【32.5話】 真の勇者と偽勇者 ※少し前の話し※
リリアは雨に濡れながら、村外れの木陰で弓を抱え寝ようとしていた。
もう夜中過ぎ、目と鼻の先には村があり、柵の向こうにはキャラバンが休んでいる。人の話し声、笑い声が明るく響いて来る。リリアは濡れながら木陰で潜むように座って休んでいる。体はびしょ濡れ、悔しいのと悲しいので寝ようにも寝むれない。
日が暮れてからこの村に到着したリリア。ちょうど雨も降り始めた頃にようやく宿屋に飛び込む。やれやれぎりぎり雨に濡れずに済みそうだ。
宿屋にチェックインしようと宿泊カードに必要事項を書き込んで受付に渡すと尋ねられた。
「リリア…様ですか? 勇者リリア様」
“あら?あたしが勇者リリアだってばれちゃっているのね?こんなちっぽけな村だけど、ちょっとやるじゃない。サインでも握手でも気軽に応じるわよ”認定勇者は国の顔だ、印象良く、愛想良くニコニコと笑顔を見せるリリア。
「あの、困るんですよ、ちゃんと本当の事を書き込んでください」
強い口調で注意された…
リリアは宿屋のカウンターでもめている。
何でも最近、勇者リリアを名乗る女性冒険者が急増中で、この宿屋でも偽の小切手をつかまされたらしい。そんな事とリリアと何の関係がある!!
リリアは自分が本物だと言い張るのだが、いい加減にしろ的な扱いを受ける。カウンターの小娘生意気だ、いちいちとげのある嫌みな言い方をしてくる。ちっぽけな田舎は宿屋の教育もなっていない、嫌になっちゃう。
あんまり言い方に腹が立つのでリリアは
「うるっさいわねぇ!そんなに言うなら朝食込みで現金前払いよ!」と支払いをぶん投げてやると、その受付のときたら、「脅されて、コインでケガさせられた」とうずくまって騒ぎだした。
くだらん、バカバカしいと思っていると、宿屋の用心棒が二人来た。
「ちょっと何すんのよ! 出ていけ?つまみ出してやる? 冗談じゃないわよ、お金払ってるんだから! だから触らないでよ! この娘があまりに失礼だからよ!」
アウェイ感爆発だが、リリアは悪くない。用心棒達を振り払う。
“こっちは客よ、つまみ出されるなんてとんでもない、酒のつまみの一つでも出される身分“
もめていると今度は村のシェリフが来た。
“シェリフが来てくれた、あたしもシェリフあがり、やっと話の通じる人達!”っと思ったリリアだが、ちっともリリアの話を聞こうとしない…
「偽勇者から被害?お気の毒様、でもあたしには関係ないでしょ!! だからリリアよリリア! 本物よ! 証拠? ほら、ギルド証… 聞いたことないギルド?… あんたらが知らないだけでしょ!…あるのよ! 住所ここ!ギルドの登録番号がこれ!… リリアの冒険者登録番号がこれ!… フルネーム? どうかしてんじゃない?信用ならない相手にフルネーム名乗るわけないじゃない! この村に国の機関は無いの?問い合わせなさいよ!」
相手はハナっから追い出そうとしているのだから、何を言っても通じない。
受付の娘はうずくまり、脅されて、暴力を振るわれたと泣いている。
冗談じゃない!なんで偽勇者のせいで本物勇者がこんな酷い目にあわされるんだ。リリアだってささやかだが国民を救っている、こんな事にくじけてられないのだ。
「勇者がこんな村に来るわけない? 勇者は、冒険者は行きたい所はどこでも行くわよ! 勇者の鎧?恰好が勇者じゃない? 何着たっていいでしょ!勇者の自由よ! 偏見よ、偏見!」
シェリフと用心棒達が強硬手段に打って出だす
「いや!なんであたしが! 本当よ!本物なの! 大人しく出ていくか?牢屋に入るか? 冗談じゃない、お金も払ってるのよ?… 牢屋なら罪名は何よ!違法逮捕よ!…… 脅迫?暴行傷害?偽称?公文書違造? バカな事言わないで、本物だったら! 武器準備罪?弓刀法違反? じゃあそこで飲んでる人達どうなの!剣を帯びてるじゃない! 弓を手に持っている?たまたまよ!弓は手で持つでしょ!ルーダリアの通貨を投げたから侮辱罪?」
いくらでも押し付けてくる、こんな不正行為があるか!許せない。
「気が強そうな顔してる?殺気のオーラが出てる?胸が大きすぎて異性誘惑罪?公然猥褻? いいがかりじゃないの!こんな事が許されると思ってるの?」
いい加減にしろと、寄ってたかって押さえつけられそうになるリリア。
取り付く島もない。リリアは国のために努力しているのに誰もリリアには協力してくれない。泣きそうだ。
「痛い、やめて!痛い、いたあぁい!」すっかり犯罪者扱いだ!不当だ!酷すぎる!
リリアの髪ひっぱらないで!最近奮発してちょっと良いシャンプーしてるのよ!
リリアの腕はそんな方向に曲がらないのよ!脱臼しそうよ!
ブラウス破れちゃう!レース付きの新品なのよ!気に入ってるの!雨が降る前に必死にここまで来たのよ!やめてったら!
ちょっとかってに弓に触んないで!尊敬するローゼンさんからもらった大切な高級品よ!リリアの稼ぎじゃ買えないんだから!
やめてったら!今日せっかく弦を入念に調整したんだから!武器屋に頼んだらいくらすると思ってんの!微調整を重ねてやっと納得いくセッティングしたんだから!
いやぁぁぁーーー、ホントにそれ勘弁!ペンダント触れないで!父さんと母さんの形見!痛い!チェーンが切れちゃう!何でも言う事聞くからペンダントだけはやめてえぇぇ!
「や・め・て・よ!」リリアは叫ぶと「バキ!」っとシェリフを殴ってしまった。
“あぁ、思わずやっちゃったもう言い逃れ出来ない”リリアは用心棒も振り払うと宿屋から逃げ出した。
雨が降り出し、闇になった村を物陰に潜みながら逃げ回るリリア。すぐに応援が呼ばれ、村のシェリフや自警団がリリアを探し回り始めた。村内にリリアの居場所はない。リリアは柵を超えて、森に逃げる。本当に犯罪者扱いだ。
森に逃げたが、森の中深くをさまようわけにもいかない。命の危険を冒すくらいなら、村で捕まった方がまし。
結局、いつでも村に逃げ込める距離の木陰に潜んで朝を待つことにした。
村ではリリア狩りを諦めて静かになって、休息中のキャラバンから人の話し声が聞こえて来た。
リリアは腹が立つやら悔しいやら、全てがバカバカしくって涙も流れない。
「せっかく調整したのに弓が湿気ちゃう」リリアは呟きながら雨を凌げるように弓を抱えて木陰に座っている。
リリアはへとへとに疲れているが、まだまだリリアに眠気が訪れそうにはなかった。




