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勇者の血を継ぐ者  作者: エコマスク
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【27.5話】 リリアと床ジョーズ ※過去の話し※

リリアのシェリフ・リーダーもだいぶ板についてきた頃の話し。


「誰かしら?粗大ごみの日、間違えてる…」

薬草の束を手に村に戻って来たリリアは村の柵まで程ないところにベッドが三つ置いてあるのを見つけた。

「………… 何かしらね…」通りすがりながら見ると、大人用ベッドが二つ、赤ん坊用が一つ草原に置いてある。今日は粗大ごみの日でもなければ、粗大ごみを置く場所でもない。そもそも、マット等の感じからすと新品同様のようだし、村人が所有するベッドとは立派さが違う。そんな物が野原に置いてあるのだから、違和感爆発である。



「アラン、ちょっとベッドを運ぶの手伝ってくれない?」リリアは昼食を終えて山に向かおうとしたが、教会を出たところでアランに出くわしたので、放置されたベッドを一つ自分の部屋に運ぼうと頼んだのだ。

「新品のベッドが放置してある?持ってかえる?それは所得物横領じゃないか?」

「いいの、いいの。捨てるんだからもったいないじゃない」リリアのオンボロベッドが立派な新品ベッドに変わるのだ、見逃す手はない。


「……… あれ… 無くなってる…」先ほどの場所に来てリリアはちょっと首を傾げた。ベッドがなくなっているのだ。誰かが持って行ったのか?

「ベッドってあれか?あそこに三つ」アランの指さす方向を見ると、柵のすぐ側に先ほどのベッドが三つならんでいる。誰かがこの中途半端な距離を移動して再放置したのだろうか?

「いや、お昼前に見た時は、あっちにあったんだけど、誰か運んだのかしら」言いながらベッドに近寄ってリリアは驚きの声を上げた。

「え!! このベッド動いてるわよ!」

見るとベッド三つともゆっくりだが、移動している… いや、4本足で歩いている。

リリアが近づくと、ベッドはどれも移動を止めた。

「リリアいかん!近づくな! そいつらはベッドじゃない! 魔物だ、魔物・床ジョーズだ」アランが後ろから叫んだ。



村人、シェリフ、自警団が柵の側のベッドの周りに集まりワイワイしている。

ベッドの周囲には “立ち入り禁止・ウッソ村保安部”と書いてある黄色地のロープが張り巡らされている。

「隊長、村人全員の無事を確認しました」

シェリフが村人全員の安否確認を行ってリリアに報告した。

どうやら被害者は出ていないようだ。とりあえず一安心。シェリフと自警団は盾を手に囲んで集まっている。村人の大半が仕事そっちのけ、子供達ははしゃいでいる。



アランの話しではこのベッドは床ジョーズという魔物らしい。旅人等の獲物を求めて自走?してはダンジョン、廃城、タワー等で疲れてベッドに寝ころぶ冒険者や旅人を待ち構えている。ここにいる三つはどうやらベビーベッド、成人用ベッド、老人用ベッドの親子三代だと言うのだ。

リリアには小さく足が長いのがベビーベッドだとわかっても、他の二つの違いがわからない。

アランに質問すると、老人用はマットがゆるやかなN字になっていて、弱った老人や腰の悪い冒険者が寝起きしやすそうだとうっかり寝ころぶのを待っているらしい。


けっこう種類が多く、下のリストの同種族がいる

カーテンレール付き床ジョーズ 貴族等を専門に捕食

診察用床ジョーズ 傷つき治療目的の冒険者等を捕食

円形回転床ジョーズ カップル専用

マタニティ床ジョーズ 妊婦専用(足とか開脚固定される)

仮眠床ジョーズ ちょっと寝たい人を捕食


獲物が寝転がると“バッシャーン”とスプリングをきしませて、V字にマットをたたんで捕食するとのこと。ちなみにジョーズと呼ばれているが、歯は無いらしい。一度V字にたたまれると大の男数人がかりがテコを使っても口を開けない、口の固いやつ。


床ジョーズはミミックのようにウェイト・アンド・イート系

人の睡眠という欲求につけこむそうとうアコギな連中だ。


リリアが説明を受けている間に、子供たちは面白がって、床ジョーズに石や木刀を投げ与えるものだから、床ジョーズは「バッシャーン」と口を閉じては「余計なことすんなよ」とばかりに「ぶっ!」と石だか木片だかを吐き出す。子供は延々と繰り返している。気が散るし、なんか床ジョーズに気の毒。

魔物の食欲という欲求につけこむ無邪気で始末に負えない連中だ。


「ねぇ、ダンジョンにあのベッドがあったとして… 寝ころぶ?… 怪しすぎない?」リリアは最初からあった疑問を口にした。山奥やダンジョンに新品ベッドなんて変過ぎるだろ。

「おまえは部屋でベッドに寝るか?地べたに寝るか?」

出た!質問に質問返しだ。“君いくつ?”、“あたしいくつに見えますか?”的なやつだ。



結局、種明かしされていれば大して危険はないようだが、どこかで誰かが被害にあいかねないので、日にちを前倒しして燃えるゴミとして処分することにした。

燃えるゴミを集めて今夜は村の外れでキャンプファイヤーだ、子供たちは大喜びだろう。

リリアも焼きチーズを楽しみたい。


「燃えるゴミは今日やるけど、書類の日付は正式の日にしとくからな」アランが言う。

「はいはい、好きにどうぞ」リリアは軽く答えて山に向かおうとする。

「おい、所得物横領未遂の件は皆に黙っといてやるからな、こう見えても俺の口と股間は床ジョーズより硬いんだ」

リリアが振り返るとアランが“俺、上手いこと言ってやった”感丸出しのドヤ顔で立っている。

「あ、早いとこ良い人見つけて捕食されちゃって」

リリアは足早に山に向かった。

最近トンボが目立って来た季節の話し。


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