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勇者の血を継ぐ者  作者: エコマスク
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【11.5話】 リリアとユニコーン ※過去の話し※

ウッソ村から山に入り北にあがると“清めの泉”がある。村からは大人の足で一時間かからないくらいの距離。山からの湧き水が絶えず溢れ、作物の育ちが良いウッソ村の生命線となっている。泉というには大きく、ちょっとした湖程度はある。その中ほどにちょうど上部が平らになり、踊り場になったような岩がある。村の人は満月の夜にはその岩にユニコーンが降り立ち水を飲むと言い伝えていた。

リリアは日中何度もその清めの泉に行ったことがある。素晴らしい景色だ。動物が水を飲みに来る。山中からゴブリンが出てきて水を汲むことがあるとも言われていたので、あまり泉の奥まで探索したことはない。リリアは絶対ユニコーンを見てみたいと思っていた。



「リリア、帰ろうよ」満月の光を浴びながら茂みでユニコーン待ちをしているリリアにショウが言った。

「ダメだよ。今日見れなかったら、次の満月は雨の季節だよ」リリアは答える。

どうしてもユニコーンを見てみたかったリリアは村の子を誘って、夕方、村を抜け出して清めの泉まで来たのだ。何人かに声をかけたると「俺も!俺も!」と名乗りを上げていたが、結局来たのはリリアとショウだけだった。

「リリア、怖くないの?」ショウが聞く。

リリアもこんな時間に山にいたことは無い。想像以上に山は不気味で怖かった。木々の間の闇は濃く、見ていると吸い込まれるようだった。リリアは満月の明かりが踊る泉の水面ばかり見つめながら、無言で頭を横に振った。

「ユニコーンは満月の夜しか来ないのよ」といいながらも、“夜“とはどの部分の夜なのだろうか、さっき夜になったばかりだが、日が上がるまでずっと”夜”なのである、リリアも不安だった。

満月の光が水面で小さく揺れている。


「なぁ、怒られるぜ」ショウが口を開いた。

「怒らせとけばいいわよ… 今戻ったって怒られるよ」当然怒られるだろう。リリアが何かに挑戦しようとするとたいてい村の誰かに怒られる。ユニコーンさえ見られればお釣りがくる。

「ショウ、武器持ってきた?」リリアは懐から果物ナイフを取り出してみせた。何かに襲われた時用に持ってきたのだ。

「俺、これ」ショウは枝を落とす小さい斧だ。

そして、十字架のペンダントを見せ合った。これで吸血系も万全だ。

「俺、これも持ってきた」そういうとショウはニンジンを出してみせた。

「…おやつ?」

「ちっがうよ。ユニコーンにやるんだよ」

「…食べやしないわよ、ユニコーンは何も食べないのよ」リリアは言う。

「そんなことあるか、食べるよ、何か食べるよ、馬のかっこうしてるんだからニンジン食べらぁ。水飲みに来るんだから何か食べらぁ」

「……」確かに、水を飲むのだから食べるか。リリアはかってに何も食べないと思っていたが、水飲むくらいだから普通に何か食べかねない。ちょっと感電蜂に刺されたような衝撃を受けた。

「俺、ニンジンあげて仲良くなったら、乗せてもらうか羽もらうんだ」ショウは得意げに言う。

「……」ニンジンあげたからって乗せてくれるだろうか?リリアには無理な気がするが、先ほどから言うショウの説も無下には出来ない気にもなる。村の嫌な大人もリリアにアメ等くれる時があるが、もらうと途端に親近感がわいてくる。母メル等はかなり高確率でご飯のおかずを分けてくれる。女神様のように見える。食べ物をあげるのは仲良くなるのに有効な気もする。

リリアは考えていたが、気になってショウに言った。

「…ユニコーン、羽ないよ。翼無いもの」

「翼あるさ、ユニコーン」ショウが強く答える。

「ないよ、それペガサスよ。あたし、幻獣百科でみたもん。ペガサスが翼、ユニコーンは角があって翼ないよ」自信を持って言うリリア。ミ・ズキシ・ゲルの幻獣百科にあったのだから確実な情報なはずだ。

「じゃ、どうやってあそこに降りるんだよ」ショウが泉の真ん中にある岩場を指さす。

「……」確かに… 飛ばないとあそこにいけない。いや、泳ぐのかな?いや、“降り立つ”というからには飛んで来るはずだ。そもそもバチャバチャしながら必死に岩場まで泳ぐくらいなら、水際で水を飲んだら良いだけだ。伝承に相応しくない。

「なくても飛ぶんだよ、翼」リリアはきっぱり言う。

「はっ!お前バカじゃねぇ。翼無いのに飛べるやついるかよぉ!」

確かに… 何か言い返してやりたいが、翼無しで飛べる動物や魔物を思いつかない。

「それでも飛ぶのよ」リリア。

「どうやって飛ぶんだよ」とショウ。

「… 血で… 飛ぶのよ…」リリアはとっさに魔法のホウキにまたがり宅配をする少女の物語にあるセリフを思い出した。

「血で飛ぶってなんだよ。血で飛べるなら俺もお前も飛べてらぁ」ショウに笑われた。悔しいがその通りだ。


「あたし達、あそこには行かないんだよ」リリアは気が付いて岩場を指さした。

「そっかぁ… そうだよね…」ショウはちょっと残念そうだった。

またしばらく静かな時間が流れ、フクロウの鳴き声が響いた。



“この話は12.5話に続くのじゃ”

そんな声がリリアの耳に届いた気がしたが、こんな森の中でそんな説明調なセリフがあるわけがないと思い、リリアは聞かなかったふりをしていた。


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