咥えられたもの〜シン視点〜
お越しいただきありがとうございます。
本日?2話目。楽しんでいただければ幸いです。
ロサとフゥジーの蔓を使った製品の話をしてから俺の作業の手は止まらない。
これまでの馬車といえば98%木製である。残りの2%は馬と窓にある風よけのカーテンである。貴族用となれば窓にガラスがはめられもするが、それは稀な注文で滅多にない。
何が言いたいかといえば、つまりこれまでは座席も木板そのままか座面に張った布の隙間に藁か綿を入れるのだがすぐに潰れてしまう。見た目はいいが持続性がないのでそれをする人は少ない。せいぜい室内クッションを備え付けるしか対策がなかったわけだ。
まさか家を暗く覆うだけのフゥジーがこんな使いみちがあるなんて!
家の回りのフゥジーを取り尽くしたところで森ならどこにでもあるからすぐに入手できるのもいい。
ロサの描いたイラストをもとに図面を起こし、生産ギルドに出す仕様書を片っ端から埋めていく。最後にロサが担当すべき箇所の仕上がりサイズをわかりやすいように記載しておく。
せっかくロサがやる気を出してくれたので今注文を受けてる一人用馬車の内装やらはロサに任せよう。外装もちょっと拘って色ではなく彫りを豪華にしよう。それならスキルを活かせるので作業時間もかからない。
いままでの制作傾向を振り返るに青薔薇をワンポイントにしていたから扉と車輪、乗り込むためのステップに大輪の薔薇を刻んで、本体の下部と車輪と本体をつなぐ梁に蔓と葉を程よく刻めば上品に仕上がるだろう。
ちょうど嫁入りするご令嬢のシンボルマークも色は違えど薔薇だし婚家のが封蝋で使うのは青と有名なのでなかなかいいと思う。どちらの家も同じ政治派閥で、俺が転生してからの支援先なのでできるだけよくしてあげたい。
新開発の馬車とくれば両家に箔がつくし、上流貴族なのでいい宣伝になるだろう。貴族様々ありがたや。
そんなことを考えていればロサの契約獣のフェルとクローがガレージに入ってくる。
最近は彼らが昼ごはんのお知らせをしてくれる。キッチンでせわしなくしているロサの負担を減らしたいらしい。まだ卵から出て間もないのに殊勝なもんである。
俺個人としてはあちらの世界で大型犬に噛まれた経験から猫派なわけだがどうもケット・シーであるクローからの風当たりがキツく、フェンリルのフェルはなぜか侍なので好感がもてる。犬派になる日は近……や、俺はめげないぞ。
どうやら俺は獲得者のせいなのかこの二匹とは会話ができる。
「ところでその番殿ってなんなの。」
野生動物じゃあるまいし……。
すると、二匹からものすごく冷ややかな視線を受ける。どうやら彼らからすると人間はかなり鈍い動物というカテゴリらしい。
いくら他の人が言葉を介さないとはいえ番と連呼されては流石に照れる。恥ずかしいのでやめてほしい。なんとか説得して名前で呼ぶように頼み込んだ。
一段落してダイニングに行くと食事の準備ができている。椅子に座って様子を伺っていると見回りを終えたフェルが何かを咥えて戻ってきた。
何やら話し込んでいる。厄介事な気配もするが召喚士としての会話な気がするのであえて見守る姿勢でいる。
過保護にしすぎて重いと嫌われるわけにいか……ゲフンゲフン。
どうやら咥えて持ってきたのは弱ったもぐら?らしい。子供のようでやたらとフォルムが丸い。お前本当にもぐらか?
若干の疑念を浮かべつつも早くも3匹目ゲットの流れだろうかと見守っているがどうやらそうでも無いらしい。
弱ったモグラはロサの魔力をもらったことで元気になり裏庭から向こうの広大な土地、勝手口から見える範囲全部をツキミタンポポの大草原にして消えてしまった。
一瞬のその成長する様は神秘的で見るものの心を奪うが……。落ち着いて考えてほしい。このレア素材を放置するわけにいかんだろう。枯れる前に刈り取らねばならんだろうと思うが残念ながら俺はそれを活かすすべを持っていない。欲しがるのは裁縫師と錬金術師だろう。後者はいないが。
うるうるした瞳でこちらを見上げてくるがこれは彼女の製錬スキルに関わる問題なので手を出すわけにいかない。非常に残念だ。……ホントウニソウオモッテマスヨ。
くっ!そんな可愛い顔して見上げてくるなよ。結構我慢した生活してるんだぞ!煽ってくるなよ押し倒したくなるだろうが……うぐっ。そんなことしたら分別のつかないチャラ男みたいじゃないか。頑張れよ俺。
どうにか理性を総動員して昼食にありつく。
案の定ロサはその後2週間かけて全ての草刈りをして、さらに1週間かけて生糸と布を織り上げていた。おかげでロサが抱えるほどの太い布のロールが2つ部屋に増えていた。
やたらロサの部屋が狭い。
これまではロサの私室兼作業部屋だったわけだがこれからまだ素材が増えていくなら作業部屋を作ってやるべきかもしれない。自分はガレージあるわけだし……。せっかくなら作業部屋はガレージに一番近い客室を一つ潰そう。
どうせなら黙って作業して驚かそう。どんな反応するか楽しみだ。
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