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勇者の血を継ぐ者  作者: エコマスク
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【8話】 タン村の夜

リリアは宿屋のベッドの上に転がっていた。

夕暮れちょっと前の時刻で小さい村の小さい宿屋だ。

「やっちゃったなぁ…」ちょっと呟く、深刻ではない。何事もなく荷馬車の護衛を終え、荷下ろしを手伝だって12Gを手に入れた。問題はルーダリア王国から北に上がったタン村に来てしまったことだ。リリアが行きたかったパウロ・コートの町は途中を西に折れた道の先だったらしい。門から出るキャラバンが全部パウロ・コート行きだったので何の疑いもせずに馬車の護衛になったが、あの男の行き先はこのタン村だったらしい。途中で男の会話の中でそれに気づいて聞き直したリリアだったが、時すでに遅し、行き先は変えられない。かと言って、行ったこともない町を一人で歩いて目指すのも危険過ぎる。

「わしは、知っとったと思ったよ。パウロは大きな商人ギルドが牛耳っとる。わしらみたいなのしか、こんな村にわざわざ来んよ」男が笑って言っていたのをリリアは思い出していた。その男は、この村に親戚がいて、数日滞在して、ボットフォート首長国から国境を越えてくる荷物を買い取ってルーダリアかパウロ・コートに向かうらしい。

明日、この村から商人がどこかに向かうのに便乗するか、ここに数日滞在するか、自分の足で移動するかだ。今日の稼ぎは12Gあったが、宿代に10G払って手持ちが9Gだ。のんびりはしていられない。

リリアは宿代10Gと聞いて、一度男の馬車にもどり、一晩荷台で寝かせてくれと頼んだ。荷台で寝るのは構わないが、女が荷台に寝ていたら兵士達に襲われると笑って言われた。

「兵士でしょ?守るのが仕事でしょ?」っと聞き返すリリアに向かって男は、

「お嬢ちゃん、わしは魔物の子を孕んだって話は聞いたことないが、兵士の子供を孕んだって話は腐るほど聞かされる」と事も無げに笑って答えた。

確かに、国境が近いせいか村のそばに兵士の野営陣があり、村人より兵士たちの数が多い。

荷物だった葡萄酒は兵士達の胃に入るのだろう。

そんな事を思い返していたリリアは夕暮れの中でうたた寝を始めていた。

部屋は蒸し暑かった。


「お腹すいた… お風呂浴びたい…」

リリアはベッドの上で伸びをして呟く。辺りはすっかり暗く、食堂は大賑わいしている声が聞こえる。“そんなにお客がいるの?”さっきまで静まり返っていた宿の中が騒がしくなっていてちょっと驚いたが、これなら明日、どこかに向かう商人もいそうだと安心した。

手持ちは9G、今晩と明日の朝食べている余裕はない。食べるならどっちかだ。しばらく部屋の隅でクモが巣作りするのを眺めて悩んでいたリリアだが、意を決すると食堂に出ていった。


食堂のカウンターまで来て、リリアはびっくりしていた。騒いているお客は全員兵士達だ。確かに士気は高そうだが、乱暴そうでもある。まあ、着ている鎧が立派なだけで、村の男達も集まるとこんな感じかな?リリアは思う。旅人や商人らしい姿はぜんぜんない。

「ね!ちょっと宿代負けてくれない?」リリアはカウンター越しに宿主に頼んでみた。

「余裕があるように見えるかい、お嬢ちゃん」指さす方向には壊れた椅子、テーブル、サラ、その他色んなものが押し込めてある。なるほど、確実に賑わうようだが結構損失も大きそうだ。そして宿主はお酒を注ぐ手を休みえずに続けた。

「だいたい、金もってない奴が自分の村から出るんもじゃねぇよ。物乞いするなら町から出てちゃいけねぇ」

「… 確かに…」リリアは納得するしかない。

しかし、ちょっとリリアを気の毒に思ったのか、宿主は小さな紙に何事かを書き込んでリリアに渡しながら言った。

「明日、日の出前からビュッフェの朝食なら食えるぜ、それで良いならこの部屋番号の書いてある紙を持ってきたら食える」

「ありがとう」ビュッフェが何かリリアはわからなかったが、食べられるなら何でも良い。そう思って紙を見るとリリアの部屋番号が書いてあるその紙片をポケットにしまう。

「部屋番号?そんなに部屋ないでしょう…」ちょっと呟いたが、たぶん何かの決まり事のようなものなのだろう。深く考えてもしかたがない。

「よし!朝ご飯確保!」そう言って、部屋に戻ろうとした時、後ろから兵士に抱き着かれた。

「お嬢ちゃん、この辺でみないねぇ。旅人?美人で良い体だねぇ。俺たちと一緒に飲もうぜ!」声をかけながら遠慮なくリリアの体を触って来る。

「いいわ、あたしお酒よりお腹が空いてるのよねぇ」相手の腕をちょっと除けながら言うリリア。

「お!いいねぇ、いいねぇ、乗りがいいなら大歓迎だぜ」そういうとリリアをグイグイ引っ張っていく。

リリアが兵士達に紛れてテーブルに着くと、男たちの歓声があがった。


リリアは愛想良く笑いながら、自分の近くに盛られた野草料理を小皿に取り分けると小さな声で呟いた。

「夕食確保」


兵士達が争うようにリリアに話しかけてきていた。

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