授かりしもの~シン視点~
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隣からうなり声が聞こえる。
すでに夜も深い人々が寝静まった時間。何か気配を察したのか、いつの間にかフェルとクロ―がベッドの脇からロサを覗き込んでは声をかけているが起きない。
そう。起きないのだ。
フェルやクロー、泣きそうなユメ、もちろん元夫である自分も声をかけている。むしろ揺さぶっているし、フェル達も足でテシテシしたり顔を舐めているがピクリとも動かない。何かが精神を蝕んでいるのではないかと一抹の不安すら覚えた。
どれくらいそうしていただろうか。
「行っちゃだめ!」
悲痛な叫びを上げてロサが跳ね起きた。それは今まで寝ていた人間ができる動きではない。
双眸から止まらぬ涙で頬を濡らし、肩で息をし手は震えている。先ほどの叫びが幻だったかのように唇は真っ青で動かない。
「ロサ……。怖い夢でも見た?」
今にもはかなく消えてしまいそうな様子が恐ろしくて、まるでその存在を確認するように、目の前からいなくなってしまわないようにそっと腕に閉じ込めて背中を優しくさすってやる。
あちらの世界では女性にしては身長の高いロサと男にしては低めの俺はそんなに身長が変わらなった。だからか、成人女性だというのに華奢で小さいロサは腕の中にすっぽりと納まって、そのぬくもりにひどく安堵してしまう。
異世界に召喚されてから数か月。やっとこちらの世界に慣れてきたとはいえ、その実はほとんど家での制作の日々。本人はとても楽しそうにしていた。だからそれに付け込んで必要以外の外出をほとんどしなかった。他人に見られるのもいい気はしなかったし、誰かにロサを紹介する気も起きなかった。今の不安定な自分たちの関係が壊れるのが怖かったし、明確な何かを告げて戻れなくなることも怖い。それに他者に介入されて……いや、はっきり言おう。ほかの男に掻っ攫われるなんて許せない。
嫉妬と独占欲。
しかし、このままではよくないこともわかってる。どこかで決着を付けなければならない。少なくとも彼女をここに閉じ込めているばかりでいいはずがない。人間は人との関わりなくして生きれない。この狭い範囲だけで次々と好奇心と発想力を発揮しているロサがこの狭い檻で収まるはずがない。そう。いつかこの家が彼女の檻になってしまうことは容易に想像がつく。
賢い彼女の事だいつかそれに気づく。いや、意図として気づかずとも精神が先に悲鳴を上げるかもしれない。
だからこそ腕に収まるロサが心配でもあり恐ろしくもある。
「夢の中に……。」
「うん?」
ゆっくりと話し始めるロサは説明とかというよりは自分を落ち着ける為に状況を理解しようと朗々とつぶやいているようでもある。
「誰か夢に出てきて……。」
「うん。」
できるだけその思考を邪魔しないように相槌を打ちつつその様子を観察する。
「子供をお願いって。もう時間がないから後をお願いってひどく苦しそうで……。それが悲しくて。子供たちと孫たちを置いてきたことと重なってなんだか私も苦しくて……。」
一度収まった涙が再び流れて俺はそれを唇で掬い取る。
ぎゅっと抱きしめて大丈夫だと小さくつぶやく。
「シン……?」
まるで今オレの存在に気づいた……いや、実際今気づいたんだろう。どこか夢うつつだったのが今醒めたような反応だ。
「子供たちはもう中年どころか正直初老だし、孫たちだってオレの死ぬ前に成人して働いていた。ひ孫だって6人もいるもう老害の出番じゃない。あの子たちはあの子たちの人生がある。支えてくれる人がいる。親の屍を乗り越えられないような柔な育て方はしなかっただろ?大丈夫だよ。」
「そっか……。そうだよね……。」
「うん。大丈夫。……ロサ?誰か来るの?」
声が落ちついたのを確認してからそっと顔を覗き込む。
「うん。たぶん。いつかは言われなかったけど……。でも近いうちだと思う。人間じゃないのは確かだけど、どんな子なのかわからない。」
「そっか。」
夢に押しかけてまで託すのだ。人間ではあるまい。
『兄弟が増えるのです!?妹がいいです!かわいい子がいいのです!』
「え!?ユメ?」
俺とロサの会話に我慢できなくなったユメがロサの膝に勢いよくダイブして、大きな瞳で見上げてきた。
従魔を兄妹と位置付けるロサからかわいらしい子が来るときいてユメは待望のお姉ちゃんに慣れるのが嬉しいらしい。
『主様、大丈夫ですか?相手の強い力に弾かれたとはいえ不覚を取りました。申し訳ありません。』
「クロ―?」
宙に浮いたまま人間の様に腰を折る黒猫をロサはじっと見つめる。
『主、夢はクローのテリトリーだ。今までも主に害するものがないかクローは夢の中で主を守っていた。それが急にはじき出されて主が魘されていたので気が気ではなかったのです。ご無事で何より。』
「フェル……そっか、私魘されてたんだね。心配かけてごめんね。ありがとう。」
従魔たちを次々撫でまわるロサ。
マテ。ちょっとまて。ユメを見張るといったか?つまりロサの深層心理を覗いていたのか!?なんとうらやま……なんという勝手なことをしているのか。ロサ、そこは感謝を伝えるとこじゃない!怒っていいんだぞってぇぇぇわかってないな!?気づいてないのか!?
その辺りを指摘していいのか悩んでいたらいつの間にかロサは目を蕩かせてユメのもこもこの毛に埋もれて眠りに落ちている。寝やすい態勢に整えてやるがユメから手を放しそうにない。普段は俺のポジションなのにっ!
「はぁ、しょうがない。お前らもここに寝たらいい。この後何もない保証もないし、何かあった時にそばにいられなければお前らも不安だろう。」
結局そのあとはいつもより狭くなったベッドにロサを守るような従魔たちの布陣で寝ることになった。俺のロサなのに。
しばらく心配で様子を見ていたが特に問題はなさそうだった。気が付いたら自分も寝ていて朝食のおいしそうなにおいで目を覚まして簡単に身支度をして食堂に向かう。
「おはよう。シン、夕べはごめんね。ちゃんと寝られた?」
「おはよう。大丈夫だよ。今日は生産ギルドに行く日だろ?……って、そのもぐらまた来てるんだな。」
「それがね……えっと……。」
なにかいいにくそうにもごごもごしているロサを尻目にもこもこのユメが俺の足に激突してくる。痛くないからいいけどね。
『兄さま!私に弟ができました!妹じゃないのは残念ですが可愛いい弟ができました!ダイチくんです。』
そういってみせつけるようにもぐらをこちらに差し出す。
「ロサ?本当に?」
「うん。そうみたい。もぐら……ダイチってつけたんだけど、ダイチが親とのアーカイブ共有ができるようになったから今日からここに住みたいって。親も事情で先が短いからって。」
その事情ってやつはトラブルの原因ではないのだろうか……。一抹の不安はあったがもう契約してしまったものは仕方ない。
「わかった。契約するぐらいだから今すぐ害があるとも思えない。もぐら……ダイチ?については帰ってからちゃんと考えよう。とりあえず今日は予定通り出かけよう早くしないと帰りが遅くなってしまうし。今日は賑わうだろうから時間は多めに見ていた方がいい。準備はできてる?」
「うん!生産ギルドに出すレシピと申請書と現物はマジックバッグに入れといた。シンは途中で馬車の納品に行くんだよね?私は出すものの種類が多いから時間かかると思う。今日は一日建物から出ることはないと思うからお仕事頑張ってきてね。」
手早く朝食を済ませて持ち物と服装の確認する。納品に貴族街に行くので小ぎれいにしておかなければならない。
ガレージに行って馬車の準備をする。本当は小回りが利く一人乗り馬車を俺が御者する方が今日はいいと思うんだが、最近連れが多くなったロサを思うとそうもいかない。かといって四人乗りでは大きすぎて面倒なので今日見本で出す予定の二人乗り馬車をマジックバッグから取り出してゴーレム馬二頭につなぐ。
ついでにこれは試乗用としてギルドに貸し出そう。一日でいい宣伝になりそうだ。
馬車を玄関に回すと膝丈の水色ワンピースに着替えたロサが従魔たちを伴って玄関扉に鍵を掛けているところだった。
「忘れ物はない?」
「うん。大丈夫だと思う。」
「じゃぁ、出かけようか。」
「は~い。じゃぁ、みんな馬車に乗って~。」
ロサの合図にそれぞれ馬車に乗り込むのを確認して扉を閉めると御者台にのって馬車を滑らせた。
今日も騒がしい一日になりそうだなぁ。