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6:優しい悪魔

 なるほど、思った以上に重いな……というか悪魔だったのか……。


「ちなみに名前がないのはなんでなんだ?」


 さっきの話でも、名前がない理由は言わなかった。それが気になる。

 さっき言っていたキャサリンって人につけてもらわなかったのか?と聞く前に悪魔の少女はさっきの質問に答えてくれた。


「名前を持つ悪魔は大抵上位の悪魔だけ。だから私のような下位の悪魔に名前なんてない」


 なるほど、上位の悪魔でもない限り名前を得ることはないというわけだな。


「それで、お前は結局ここを出たいのか?もしそうなら可能な限り手伝ってやるけど」


 封印されているものを解いてはいけない気もするが、話してわかったがあっちには俺に対する敵意はないし問題ないだろう。もちろん、ただ単に人(?)助けをしているわけではない。家を借りるお礼をするだけだ。

 封印解いて暴れないとも限らないけど、その時は逃げるだけだ。ま、そんなことはないだろうけどな。


 悪魔の少女はほとんど分からないほどだが寂しそうな顔をしてゆっくり話した。


「……もちろん出たい。ずっと、誰も来ない場所に一人はもういい」

「そりゃそうだな。俺だって一人で百年過ごせとか言われたら何の罰ゲームだって思うわ。まあ、とりあえず決まりだな。ここに泊めてもらうお礼にここからお前が出る手伝いをさせてもらうとするか」


 よくよく考えてみたら、逃げ込んだ屋敷って言ってたな。泊めてもらうも何も、コイツも勝手に泊めてもらってるってことじゃ……いや、気にしたらダメだな。


「それで、どうやって出るの?」

「………すまん、考えてなかった」


 くっ、ジト目が辛い!だ、だってよ………異世界生活がまだ浅いのにそんな封印とかファンタジーなものの解き方を知っているわけないだろ!俺が知ってるのはせいぜいマントの押し売りや口のでかい女の対象法、それと幽霊の撃退ぐらいでこの世界の知識も全くないんだから!

 などと本当に言えるわけもなく、とりあえず何か知っているか聞いてみることにした。


「屋敷の外に置いてある龍の置物。あれが私を封印している魔道具(アーティファクト)

あれさえ壊れれば多分……」

「あー、玄関にあったあの置物か。よっし分かった。今から行って大量の石屑にしてくる。」


 なんだ簡単じゃないか。とりあえず近くにある石で思いっきり叩いてみようと思い、外に出ようとしたが……


「ダメ」


 と短い言葉で止められた。


「おい、いきなり止めてどうした」

「あれは特定の条件を満たす魔力を流さないと解除されない魔術式が組み込まれているみたい。それ以外の人が触れようとしたら反発を起こして攻撃されるみたい。過去にここに入ろうとした人全員そうだった」


 マジかよ危ないな!危うく痛い目に合うとこだった。

 だけどそれならどうすればいいんだ?というか封印してあるなら普通、中には入れないはずでは?


 その事ををすぐに聞いてみたところ、どうやら俺の考え通り、本来なら中に入ることすら出来ないようになっているらしい。

 それなら、どうして俺はこの屋敷に入れたんだ?本人も不思議そうにしていた。


 彼女はさっき言っていた。封印を解くには特定条件を満たす魔力を持つことが前提だと。

 まだこのファンタジー世界について詳しく知らない俺でもこう考えつく。この屋敷に入れている時点でもしかしてその条件の何かをクリアしていることを。

 じゃあその条件って一体なんだ?それを考えるには魔力が人によってどのように違うのかを知る必要がある。



 尋ねたところ、魔力の波長で種族、魔力量やその魔力の質、あと魔力には色のような物があり、それで個人を見分けるらしい。人や亜人族はどうやら波長が似ており、魔獣や悪魔はかなり特徴的な波長をしているようだ。また、魔力の質というので魔法が使えるか、またどのような魔法が使えるかが決まる。


 そして話を聞いて再びこの封印について疑問を持った。本来封印するなら二度と出さないようにする為、まず条件すら作らないはずだ。なぜそんな条件を作った?

 ……封印した奴について詳しくわかれば糸口が見つかると思うが………。

 とりあえず、外の置物を一度しっかり調べてみようと思い俺は重い扉を押して外に出た。


----------------------------------------


 屋敷の少女が魔道具(アーティファクト)と呼んでいた龍の置物は、見た目は普通の置物である………ん?なんだこれ?裏に文字が書いてあるぞ?………見たことない文字なのに、なんて書いてあるかはわかるな。言語翻訳でもあるのか?

 まあなんにせよ、読んでみないことには始まんないな。


「えーと、

【これを読んでいる君へ。

 ここにはとある悪魔を封印してある。君が何か悪意があって封印を解きにきた人間、もしくは悪魔ならどうか帰っていただきたい。もしそうなら君にはこの封印が解けない。


 もし君が善なる者なら、どうか彼女の、我が息子と妻キャサリンの命の恩人である心優しき悪魔の封印を解いてもらえないだろうか。




 妻は初めて会った時からその魔力の波長から悪魔だと気付いていたと言っていた。その上で彼女を、悪魔とは思えないほど姿が人に近い悪魔を迎えたらしい。


 よく妻が言っていたよ。「その悪魔が初めて会った時にお礼を言ったらなんて言ったと思う?当然のことをしたまでって!びっくりしたよ!」ってね。笑いながらしょっちゅう言っていたさ。しかも私がたまに妻に会うたびに、息子と同じように彼女のことを自慢していてね。裁縫の飲み込みが早い、掃除も隅々まで行き届いていて凄い、文字や計算の飲み込みがものすごい早いってね。


 もちろん、決して油断はせずに監視していたらしいけど、隣の奥さんや近所のおばあさんと話していたり、時々胸の大きい人を羨ましそうにみていたり、一人になったとき、少し寂しそうだったり。たまに掃除をサボっていたり、意外にめんどくさがりだったりまるで人間みたいだったらしい。本当に悪魔なのか疑うくらいに。


 何度も話を聞いて思ったよ。ああ、世の中まだまだ広いな。こんな悪魔がこの世にいるなんてってね。


 おっとすまない、つい長くなってしまった。


 私がそんな彼女を封印した理由、それはとある下級悪魔が数匹村を襲ったことから始まる。下級悪魔が、油断した私の妻と息子を殺そうとした時、彼女は素手でその悪魔を追い返したらしい。もちろん何人かの人は見ていたよ。もしかしたら、自分が悪魔ってバレたと思ったのだろうな。彼女は次の日この村からいなくなった。


 そのさらに二日後に他の神官どもが村に来てね。ただ悪魔の調査だけならよかった。しかし村人の誰かが素手で悪魔を追い返した彼女のことを神官どもに言ったのだ。もちろん他の神官は彼女が聖職者で無いことがわかった時点でそのような力を持っていた彼女を魔族、もしくは悪魔と仮説し、退治しようと考えたのだ。

 もしこのままなら彼女は聖職者どもに殺されてしまうだろう。そう思った私は一応神官という立場を利用して一人で倒しに行くと言ってその悪魔を追いかける旅をした。


 そして私は彼女を見つけたが、もしこのまま逃せば他の聖職者どもにやられるかもしれない。いくら聖職者とて私も人間。妻と息子の恩人を殺すような鋼の心は持ち合わせていないしそこまでの信仰心もない。そこで私は彼女の気配と漏れ出している魔力を完全に消すためにこの封印を作った。しかし、実力足らずか、私は彼女に妻たちのお礼言おうと屋敷に入ろうとした途端、はじき出されたのだ。封印の際、聖職者は確実に入れないようにしたのが仇となった。


 それで私はこの文を掘ることにしたのだ。さらに悪意のある者、また魔力量の多い者もはじき出すように魔法式も改良したのだ。



 もし君がこの屋敷に入ることができ、彼女に合えたなら彼女に、優しい悪魔に妻と息子を助けてくれてありがとうと言って欲しい。


PS.

 封印の解き方は、置物に手を置き、私たちの村の名と彼女と妻が初めて会った川の名前を唱えれば解ける。

 しかし封印が解けるといことは、彼女の魔力が漏れ出し再び聖職者に狙われる可能性があると言うこと。


 私の知識では、悪魔は契約で使い魔にすることができ、それにより漏れ出している魔力を抑えることができるはずだが、それは悪魔が認めない限りできない。さらに契約者と悪魔との相性もある。もし、君が彼女に認めてもらえて尚且つ相性が合っているのなら、是非とも彼女が聖職者に消されないよう、守ってあげて欲しい。

        マイケル=ストレジス】」



 なるほど、封印した目的はそういうことか。確かに悪魔らしくないな。けど、逆にそれが彼女の個性だと思う。無表情に見えて、その奥では相手を気遣う優しさがあるのだろう。

 というか素手で悪魔を追い返したって……。かなり強いのでは?


 とりあえず封印の解き方はわかった。一度村の名前とその川の名前を聞きに行こう。内容は、まっ、今は言わないほうがいい。自分で読んだほうがきっといいだろう。


----------------------------------------


「といわけで最後にいた村と初めてキャサリンさんと会った川の名前を教えてくれ」

「……どういうわけ?」


 戻ってきた俺は早速、階段に座って本を読んでいた彼女に封印を解くのに必要な単語の名前を聞いた。唐突だったため質問の意図が理解できなかったのか、どういうことかって聞き返された。うん、ちゃんと言わなかった俺が悪いな。


「この封印を解くにはそれが必要らしくてな。事情は後で説明するから、教えてくれないか?」

「はぁ、わかった。後で必ず、教えて」

「ああ、嘘はつかないから安心してくれ」


 小さくため息を吐きながらそう言ったあと、読んだ本を膝に置いて少し懐かしそうに虚空を見ながら答えた。


「私のいた村はソン、彼女と初めて会った川の名前は、クレイル川だった……はず………」


 覚えている自信が無くなってきたのか、どんどん声が小さくなってるが……本当に大丈夫か?ま、とりあえずわかった。ソンとクレイルだな。というか村の名前がソンって……。ただ村の読み方変えただけじゃないか。まあ偶然だろう。


----------------------------------------


 再びこの龍の置物の前に来たはいいものの、手が届かない……。とりあえず柱を利用して置物の上に立って手を当てた。まさか壁ダッシュが出来るとは思わなかったが、とりあえず封印を解いてみよう。


「えーと、“村の名前がソンで川の名前がクレイル川"でよかったか?」


 そう唱えた途端、屋敷を白い半球が包み込み、パリンッとガラスの割れるような音と一緒に砕けて消えていった。多分この半球みたいなのが彼女を封印していたのだろう。


 そして身体の中の何かをごっそり持っていかれるような感覚と共に、俺は置物からポトリと落ちた。身体を思いっきり打って痛いはずなのだが脱力感がすごく、痛いとすら感じない。封印を解いた時に、きっと魔力をごっそり持っていかれたのかもしれない。


「なんの音 ………?」


 落ちた音で気づいたのか、屋敷から出てきた。なるほど、封印は無事解けたみたいだな。


「……ユウト?」


 あー、ハイ、そうですがー?


 身体を思うように動かせずにいると、彼女は俺に近づいてきた。


「なるほど、魔力と生命力がごっそりもっていかれてる。このままだと………」


 俺にそっと触れた思いきや、そんなことを呟いた。なるほど、魔力と生命力を持っていかれていたのか……だから身体に力が入らないのか……。


 もしかしてこのまま…と思い、そのまま考えることすら放棄しようとした瞬間!


「……んっ」

「むぐぅっ!」


 思いっきり口づけされた。ちょっ、俺の初めてを!

 そうしてかれこれ一分ほどして、口が解放された。ああ、俺のファーストが……。しかも猫のまま……。できれば人の時にやりたかったなぁ……。なんて考えて閉じた目をゆっくり開いた。


「……どう?起きられる?」

「あ、ああ……。まあなんとかな……」


 未だにさっきのキスの感覚が口の中に残っていて……って、そろそろ正気に戻らないとな。

 そして今気づいたが俺の背中には柔らかく温かい感覚がある。真正面には幼さが残るも、男を引き寄せるような整った顔があった。顔はほんのりと赤くなっている。ああなるほど。膝枕か………………。

 ……なんだろう、夢のようなシチュエーションなのに側から見ればただ猫を膝にのっけているいるだけにしか見えないと思うと急に冷静になってきたな。



「ああそうだった。さっきなんで村と川の名前が必要だったかなんだが、そこの置物の後ろを見てみるといい。答えが書いてあるぞ?」

「後ろ?」


 膝から降りた俺はさっきの文を見せようと、さっきまで魔道具として働いていた像を指(?)差した。


 ゆっくりと像の後ろを見て、そして時間が経つと共にに、彼女は無表情のまま少しずつ涙を流し始めた。


「……そう…………」


 短い言葉しか無かったがその目には大粒の涙が流れていた。まあ、そら嬉しいよな。自分が悪魔ってわかっていた上でありがとうって言ってもらえたわけだしな。

 これをきっかけに、少しは自分に自信を持ってもらいたいものだ。


「ユウト、少し体、借りていい?」


 涙で訪ねてくる美少女!これはなかなかいいな!なんて発想は俺にはなかった。感動シーンでそんな空気読めないことを、いくら俺でもそんなことはしない。というかそんな趣味は元々ない。そんな変態はクラスの奴らだけだ。


「ああ、別にいいぞ」


 そう言い終わる前に俺の身体に顔を埋め、ありがとう、ありがとうと連呼して泣きじゃくっていた。彼女が初めて表情を崩した瞬間だった。

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