っぺ…」口の中も血だらけだ。コングは興奮のあまり、リリアに目もくれずフィールドを暴れまわっている。
「リリア様、ナイス!さぁ、ここからカムバック」とキャシィ。
「おおお!すげぇなぁ、ガチっぽい、本格派ハードコア!」観客。
皆、演出だと思っているらしい。どこ見てんだ!お前らが代わりに死ね!
「リリたん… 大丈夫!」ラビは目が点になり真っ青。ラビ、今度ニンジンサラダご馳走するね、生きてたらね…
「立てえぇぇ!立つんだリリアァァァ!」キャシイが叫ぶ。どこかで聞いたようなセリフ。でも、リリアに明日はなさそうだ。
「あたしもうだめよ… むしろここで燃え尽きたいよ…」リリアは呟く。
顔が腫れて鼻血が止まらず、ロレツも回らない。もう剣も抜けないよ…
「父さん、母さんごめんなさい。こんな死に方でも、あたしを迎えてくれる?」リリアはペンダントに手をかける。全てが悲しく、腹立たしい。
「……… そうよ… このままじゃ死んでも死にきれない。あいつら、リアルゴールドと関係者、一発くらいリリアのドラゴンフィッシュブローの餌食にしてやりたい…」
そう思うと、リリアは柄から抜けない剣を握り、雄たけびを上げながら、マウンテン・エンペラー・コングに向かって暴れこんでいった。




