もふもふなる日々の始まり
こんばんわ。お越しいただきありがとうございます。
前回モフモフ不足だったので今回はもふもふ視点です。
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くらい空間の中で話をしていた。どうやらここは獲得者のカバンの中であるらしい。
どういうわけか、まだたまごちゃんであるにも関わらず自分の知識は膨大なものであると理解した。それが種族によるアーカイブの共有ということもすぐに理解した。ある一定の魔獣や聖獣はその知識を種族間で共有できるらしい。
『早く生まれたいものだ。ここは狭い。そうは思わないか?星屑の。』
『まぁ卵の中だから狭いのは仕方のないことでしょう。それにどうやら獲得者は我々を使役するつもりはなさそうですよ。白銀の。』
我々は親とは離れている。通常群れや家族であれば親が魔力を注ぎふ化させ名を与えることで種を残す。しかし何かの戦利品として出現する卵は世界の調整から生み出されるもので親もとに存在できない。その場合戦利品として獲得したものがその動向を握る。ふ化させるのか、それとも譲渡するのかはたまた卵として朽ちていくのか。
いくら魔獣や聖獣といえど卵の寿命はある。それは10年だ。期限までそろそろ折り返しを迎える。それなのに我らに名を付けてくれる者はいないらしい。それでお互いに種族の特徴で呼びかけあう。
『どうせならば良き主人と巡り合いたいものだが。』
『この獲得者は譲渡するようですね。そもそも我々をふ化させる資格を持つものでもなさそうですしね。どのみち今の我々では今生まれたところでまだ十分な魔力がないせいで育っていません。意思疎通すら難しいのではないですか?白銀の。』
『ならばまだ見ぬ主のために力を温存しておこうではないか、星屑の。』
いつ会えるかもしれぬ主を思って今日もまた暗いゆりかごでねむるのだった。
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生まれた。念願の外だ。
嬉しくてしっぽが勝手にぶんぶん動く。
『主!主!ああ!やっと出会えた!』
星屑のはまだ早いといったが早く会いたかった。あの狭くて暗い空間を出れたのだから早く会いたかった。
それでもすぐにふ化できない。足りない魔力では体がまだ出来上がっていないので生まれたくても生まれることができなかった。それでも聞こえる声が優しくて暖かくて早く会いたいと願わずにはいられなかった。
結果かなり慌てて生まれてしまった。
仕方ない我ら白銀と呼ばれるフェンリルは番か主に一生添い遂げる。その欲求と執着は魔獣でも1,2を争うのだ。
ましてあの声と柔らかな魔力の持ち主。資格あるものであるにもかかわらず他の契約の気配は感じない。ならば一番は自分だ!と意気込むのは無理もなかった。
そのせいで主と言葉が交わせない。
契約をすればそれも大丈夫だろうと思っていたが名づけをされ、名を交わしても言葉が通じない。その様子をほらみたことかと星屑のに笑われた。
無念……。
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星屑のが生まれた。悔しいことに自分より先に主からの贈り物をもらっていた。すると言葉をからせる星屑の……クロ―が色々教えると急に慌てて部屋を出て行った。
どうやら自分にも贈り物をくださるらしい。嬉しい。
すると贈り物のおかげで回路が強くなったらしい。自分の言葉も主に聞こえるようになった。
ああ、嬉しい。嬉しい。言葉が交わせてこちらの言葉を一生懸命に聞こうとしてくださる。なんと行幸なことか。
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主はあまり外に出ないらしい。なぜかと聞いて見たら実は転生者でまだ体と魂が定着してない可能性があること、まだ戦う術がないので冒険に出れないこと、また生産が好きで特に今焦ってないことを教えてくれた。
どうやら脅威はないらしい。それならばのんびりと現状把握といこうではないか。
主の身を守るためにも毎日昼前に敷地内を見回る。ちょうどこの時間は昼餉を用意するために主は家から出ないのでいいタイミングなのだ。
頭の上にクロ―を乗せたままとことこ歩きだす。
まずは家の中。
主の作業場の暖炉前には自分とクロ―専用の寝床がある。そこを抜けて寝室に入る。
ここは主のほかに獲得者……もとい主の番も使用している。卵の時は一緒に寝ていたがどうやらこの番殿は主に執着しているらしい。まぁ、番とはそういうものだ。人間の事情はよくわからないが我らの常識的にはそういうものだから、そういう考えでいいのだろう。
なのでふ化してからは邪魔してはいけないとクロ―と作業場で寝起きしている。
少なくとも寝ているときは番殿が主を守るので心配なかろう。そこだけは信用していいと思っている。
特に異常がないのでそのまま通り抜ける。この先は番殿の部屋だ。あまり漁るのもよくないので匂いを嗅いで異常がないことを確認して廊下へ抜ける。
客室に顔だけ入れて異常なしを見る。
とっとこ階段を下りて玄関ホールを抜けてキッチンを見る。
主にも異常ないらしい。
「あ、フェルとクロ―巡回?お疲れ様。もうすぐご飯だからね。」
『お手伝いはございませんか?』
さっきまで頭の上でダレていたクロ―がきりっとしている。
「大丈夫だよ~。まだ途中なんでしょう?」
『はい。もう少し回ってこようと思います。』
「ダイニングで待ってるね~。」
とことこと行進を続ける行きついた先は番殿の作業場であるがれーじというやつだ。ここはいろんな道具があるので騒いではいけないと主に言われている。
『お~い。番殿。そろそろ昼餉だぞ。』
「その番殿ってなに?」
『番は番だろう。お主は主の番なのだろう?』
「は!?や、違う。番じゃない。まだ結婚どころか恋人ですら……。」
『おや?番様ではなくヘタレ様でしたか。』
「おい。悪意か?悪意なのか?」
クローと番殿が何か話をしている。
我々から見たってこの二人は魂の匂いが同じだ。つまり番なのだとわかる。主でもないのに我らの言葉が通じるのがいい証拠だ。なのに人間はそれがわからないらしい。
そういえば前に街に連れて行ったとき街の二人連れでも番じゃない組み合わせもいたなぁと思いだす。人間とはいかに鈍い種族か。
『とにかくもうそろそろだと主が言っていた。』
クローはどうもこの番殿にちょっかいを出したいらしい。まぁ長いこと閉じ込められたから思うものがあるのだろう。自分としては主に繋げてくれたと思えばチャラだと思っているので気にしないが。
とにかく昼餉が近いと伝えたので外へと抜ける表庭をでて木の根元に体をこすりつける。最初は爪でひっかこうとも思ったが主に止められたのでやめることにした。庭の木々にマーキングすれば中級ていどの魔獣は寄ってこない。
ぐるっと回って裏庭から街の外壁と言われる場所まで駆ける。
外壁は老化してところどころ崩れているがその崩れた場所にマーキングをする。これで外壁むこうの森から魔獣が入ってくることはないだろう。
主が規則正しく植えているツキミタンポポをジャンプしながら飛び越えてもうすぐ台所の裏口というところで不意に足が止まる。
『なんだあれ?クローわかるか?某のアーカイブに該当するものがない。』
『なんでしょうねぇ。私のアーカイブにもありません。どこかで見たような気配ではあるんですが。』
『お前もか?某もこの気配になんとなく覚えがあるのだがこの姿は見覚えがない。なんにせよ弱っているようだ。』
転がっている黄土色の物体を前足でちょんちょんと触るが動かない。禍々しい気配はない。しょうがない。ここは主に知らせよう。
呼んでくるべきか悩んだがその間にとりにでもつつかれたら不憫なので咥えて運んでいくか。
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