夫も愛人を囲っているので、私も愛人を囲ってみた
夫も愛人を囲っているので、私も愛人を囲ってみた
私、結婚に夢をみておりましたの。
ご機嫌よう。私、ジェニファー・ナミュールと申しますの。ラファエル・ナミュール公爵と結婚してもう十年になりますわ。
私、貴族としてはおかしいかも知れませんけれど、昔は結婚に夢をみておりましたの。あくまでも政略結婚。でも、ラファエル様はとても紳士で優しくて、格好良くて素敵なお方。ラファエル様の婚約者であることを様々なご令嬢方から羨まれ、妬まれたくらいでしたわ。ですから、もしかしたらラファエル様なら、物語の主人公のように私だけを愛してくださるのではないかと思って、ラファエル様との結婚を夢見ておりました。
でも、結婚してすぐにその夢は壊されましたわ。結婚して早々に、ラファエル様は愛人を領内に囲ったのです。…まあ、自分の両親を見ればわかることでしたし、むしろ結婚相手と恋仲になるのははしたないとすらされる時代ですもの。本当の恋は愛人を持ってから。ええ、そうでしょうとも。ラファエル様が特別最低なわけではありませんわ。むしろ、ちゃんと夫としての役割は果たしてくれる良い旦那様ですもの。文句は言えませんわ。あの愛人とはちゃんと避妊していたみたいですしね。
ラファエル様は、ちゃんと私との間に子も作ってくれました。私は今、二男三女の子供に恵まれていますわ。…もう跡取りを産むという役割は果たしましたし、そろそろ私も愛人を囲ってもいいですわよね?
「で、その話と俺になんの関係があるんだよ」
「もちろん、貴方に私の愛人になって欲しいのよ!」
私がそういうと飲みかけの紅茶を勢いよく噴き出す私の親友。彼はグエン。グエナエル・ミィシェーレ。侯爵家の次男だったので騎士になり、騎士爵を持っている。
「お前何言ってんだよ!いくらラフに八つ当たりしたいからってなんでよりにもよって俺なんだよ!」
「あら、確かにラファエル様とグエンは仲が悪いけれど、それだけのために貴方を選ぶわけないじゃない」
「じゃあなんで俺なんだよ」
訝しげに私を見つめるグエン。そんなの決まっているじゃない。
「貴方が初恋の相手だからよ」
再び紅茶を噴き出すグエン。あら面白い。
「おっ…お前っ!からかってるだろ!」
「あら、ひどい。一世一代の告白なのに」
私がわざとらしく悲しんでみせるとグエンは私を睨んできます。
「お前なぁ…」
「私ね、確かにラファエル様との結婚に夢をみていたけれど、それは貴方を忘れるためでもあったのよ?」
まあ、それがばれてからラファエル様は貴方に積極的に喧嘩を売りに行くようになってしまったけれど。
私がそう言うと、グエンはびっくりしたような表情でゴクリと唾を飲み込む。
「お前、本気か?」
「本気も本気よ」
だって、結局貴方しか愛せないんだもの。
「…、…ジェニー」
「ラファエル様も愛人さんと真実の愛とやらに目覚めたみたいだし、ね?」
だから、私を選んでくれないかしら?
「ジェニー。俺も、お前のこと、ずっと…」
「グエン…」
そうして私達は、めくるめく時を過ごした。
ー…
「やあ、ジェニー」
「あら、ラファエル様。今日は別棟にお泊りではないのですか?」
「君がついにグエンの奴を囲ったらしいから、お祝いに」
そういうラファエル様…ラフはめちゃくちゃいい笑顔。
「もう!ラフったらデリカシーがないわね!」
「いいじゃないか。俺たちの計画が上手くいったお祝いだよ」
そう。私達は幼い頃からお互い、好きな人がいた。しかし家の都合で望む相手とは結婚出来ない。ラフ様とその相手は恋仲だったため結婚後に愛人として囲えばそれでよかったが、問題は私とグエン。周りから見るとどう見ても両思いだったそうだが、グエンは頭が固いため愛人にはなってくれなさそう。だから、私とラフは長年かけて一芝居打ったのです。
「しかし君も策士だねぇ。グエン一人を手に入れるためにここまでするなんて」
「あら、悪い?」
「いやいや、感心しただけだよ」
ケラケラと笑うラフ。もう。
「お幸せにね」
「ラフもね」
こうして私達は幸せになれました。…悪女?なんとでも。私はグエンと幸せになれればそれで構いませんわ。
みんな幸せだしいいよね!