それは新たな発見です~シン視点~
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朝食を済ませてガレージに籠っていたシンは図面を見つめてため息をつく。
もう馬車にすべき部品はすべて作り終えた。貴族のご令嬢が満足するように装飾も見事な彫りを入れたし少しでも振動が伝わらないよう車輪にも工夫したが足りない。自分の知識だけではらちが明かないと書物を引っ張り出したがどの本も定型通りの作業工程しか記載されていないことから工夫するという意識がないように思われる。
しばらく頭をひねっていたが結局何も変わらなくてため息をこぼした時、外から魔力の発動を感じた。こんな街から離れた場所にだれか来るとも思えなかったが、先日の獣たちの様子にも引っかかるものがある。確認するに越したことはないだろう。どうせ手詰まりだったのだ。
ガレージを出て魔力をたどるとどうも前庭の方らしい。
足を向けると次は小麦袋でも落としたような音がドサドサとする。さすがにこれは何かあったろうと足を速めると庭に新緑のとぐろを巻いた蛇がいる。
まさか次は蛇を使役したのだろうか。そもそもこんな大量の蛇どこから湧いて出たのか。
いやしかし待てよ。ロサはあちらの世界で爬虫類は得意そうに思えなかった。子供と訪れた動物園も爬虫類館だけは避けていた。
しかもよくよく見ればとぐろを巻いたそれはピクリとも動かない。
そんなことを瞬時に考えてロサのそばに行くと事情を確かめる。
どうやらこれは植物の蔓らしい。とぐろを巻いた太い部分を持ち上げてしばし観察する。太さがある分少し重いがむしろこれなら重心が下がって馬車が安定しそうな気もする。少し強度は足りないがバネとしてはいい働きをしそうだ。
「こっちの切り口1メートルくらいもらっていい?」
問いかければすぐに了承の返事が来る。
腰につけた小さめのマジックバッグから鉈を取り出し、切り落とされた蔓すべてから端と落としていく。切った蔓はそれぞれ丸まったので麻ひもに通して運んだ。
ガレージに戻って表面の皮をはぎ、強度を確認する。バネの反発力は問題ないが硬さが今一つ足らない。このままでは早々にヘタるか劣化して交換になるのは目に見えている。それでは職人として胸を張って納品できない。
どうにかならないかと強化を付与したりしてみたがはやり根本が弱い。
トントン。
「はい?」
「シン~ちょっと休憩しない?お茶持ってきたんだけど入っていい?」
ちょうど喉が渇いていた。きっと両手がふさがっているだろうと戸を開けるとニコニコとしたロサがいる。
「ありがとう。手がふさがってたの。」
そりゃそうだろう。
中に入るように促して机の上の図面を片付ける。
「さっきの蔓使えそう?バネにするんだよね?」
言葉と同時にカップを渡されて頷く。ここに越してきたときにロサがいつの間にか買った色違いのそろいのカップ。シンプルだけど口当たりもいいし量がそれなりに入るからいちいち継ぎ足さなくていいので実は気に入っていて、彼女もそれを気付いているのかよくこのカップに入れてくれる。
「そうなんだけど、強度がもう少し欲しい。強化魔法かけても一定時間で効果がなくなるから意味がないしコーティングしても伸縮してるうちに剥がれるし。」
「火は通してみた?」
「火?焼くってこと?」
「さっき茹でてみたら強度が増したの。試しに焼いたらもっと固くなったの。」
「それは考えてもみなかった……。」
試しに一つ持ち出して地面に置く。初級の炎魔法を繰り出せばジュッと水分が飛んだ音がして蔓が締まったように思う。
しばらく熱が逃げるのを待って触ってみれば格段に強度が上がっている。これなら使えるかもしれない。
「これなら使えそうだ。ロサ、ありがとう。」
「本当?よかった。じゃぁ、これも試してもらえないかな?もし使えそうならシンの馬車にも採用してもらえたら嬉しいんだけど……。」
そういって差し出されたのは四角い座布団と丸みの強いクッションだ。受け取ってすぐに分かったが試してと言われたらきちんと座ってから感想を伝えるべきだろう。
まず座布団をベンチシートに乗せて座るとぐっと沈み込む。今度は反動をつけて上下に動けばビョンビョンと反発がある。
「これあっちでソファとかベッドになってたやつ?」
「そうなの!ちょっと縫製は手間だけどポケットコイル作ったの!馬車の座面に使えるかと思って。」
「こっちのクッションは……。」
「人生をダメにするクッション!!」
「いやいや、そんな物騒な商品名じゃなかったでしょう。」
どや顔で披露するのも可愛いな。じゃなくて、あっちの世界では小さなビーズがたくさん詰まって心地いそれは男の女性の双山に埋まりたいっ!という願望を形にしたような触り心地のクッションである。思わずムニムニと手が止まらない。
「これの中身も?」
「うん!蔓の細いとことを1センチくらいにぶつ切りにしてみたらいい感じになったし、ツキミタンポポの生地で作ると伸縮性もよくて気持ちいいの!どうかな?」
「これはもう馬車の付属じゃなくて普通に売れると思う。」
「そうなの?でも私クッションはともかくコイルポケットについてはめんどくさいからせいぜいシンの馬車くらいにしか考えてなかった。」
「あ、いや、ロサが直接作らなくても作り方を登録してその製法を買い取ってもらうんだ。だからロサが直接作る必要はない。」
「あ~。むこうで言う特許的なこと?」
「そう。ただむこうと違うのは一つ一つの製品に関してかかるんだ。だから多少手間でもコイルポケット全部にかかわる思いつくものは登録が必要なんだ。」
「それはそれで手続きが大変そうだね。」
「ついでに言うと申請時に制作見本が必要になるからアイディアだけあってもだめなんだ。」
「まぁ、本当にできる技術だって証明しないと誰も使わないだろうからねぇ。」
「だからこそこの世界は発展しないんだけどね。」
「じゃぁ、シンのその仕事落ち着いたら土台作ってもらえないかなぁ?」
「土台?」
「クッションは大きさ変えて3パターン作ろうと思う。それはまぁ自分でできるからいいんだけど。ポケットコイルは支える土台とか枠が必要でしょ?馬車に関してはシンのがあるからいいよね?でもベッドと二人掛けソファと一人掛けソファとソファするならベッドソファも2パターン思いつくんだけど、布以外は私わかんない。」
「ちなみにどんな形にしたいの?」
お茶をテーブルの端に寄せて製図用の大きめの紙を広げるとペンを差し出す。
「ソファは一人掛けがこんな感じで二人掛けがこんな感じで背中にもコイルいるかな?」
さらさらと考えている形をイラストに描いていくロサの手元を見ながらその横に線を引っ張って材料を書き込んでいく。
「普通に座る用途なら背中はなくていいと思う。ソファベットはどうするの?」
「足元から二段階で伸ばしてダブルベットにするタイプと背もたれを倒してシングルベッドにするタイプと二つあったら面白いと思う。宿とか冒険者とかに使ってもらえないかなぁ?」
「まぁ拠点が狭いやつは喜ぶだろうな。あとは値段だけど。こればっかりは作って材料費出さないと何とも言えないな。」
「そうだよね。材料費の三倍っていうしねぇ。昔買い手が安い方が喜ばれますよって寝言いってハンドメイド作家困らせることがあったけど、やっぱりコストとデザインに対する権利料と製作作業代もらわないと作ってる人は割に合わないよね。買い叩くなら原木に取説添えてやるから自分でやれよって思う。」
「さすがにあんな常識知らずはこの世界じゃなかなか見かけないな。そのあたりは職人を守るために必要なことだから意識が根付いてるんだろうなぁ。」
「モラル意識はなかなか変えられないもんねぇ。生産に優しい世界でよかった~。」
「まぁ、そんなわけだから買いたたかれることはないし、材料費もちゃんと申請書に記載することになっていて、権利を買った時の価格とそれを使って製品使った時の売り値も生産ギルドが指定するんだ。だから登録したものには製作レシピの代金と販売された数の1割が入ってくる。」
「レシピでもらうのに販売した時ももらうの?なんかずるくない?二重取りみたいで……。」
「や、レシピはあくまで勉強代だからそんなに高くない。見たところで実際にできるかどうかはその職人の腕次第だから必ず役立つわけじゃないからね。その分製作にかかった一割で製作者の権利を守ってるんだ。」
「作った数なんてわかるの?詐欺できない?」
「その辺りはレシピ購入自体が魔法契約書と同じなんだ。だから嘘はつけない。おまけにレシピは買った人間以外は読めない魔法がかかってるから使いまわされることもない。買った人間は購入レシピをそのまままとめて客に見せたらカタログ代わりにもなるんだ。」
「なるほど。シンも自分のカタログ持ってるの?」
「あるよ。といっても買ったのは馬車のつくり方で後は自分で発展させたからどっちかというと自分で作ったレシピが多いかな。」
「そんなに特許持ってるの!?」
「や、沢山ではないけど……。ロサと生活するのに困らないくらいはあるよ。」
実はこのシステムを知ってから結構頭をひねった。冒険者として暮らすのは楽しいが命のリスクは避けられないのだ。そうなるとロサを残してしまうかもしれないとか、下手したらロサがこちらに転生する前に自分が死ぬことも考えられた。
だから命がけで冒険しなければいけないほど追い込まれた生活はしないと決めていたし、積もり積もってそれがこの家を購入できるほどの貯金となった。
「そうなんだぁ。私も頑張らなきゃ。」
そういってまた紙に色々書きこむ。
「あ、申請は連名で出せる?」
「だせるよ。そうなるともちろん売り上げは半分だけどいいの?」
「だってシンが土台作ってくれないと私だけじゃ見本できないもの。」
「まぁ、そうだけど。」
「それにあっちの世界にあるもの再現してるだけで私の発明じゃないし。」
「確かに。」
「だから私だけが権利受けるのは違う気がする。」
「なるほど。」
「だから、え~と……二人で初めての共同作業だね。」
……押し倒していいだろうか。なんだこのかわいい生き物。頬染めてるどころか耳まで赤くしてる。そんなに喜んでもらえるなら頑張らずにいられるだろうか。貴族の仕事とかマッハで終わらせてやる!!
ご覧いただきありがとうございます。
ちょっともふもふ成分足らんので次回は何かひねれたらいいなぁって思ってます(思うだけで終わる可能性あり)
これからもよろしくお願いします。