2: 拠点と桃りんごの確保
とりあえず俺は、今の状況について整理してみた。
多分ここはどこかの森の中だろう。そして多分日本でもない。
その証拠に、見たことのない模様の果実や、変な色の鳥が飛んでいたり見たこともない魚が川を泳いでいた。
見たことのない品種かもしれないと思ったが、流石に虹色の鳥は有名になるだろうし、一つ目魚も同じだろう。というわけでやはりここは異世界という結論にたどり着いた。
そして今最も重要なこと。それは俺の身体が十六年半共に過ごしてきた体ではなく、近所で見かけたような猫である。
ずっとコンプレックスとして抱えてきたこの目つきの悪さだけは健在だったが。せめてそこも変わってほしかった。どれだけあの爺の遺伝は強いんだ?
まあ、何にせよ今生きていることはありがたいことなのだろうけど。
そして猫は猫でも、今の俺は普通の猫とは言い切れない。二足歩行に人語を話す……そんな猫がどこにいようものか。俺の知る限り、長靴を履いた猫ぐらいしか知らないぞ……(その内、本当に長靴履いて見ようかな……。
そして俺は、丸腰でこの森にいることから一つのことに気づいた。
「食料と寝床をどうにかせねば………」
そう、今の俺には食べるものどころか住む場所もない。このままでは餓死するし、外敵……つまりモンスター的なやつから身を守ることすらできない。だって猫だもの。見たことのない動物にその内喰われそうだ……。
そうなると、まずは拠点となる場所を探す必要がある。とりあえず今いる河辺の近くに洞窟的な物は………あった。人が入るにはかなり狭いが、今の俺なら余裕で入ることができるだろう。
小さいおかげでしゃがむ必要もなく、立ったまま軽くなかを見渡した。今の俺にはそこそこ広い空間が中には広がっていた。中は暗く……と思っていたが、そんなことはなかった。元々猫は暗いところでもよく見えると聞く。そのおかげでだろうかよく見える。
それにしても猫って確か視力悪いはずでは……。今の俺には人の時と同じようにかなりはっきり見える。まあ、特に気にする必要はないだろう。
とりあえず敷布団の代わりにする為に、近くの藁を拾って中に敷き詰めた。かなり雑だが、寝床の代わりとしては十分だろう。
ついでに近くにあった、入り口を隠せるぐらいの岩も外に置いておく。これで中は見えないようになるだろう。
安全確保も出来たことだし次は食料か。
近くの木にりんごみたいな果物がなっている。それを取るべく俺は、その木を登り始めた。
それにしても、木を登ることができるか不安だな。小学校で木登りはやめたからな。というか、高校生にもなって登るやつはいるのか?
結果から言って、無事に登ることができた。というか簡単だった。やはり猫の体のおかげか?
俺は先程とってきたりんごを、食べられるのか?という不安と、もしかしたら美味しいのでは?という期待を半々にかじってみた。
もちろん片手で掴めるわけもなく、両手で持ってそのりんごに齧り付いた。
「なにこれ美味い!凄い美味い!」
歯ごたえはりんごよりもシャキッとして、味は、何とも例えられないがとても甘く美味しい。思わず叫ぶほどに。これはいいな!是非とも大量に確保しておきたい。後でこの木からぶら下がっているやつ全部採ろう。
十分ほどして俺は桃りんご(桃色のりんごだから)を食べきった。すでに満足だ。
あー、でもさっきの川に魚もいたなー。まあ、今はやめておこうか。多分流されて終わる。
ついでに掛け布団替わりに上から掛ける布も確保した。何であったのかは気にしない。血がついていたことも気にしない。気にしない…………。
とりあえずしばらくはこれで安泰だな。ここからは今いる場所を調べるために、探索をしてみようと思う。
さっき藁やら桃りんごやら集めながらある程度はわかった。 普通にモンスター、といより魔獣と言った方がいのかもしれないが。ともかく魔獣みたいのはいた。ただ温厚そうな感じだった。ツノがまっすぐな、鹿っぽいやつもいたが桃りんごをあげたら喜んでいるのか俺に頭をこすりつけてきた。ツノが当たりそうで怖かったです…………。
そうやって軽く探索していると日が沈んできた。水はとりあえずさっき見つけたヤシの実もどきの中身を取り出して、空になったその中に備蓄した。この身体はそこまで水を必要としないため、貯める量も少なくて済んだ。
水をためた理由は、いざ穴から出たら危険という状況になったときの為に飲み物が欲しいからだ。備あれば憂いなしってな。
藁を敷き詰めているうちに辺りは完全に真っ暗になっていた。ただ今の俺には大して暗くもなかった。
藁を敷いた後ヤシもどきと桃りんごを洞穴の中に入れ、先程の入り口を塞げるほどの大きさの岩を入り口に置いた。石は超重かった。
本当は夜も探索したかったが、先程から聞こえるオオカミに似た何かの鳴き声が何度も聞こえてくる。今出れば異世界に来て一日もせずに死ぬ羽目になる。一度死んだとはいえ、二度目だって死ぬのは当然怖いのである。
あまり眠くはないが夜にやることもないので、布団を被り素数を数えながら寝た。
あ、藁って意外と暖かいんだな………。