妹
お越しいただきありがとうございます。
お話の路線変更に伴いタイトルを変更したのですがどうもしっくりこなくて再度変更しました。まだ納得してないのでどこかで変わるかもしれません。すいません。
ブックマーク有難うございました!数字が増えてて椅子の上で回りました(笑)また評価いただきありがとうございます!これを糧にこれからも頑張ります!
拝啓 もぐらさま
先日は思わぬプレゼントを有難うございました。小さな親切大きなお世話……。いえいえ、あなたからの好意感謝の念に耐えません。
おかげさまで日々の草刈りで私の足とウデは筋肉痛……いえ、一生分の服を作ってもお釣りが来そうなほどの布地と生糸が紡げました。
それから新しいお友達も増えました。賑やかになりましたのであなたも是非遊びに来てくださいね。
なお、この手紙は自動的に爆発……はしませんが私の胸中でつらつらとつぶやかれるだけなのであなたの手元には届かないでしょう。
そんなことを頭の中でリピートしつつ手元はひたすら縫い作業に没頭する。
おかしい……。私の目標は自立した生活だったはずなのに未だに生産ギルドに商標登録しに行くことがなかなかできずにおります。
というのも、もぐらさまのお気土産による草刈りをしておりましたら思わぬ珍客が現れるようになりました。
『主様、あやつ今日も来ておる。』
「本当だ……。もう三日くらいうちに通ってるよね。」
フェルに鼻先でつんつんされながら言われた方向を見てみるとここ連日見かけるその子がいた。
私が草刈りをしたツキミタンポポは必要なのは綿と次を作るための種のみで、葉や根などは枯らせて纏めて燃やすため敷地の1箇所にまとめてある。その枯れ草目当てに演ってくる一匹の仔羊ちゃん。ただその足の蹄周りに草?と白い小さな花が咲いている。
きみ、迷えてるのかい?ママンはどうしたの?
と、見ているこっちが不安になりそうなほどの堂々ぶりである。
日中は暑さも増したこの時期にあのモコモコボディは暑くないのだろうかと別の不安がよぎる。
あのモッフモフを撫で回したい!!という衝動はあるものの、不用意に迫ってせっかくのご飯時を邪魔してしまうのは忍びないのである。
自分がご飯のときに邪魔されたら嫌だもんね。とかおもいつつもひつじちゃんまぁ、よう食べる。思わずシンを連想するくらいずっと食べてらっしゃる。
「あんな幸せそうに食べてるの見たら邪魔しちゃうの可愛そうだよねぇ。」
一口ひとくちを大事そうに、噛みしめるときはどこか遠くでも見るようにモッシャモッシャしてる姿だけで癒やされる。
「くぅ〜!かわええのぅ〜〜撫で回したいよ〜〜。なにあの夢かわひつじちゃん!」
そう、迷える仔羊ちゃんは私がひと抱え出来そうな大きさとクルンとした角をもっているが、モッフモフの毛は薄い紫にところどころ薄ピンクがまざるファンシーカラーである。
『主様は生き物が好きなのですか?』
不思議そうにクローに問われて全力で頷く。むしろ嫌いな人の気がしれない。
「そりゃぁ、好きじゃなきゃ召喚士なんてマイナー職業選ばないよね〜。」
『恐ろしくないので?』
「ん〜。そりゃぁ敵意むき出しで噛まれたら痛いし怖いかもしれないけど……。つぶらな瞳で見上げられたら頬ずりしたくなるし、柔らかな毛を寄せられたら撫でたくなるのは仕方ないよね〜。できれば友達になって!ってなるのは仕方ないと思う。結局可愛いのよ。」
『かわいいですか……。それは私やフェルに対してもですか?今は幼体ですのでそう思われるのは理解しますが……。』
困惑するかのように言い淀むクロー。それが理解できるのかフェルはすぐそばでおすわりをしてこちらを見守っている。
「元々犬猫好きだし、動物の世話楽しいんだよね〜。あっちの世界で小さいときは可愛いからって動物飼育した人が成体になった途端捨てるのが社会問題になったことあるんだけど……。」
捨て犬捨て猫から始まり爬虫類や亀魚など色んな生き物が問題になっていた。そのたびに悲しくなってニュース番組に憤っていたのも懐かしい。
『主さまはどう思われたのですか?』
「馬鹿だなぁって。可哀想だねぇって」
『可哀想……ですか?』
「そうよ。一度心を許したらそれはもう家族だよ。家族を捨てるなんて私には考えられないもの。」
『家族ですか?種族が違うのに?』
『主様、我らも家族ですか?』
思わずと行った具合にフェルが立ち上がってぶんぶん尻尾を降っている。
「もちろん家族だよ。大切な事に種族なんて関係ないの。私ね、あちらの世界で子どものときに犬を飼ってたの。自分が末っ子だったから弟ができたみたいですごく嬉しくて頑張ってお世話して、いつも一緒だったんだけど、私が成人したときに病気で逝っちゃったの。悲しくて寂しくて涙が止まらなくてすごく辛かった……。大切なものを失ったことがある人はそんなことできないもの。それを平気でしてしまうってことは大切な人もものもいないからそんなことできるの。だから可哀想な人って思った。」
『主様……。』
「それにね、他者を大事にできないってことは周りからも大事にしてもらえないってことなの。だって自分に優しくしてくれない人に助けてあげたいって思えないでしょう?そうやって周りから孤立したり認めてもらえないと自分が嫌になるじゃない。人間は一人では生きていけないもの。それは寂しいことだとも思う。だからやっぱり可哀想。」
まぁ、可哀想だからと言っても自業自得なので仲良くしようとは思わないが……。
「それに一緒にいたら愛着わくじゃない。最初は子供で小さくて可愛いからがきっかけかもしれないけど、思い出が増えていくうちに姿が変わろうとそのこそのものが好きになったら姿は関係ないと思う。というか私はそのタイプ。だからフェルもクローも思う存分大きくなるといいよ。」
『さようですか……。』
まるで笑うように目を細めたクローの口元が柔らかなカーブを描く。うまく説明できなかったし話もあちこち飛んじゃったけどちょっとでも伝わったら嬉しい。
『主様、某は早く成長して主様の役に立ちたい。』
「もう十分に助けてもらってるから、そんなに急がないでよ〜今の姿も大好きだからもう少し堪能させておくれ〜。」
いうが早いかフェルとクローを纏めて抱きしめる。ぎゅうぎゅうしながら頬ずりするとなめらかな毛皮が気持ちいい。
『メェェ〜。』
気がつけばすぐ傍らにあの夢かわひつじちゃんが佇んでいる。いつの間にこんな近くにいたんだいキミ。
『メェェ〜。』
『主様……。こやつも混ざりたいそうだ。』
「なになに?抱っこさせてくれるの?おいで〜。」
念願の夢かわひつじちゃん!
汚れるのも気にせずその場に座ってひつじちゃんを膝に乗せてぎゅ〜っと抱きつく。思いの外に弾力ある毛が気持ちいい。
「はぁ〜やばっ!手触りいい!なんかメロンな甘い匂いする!癒やし系かぁ〜かわいいなぁ〜!」
『主様、そやつはバロメッツという。我らは森の医者とよぶ。』
そう言うとフェルはひつじちゃんの顔の方へとまわると、ひつじちゃんがグリグリとフェルの体に頭を擦り付けはじめた。なにこの癒やし空間。
「かわいい!でもなんで医者?ってかフェルだけなつかれてずるい〜。」
『バロメッツは草と羊が混ざった姿が特徴でメーロンの果肉に似た甘い匂いをさせて狼をおびき寄せて自分を守らせる。そいつの能力は……。』
『メェェ〜!』
腕の中でひと鳴きしたかと思うと私の手を今度はグリグリし始める。自分の手の違和感に気づいて思わず自分の手の平を眺める。
「あれ?手のマメ治ってる。」
『そやつは死以外は全て癒やすと言われる。治すかどうかは気まぐれだが……。』
「なるほど、だから森の医者なのね。」
普通なら狼なんて天敵だろうに集めて守らせるとかあざといな(笑)
でもこれだけ可愛ければ守りたくなるというものだ。
『ちなみに肉はクゥラブという海にいるカニの味がするので森では好んで食べない。』
ひつじがカニ味……。斬新すぎるだろう。それは狼も食べないだろう。
『主様、羊が草の礼とのことです。』
「二人は言葉わかるのね?」
『はい。』
「じゃぁ、親がいないけど大丈夫なのか聞いてくれる?ほっとくのも心配だし。」
しばらくフェルが夢色なひつじちゃんと目を合わせる。時々ひつじちゃんが鳴き声を上げる。
『主様、こやつは親元から独り立ちしたらしい。それで強い狼の気配を感じてここにきたら珍しいはずのツキミタンポポがあるから夢中になって食べてしまったらしい。』
恥ずかしいと言わんばかりにひつじちゃんが下を向く。話を聞くにどうやら強い狼、つまりフェルに守ってもらいたくてここに来たのに食欲に負けてしまったらしい。
「あはは。喜んでもらえたなら植えた甲斐があったわ〜。綿と種は必要だけど葉っぱはいらないから好きなだけ食べてね。」
ゆっくり頭を撫でてあげると嬉しかったのか膝から飛び降りて足元に散らばったとったばかりの草を食べ始める。
「でも、フェルはひつじちゃん見て何も感じなかったの?聞く限りひつじちゃんの匂いは狼に効くんでしょう?」
『確かに某は狼と近いものであるが似て非なるもの。幼体といえその辺の狼など敵ではないし、あれらとは違うのです。だから某には匂いはききません。』
「そうなんだ?じゃぁ、どうしたらいいかなぁ……。ひつじちゃんはフェルを頼ってきたんでしょ?他に行くとこないならうちにいてくれて構わないけど……。ってか草食べてくれるなら大歓迎なんだけどなぁ。」
『メェェ〜!メェェ〜!』
まだ地面に生えているツキミタンポポを食べはじめたひつじちゃんは器用に綿だけ残してくれる。
『主様、バロメッツはフェルのいる群れに入りたいと言っています。このまま美味しいご飯を食べれて群れに入れるなら癒やしと毛を提供すると。』
「羊毛!新しい素材だね!それはありがたいねぇ。」
『メェェ〜!』
『名前が欲しいと申しております。』
「契約になっちゃうけどいいのかな?」
『メェェ〜!』
『群れに入れるなら構わんそうです。』
「じゃぁ……。あなたの名前はユメ。夢かわひつじちゃんだからユメだよ。私はロサ。これからあなたは私の下3番目の兄弟だよ。」
『メェェ〜!』
楽しそうにかけてきたかと思ったらユメが私の額にそっとその頭を寄せてきた。
『ユメ!私はユメね。これからよろしくね主さま。』
高めの女の子の声が直接頭に響いてくる。
そうかユメは女の子だったのか。女の子なのにこんな立派な角を持っているとは……。
「あ、そうだ。」
背中からうさぎのマジックバッグをおろして中をいそいそと漁る。
「いつでも髪の毛結べるように予備のリボン入れてたんだよね〜。」
二本の薄青いふんわりリボンを取り出しユメのクルンとした角の根本に蝶結びでつけてあげる。
「あはっ!ツインテールみたいでかわいい!」
『かわいい?かわいい、ユメ嬉しい!妹嬉しい!』
「うん!ユメかわいい!喜んでもらえたなら良かった。これからユメは私とフェルとクローの妹だよ。よろしくね!」
反応が純粋で可愛くてぎゅ〜っと抱きしめる。
『兄弟ですか?我らと主さまが?』
驚いたようなクローの響きになんだか楽しくなって答える。
「そう。だって子供はおかしくない?私ですら子供みたいな見た目なのに。」
身長推定150以下のこの体、たとえ成人してようと周りから見たら子供にしか見えない。それが従魔といえど子どもなど言えば違和感がすごかろう。
「卵としてはフェルとクロー同時に私のとこきたけど、先に生まれたのはフェルだから二人は双子でフェルがお兄ちゃんってとこかなぁ。」
『私とフェルが双子……。くっ、くふっ……主様は面白いことを仰る。』
「そうかなぁ?まぁ、いいや。お兄さま方、今日から妹ができたから仲良くしてね。」
『にいさま!にいさま〜!』
ユメは家族に飢えてたのだろうか?フェルにくっついているが如何せんまだフェルも子供、サイズならユメの方が倍くらい大きいのでちょっと迷惑そうに避けつつも、兄と慕われるのは満更でもないらしい。顔はちょっと嬉しそうだ。
かくして私は新しく全自動草刈り機……じゃなくてバロメッツのユメが仲間になりました。
ご覧いただきありがとうございます。
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