再会しました
お越しいただきありがとうございます!
ブックマーク111超えました!キリ番の方おめでとうございます!や、多分めでたいのは私だけ(?)これを励みに一層頑張らせていただきたく思います!
『あれが噂の嫁か……。』
『あっまぁ〜!なんだあの隠密王子明日雪降るんじゃねぇの!?誰か塩をくれっ!』
『あそこまで見せつけるとかどんだけ嫉妬深いんだよ。獣人顔負けじゃねぇか。』
『ここんとこ姿見てないのは嫁とお籠もりって噂を冒険者ギルドで聞いたけどマジか……。』
周囲からちらほら聞こえる声にふと我に返って振り向くと、まるで示し合わせたように人の輪が一歩遠ざかった。
そんな、猛獣じゃないから襲ったりしないですよぉ〜、わりと無害ですよぉ〜!と内心叫ぼうと聞こえるはずもなく。
とりあえず紅潮する頬を誤魔化すようにぺちぺち叩いて食品レシピの登録受付へと足を向ける。
食品系の登録は今回1階の食堂を封鎖して行われる。午前中は審査員と登録希望者のみが立ち入りできるのだが、午後からは登録者から買い取った現物のメニューの試食会になる。
その為この日の1階は審査員の反応を見てどのレシピを購入するか参考にするべく卸ギルドからもたくさんの人が押し寄せてるせいでかなり混み合っている。
海割れ再び状態で受付に行くと先日の受付のお姉さんがにこやかに対応してくれる。
「おはようございます。登録お願いします。」
「おはようございます。かしこまりました、本日登録希望のレシピに関する登録用紙とギルドカードをご提示ください。」
茶色の髪をアップにしたお姉さんに促されてウサギ型のマジックバッグから一枚ずつ確認するように用紙を重ねていくと、お姉さんの笑顔の中に汗が流れている。
あれ?なにかおかしかったかな?
「いち、にい、さん、しぃ……13。以上です。」
「は、初めてで13枚……。組長〜〜!すいません、ご案内お願いします!あ、書類はこのままこちらでお預かりしますね。係のものがすぐ来ますのでお待ちください。」
「え?!あ、はい。でも組長って……。」
組長……。サングラスに頬に傷で強面な自由業じゃないですよね?!
私の担当さん大丈夫ですか!?
「大丈夫ですよ。肩書きは厳ついですが無害ですから。」
おねぇさん、そのフォローは逆になにかあるのかと勘ぐりたくなります。
「あのねぇ、君たち朝から俺のことこき使い過ぎじゃない?一応俺も審査員なんだぞ?審査員遅れたら副長に怒られるの俺なんだからねぇ〜わかってる?」
そう言いながら現れたのは2メートルはあろうかと……や、私の身長だとそれくらいに体感するだけかもしれないけど……。でも大きい中年のおじさんがサングラスじゃなくて眼帯して左頬に傷までつけていらっしゃる……。
オワタ……。詰んだ。私の異世界生活何も成し遂げる前に終わったよぉ。
「って、またずいぶん小さいなぁ。申請者?」
「はい。申請書類は13枚です。並べられるテーブルありますか?」
「13?このちびっこが?代理申請じゃなくて?」
それが多いのか少ないのかよくわからないが、受付のお姉さんから用紙を受け取った組長さんはペラペラと中を確認するとジェスチャーでついてくるように合図するので、後ろをトコトコついていく。
「このテーブルに申請用紙にあるメニューを並べてくれ。最低3食は持ち込むようになってるんだがあるか?」
「は、はい!午後からのがどれくらい必要かわからなくて鍋ごと持ってきたんですが、食器持参してますのでここでよそってもいいですか?」
指定されたテーブルの上にウサギのマジックバッグを乗せて口のとこへそっと手を入れると蓋付きの寸胴を3つ出して、その横に炊いたご飯を入れたお櫃を1個タッパーはないから蓋付きの器を2個、その横に丼茶碗、カレー皿を置く。
「これが、カツ丼、こっちが親子丼。」
「穀物の米に乗せる食べ物か。」
「はい。丼一つで完成する食べ物です。それからこっちの唐揚げのようなものに特製タルタルソースをかけてチキン南蛮です。」
「唐揚げにソースをかけるのか……。」
「まぁ、そんなところです。これは酢が含まれてるので好き嫌いが分かれるとは思いますが……。」
次々と並べられる料理に組長さんが首振り人形のように頷いている。
「それから、こっちの鍋は……。」
「カレーか?」
「はい。こちらの世界ではカレーは辛口しか登録がなくて甘党の人や子どもは苦手と聞きました。あっちの世界ではカレーは子供の好きなメニューに欠かせないぐらい人気食でしたし。自分でも食べたかったんです。」
「あっちの世界って嬢ちゃん転生者か?」
「はい。今年の朔の日にこちらに来ました。」
「もしかして隠密の嫁って……。」
「元嫁であって今はまだ違いますけどね……。」
どう反応したものかと思いつつ、カレーを並べたそのときだった。
「カレーの匂いがする!しかも私の好きなゆりちゃんのカレーと似てる匂い!」
え?いま……なんて?
「うぉ!聖女どこから出てきたんだよ。」
「あ、この前の味噌の子だ〜!おはよう。おかげでちゃんと完成したんだよ〜ありがとね。」
「あ、いえ。……お役に立ててよかったです。」
組長の背後から唐突に出てきたのは前にフラスコ詰め味噌を持っていた彼女である。
「今日は登録に来たの?このカレー食べていい?私も審査員なんだぁ〜。」
「はい!どうぞ!」
言われるがままにカレーにスプーンを添えて差し出すと、聖女さまは嬉しそうに受け取って食べ始めたが、一口食べると動きを止めた。
「あの……。」
「なんだぁ?聖女さまの口には合わなかったのか?」
一口食べたあとこちらをじっと見ている聖女に首を傾げる。美味しくなかったかな?
組長もその様子に片眉を上げて別の皿のカレーを食べ始めるが、特に不審な点はないらしく首を傾げている。
なんだろう?
「あ、姫〜。ちょうどいいとこに来た。お前の嫁動かないんだけど。」
テーブルの向こう側で別の料理を食してると思しき後ろ姿に組長が話しかける。黒髪に紫のローブを着たその人は振り向くとはっきり二重、紫暗の瞳が聖女リンさまと私を見ている。
「え?ちょっとリン?どうしたの?」
聖女の旦那さんはオネエさんでした。
しなやかな仕草でこちらにやってくると聖女さまの顔を覗き込む。くねくねしてるようなオネエさんではなく中性的なとても綺麗な所作。
「リン?体調でも悪い?」
流石に旦那さんの声には反応したのか、ゆるゆるとした動きではあるが視線を一度彼に向けるとカレーを差し出した。
「トノ……これ食べてみて。私の思い違いじゃないと思うんだけど……。」
トノと聖女、リン・アマミヤ……。トノとリン……。
え、本当に?
「カレー?あら、スパイス臭くないわね。どれどれ……。ふんわりとした甘さとコクのあとに追いかけてくるピリッとした辛みが甘口なのにあとを引いてずっと食べていたくなるこの味……。間違いないわねゆりちゃんのカレーじゃない。」
「やっぱりトノもそう思う?」
「ええ。味覚には自信あるもの。」
二人と視線がぶつかってきっと同じ事を思ってるって分かったら鼻の奥がツンとして涙が溢れた。そうだ。この前聖女が立ち去ったあとに感じたこの感覚今ならちゃんとわかる。
「さく姉、姫義兄。こんなとこにいたんだね!」
『まさか、ゆりちゃん!?』
驚きの声を上げる二人の間に両手を広げて飛び込んだ。聖女リンは両手で、中性の美貌トノはカレーを落とさないようにしつつも私を受け止めてくれた。
「うわっ!聖女が子供泣かしやがった!」
「ちょっと組長!家族の再会邪魔しないでくださいよ!」
「はぁ?家族?」
「ゆりちゃん!ゆりちゃん!って、今はロサちゃんね。気づかなくてごめんね。」
苦しいくらいぎゅうぎゅうと抱きしめられて聖女……いや、私の姉さくらもとい転生名リン・アマミヤがつぶやいた。
「ずいぶん可愛がっててもらったのに私もすぐわからなくてごめんね。」
涙を止めようと思うのにうまくいかなくてグズグズしていると優しく頭を撫でられる。
「まさかあんたまでこっちに来るなんてねぇ。」
大きな手なのに細くて長い指にとょっとジェラシー感じつつ、美貌の中性を見上げる。
「姫兄、またさく……リン姉と一緒にいてくれたんだね。ありがとう。」
「嫁なんだから当然でしょう。」
「それもそっかぁ〜。」
なんだか恥ずかしくなっていると頭上から組長が呆けた声を出す。
「うわぁ〜隠密の嫁が聖女の妹ってマジかよ……。」
そう。つまりこの世界?国の聖女ことリン・アマミヤはむこうの世界では私の姉さくらだった。
私の作るカレーが好きでお互い嫁に行ってもカレーの日だけは家に食べに来るくらい好きだったから気づけたのかもしれない。
そしてさくら姉の旦那さんは今も昔も変わることなくオネエだ。けして気持ち悪くないのがすごいところで、日舞の経験もあることからとてもきれいな人だ。今はトノという名前らしい。
「ロサちゃんがいるってことは……。」
「旦那もいるよ。今はシンって名前で一緒に住んでるの。」
「そっか。シンくんが一緒なら心配ないね。今日は来てないの?」
「二階で登録してから馬車の納品に行くって言ってたよ、まだ二階にいるとは思うけど。」
「仕事があるならしょうがないね。また今度あったら挨拶させてね。……ところでロサちゃん今日はいくつ持ってきたの?」
さっき乗せた料理を見ながらリン姉に聞かれたので数だけとりあえず答えてみる。
「んっと……ごはんのレシピが13個。」
「13って初めてにしては多いね。」
「そうなの?でも半分くらいは味のバリエーションだからそんなに……。あ、リン姉カレーたくさんあるから好きなだけ食べていいよ。」
「本当?嬉しい!ずっと食べたかったんだぁ〜。やっぱりカレーはゆりちゃんのカレーだよね〜。」
いうが早いか、リン姉はトノ兄の持つカレーとは別に自分の分をよそって食べ始める。
懐かしい光景に嬉しくなりつつも、マジックバッグから竹の平たい箱を出す。
「それはなぁに?」
「これはねぇ……。」
箱の蓋をパカッと外してみせる。
「つきあげギフトセット〜!」
青い猫型ロボットが発するようなニュアンスで中身を告げる。つきあげ、いわゆるさつま揚げのいろんな味が入ったお中元かお歳暮かと言うような代物である。
「中は通常の何も入ってないものから、ごぼう、人参、レンコン、しそ、チーズ、とうもろこしが二枚ずつ箱に入ってます。」
これに反応したのはリン姉よりもトノ兄だった。
「ちょっとロサちゃん天才!食べたかったのよこれ〜あ〜飲みたくなってきたぁ〜。」
「そんなあなたにこれを進呈。」
続けて取り出したのは赤と透明の液体がそれぞれ入った瓶である。
「まさかワイン?」
「いやいやいや、流石にお酒作る技術は持ってないよ。これは市場で紫蘇を見つけたから大量買いして作ったシソジュースです。まだ昼間だからトノ兄これで我慢してね。」
赤と白どっちがいいかたずねて赤と返事をもらったので木製のコップに注いで渡す。ついでにつきあげも余分から一箱差し上げよう。
「はぁ〜。爽やかねぇ。夏にあると飲みたくやるのよ〜懐かしいわ〜。」
つきあげとシソジュースを交互に口にする姿は可愛いなぁって思う。
「ここで登録するのはこれだけかな。」
そう言いながらウサギ型マジックバッグを背負うとスプーン片手のリン姉がキョトンとした顔で私を見る。
「ここでってロサちゃん他の組合でも登録するの?」
「組合?」
「生産ギルドの中はいくつかのジャンルで組合が組まれてるの。ちなみにここのレシピ登録は食品組合がやってるし、外の馬車とかは工業組合で木工鉄工とかね。」
「あ!だから組合長さんなのか!……自由業の人じゃないのか。」
最後の方は小さくつぶやいたが、リン姉とトノ兄には聞こえたらしくて肩を震わせている。笑いたければ笑うといいと思うよ。我慢は体に良くないし。うん。
「えっと、衣料品のとこと素材のとこにもあるの。」
「そんなに?一緒に行こうか?」
「本当?リン姉来てくれる?ちょっと一人は不安だったから嬉しい。」
「じゃぁ、トノあとお願いね。」
「ふふふ。久しぶりに姉妹でゆっくり回ってらっしゃい。」
「うん。ありがとう。」
ご機嫌なトノ兄はリン姉の額にチュッとすると、片手をひらひら振って私達を送り出してくれた。リン姉は私と手を繋いで、階段はこっちと言いながら次の会場に案内してくれた。
それにしたってリン姉とトノ兄はラブラブだなぁ〜。前はこんなに甘い感じ垂れ流しじゃなかったのに。転生してなにか変わったのかな?
ご覧いただきありがとうございました!
ロサ、姉夫婦に出会うの回でした(笑)舞う少し続く予定でしたが長くなるので二回に分けることにしました。
いつも評価、誤字報告くださる皆さんありがとうございます。これからも頑張りますのでよろしくお願いしますm(_ _)m下の☆をポチッとしていただけるとありがたいです。こちらも合わせてよろしくお願いします。




