冒険者ってなんだっけ?~シン視点~
お越しいただきありがとうございます。
ブックマークが200到達しました!
沢山の方に読んでいただけているのだなって思うと感無量です。ありがとうございます。
あ、そんな目で見ないでほしい。
気持ちはわかる。俺だって楽しみにしてたんだ。
仕方ないじゃないか。いくら親しい人からの紹介といえど、まだ知り合って間もない他人を置いて家を空けるわけにいかない。
まだ短い期間しか住んでないけど、それでもここはもうなくてはならない家だし、俺もロサも著作に関する重要書類だってあるし、作りかけの素材だって完成品だってある。
だから、不可抗力で……。
わかってるよ。そんな目で見なくってもちゃんとわかってるから勘弁してくれ。
俺だって楽しみだったんだ。キラキラした目で見つめられながらこの世界を一緒に歩いて冒険して語り合うのが。
それなのに、今は別の意味できらきら……や、うるうるしてる目で見上げられて言葉に詰まる。
そんな表情も可愛いなんて思ってる自分が重症だなんて思ってなんか…思ってなんか……はぁ。
「ロサ……?」
「わ、わかってるんだよ。仕方ないって。言い出したのも私だし。だけど、楽しみにしてたし。」
「うん。ちゃんとわかってるよ。」
前よりも随分と小柄になった体を正面からそっと包むように、つぶさないように抱き込む。
「残念だけど楽しみが先になったって思えば……。」
さらさらの長い髪を梳くようにゆっくりと撫でる。それはちゃんと聞いてるよって合図でもあるし、分かっていると肯定でもある。
「いつになろうとずっと一緒にいるし、初めてのロサの冒険は二人で行こう。」
「~~~っうん!」
顎の下でぐすぐすと涙するいじらしさが可愛くてその旋毛にそっと口づける。
それは自然に体が記憶しているかのように動いて気が付くとこめかみ、瞼にも落とし、あふれる雫を吸い上げた。
「シン?」
「新しい建物どこにする?いろいろやりたいことあるんでしょ?」
それは日も高くなった午後の出来事だった。
思わぬ後見人の速い行動によって我が家には世間で使用人と呼ばれる人物が三人も急に増え、だからと言って王都の中心から馬車で距離があるのに準備がまだだから一度帰れともいえず、大慌てで受け入れ建物と敷地を案内し、雇用契約が終わったのはついさっき。
早速仕事をとそれぞれ行動開始した三人を見送って俺の工房兼ガレージでロサと二人向かい合わせて今後の話をしていた。
ようやく生活基盤が整って生産からの経験値でロサが外を出歩いても平気なレベルになった今なら、近くの森に素材採取がてら冒険に出ようと思っていた矢先出鼻をくじかれた形である。
念願の冒険をお預けにされる形のロサは自分が悪いわけでも俺が悪いわけでもなく、まして後見人の親切でやってきた人々にも非はなく、どこに向けようもない悔しさに涙したいじらしさが可愛くて仕方ない。
キスを誤魔化すように抱き上げて左腕に乗せ、家周辺の土地を購入した際にもらった地図を手にすると地図を広げられるように食堂へ移動する。見える範囲全部購入したもんだからかなりの数がある。
「大工さん手配してくれるって言ってたからどこに何建てるか考えよう?どんなデザインにするか、内装や家具も考えないと。あっちのときは子育ての合間の模様替えだって任せきりだったから今度は二人でいろいろ考えよう。」
ポンポンと背中を撫でて地図を見せると、驚きで見開いた眼を嬉しそうに細めてニコっと笑ってくれた。
「あのね、独身寮みたいな感じで大きく作っていずれはそこに仲居さんも住めるようにしようと思ってるの。」
「仲居さん?」
なんで仲居さん?
「ここはせっかく温泉あるのに自分たちしか使ってないでしょう?でも家の前を冒険者の人や馬車が通るから温泉宿をすれば需要があると思うの。」
「でもここは商業地じゃないからホテルみたいなのは難しくないかな?」
そうこの辺りはあくまで農業用地である。まぁ、一応作物に対する工場や作業場を立てていいことになっているし、従業員を雇う場合はその住まいも整備していいことになっている。あちらの世界に比べて緩い枠組みのようなのである程度は大丈夫だろうと踏んでいる。
「だからあっちにあったコテージというか、離れのような戸建てをいくつか作ってその周りを花木や果樹にしてそこに不死蝶とかを飼ったらどうかと思って。馬車が通れる道を作って、わざと山みたいなとこも作ったり小川を通して魚を放ったり。」
「鯉とか?」
「せっかくならおいしい魚がいいな。」
「食べるが前提なんだ?」
「魚の養殖までは手が回らないかなぁ~。……あのね、せっかく温泉あるのに地下にあるだけなのはもったいないと思ってたの。向こうの世界にあったじゃない?一日数組限定でいろんな風景楽しめるお宿みたいなの。あんな感じでいろんな温泉入りたいなって。」
などとおどけるロサはもう未来に描かれた地図を頭に浮かべてキラキラしている。
「自分が入りたかったの?」
「そう。お客さんは維持費確保のためについで。」
「しっかりしてるなぁ。」
「桜とか、藤に紫陽花、金木犀に椿に梅っていろんなの植えたいの。」
「それなら嬢ちゃん、黒蜂も飼ったらいいぞ。」
どうやら話が聞こえていたらしいルドルフ爺さんが俺の横に並んで、抱かれているロサの目元が赤いのに気付いたのかその小さな手に飴を渡す。
俺は会う前に亡くなっていたが、ロサはちらでじいちゃん子だったらしいからこの体育会系な翁とは相性がよさそうだ。
「黒蜂ですか?」
「嬢ちゃんはテイマーだろう?黒蜂は不死蝶とは共生関係だし、女王と契約したら働き蜂がはちみつを作ってくれるからそれが一つの産業になる上、黒蜂には騎士蜂という役割があってなわばりを見回る習性があるから土地の警備代わりになる。」
「警備員!考えてなかった!」
「嬢ちゃんはツキミタンポポ以外にも色々ありそうだしな。用心はしとくにこしたことはないだろう。それに植物の手配なら儂につてもあるからほしいものはてはいしてやるぞ。」
「ほんと!?おじいちゃんありがとう!そういえばおじいちゃんご家族はいいの?寮たてるなら単身用以外に家族向けを別棟で立てるつもりなんだけど。」
「儂かぁ?家族はのう~独身じゃて。養子が三人おるがそれも独立しとるしのう。気ままな独り身だ。気にせんでいい。養子たちもそれぞれに家族がるしな。」
「そうですか。……ではルドルフさんにはここに増える子供たちのおじいちゃんになってもらわなきゃですね。」
「はは、それは楽しみだわい。」
そんなことを言いながら食堂のテーブルに実際土地の並びになるよう地図をパズルのように並べていく。
三人でああでもないこうでもないと話をしているとシーラさんがお茶を運んできてくれた。その流れで独身寮の作りと妻帯向けの建物の理想を訊ねてワイワイと夢だけが広がっていくのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
なんとかロサのテンション持ち直してよかったです。ごめんよ。話数だけがばがば増えてるのに。このまま100話まで……いた!痛いし!マジで痛いんだよ!あんたの叩き方ロサと違ってシャレにならんから!だから悪いと思ってるよぉ~。こら、短剣抜くな!ちゃんと活躍できるようにするから!(たぶん)……ぎゃぁぁぁぁ!やめれ~!!