1: 森の中での目覚め
鳥の鳴き声と暖かい日の光を感じて、俺の意識は再び目覚めた。
しかし体が思うように動かず、さらに起き上がることができない。しかも太陽の光が眩しく、目をなかなか開けられない。
だんだんとぼんやりして何も考えられなかった頭もスッキリしてきた………。
そのスッキリした頭で、俺は今の状況について思考を巡らせた。
アレ、俺ってついさっき死んでなかったか?落ちてきた看板の下敷きになって血まみれになってたはずだけど………。
あ、もしかして生きていて今病院にいるとか?まだ体が治っていないから動かせないのか?声は……出るのかわからないけど………まあ、出してみるか。
「あー、あー……うん、声は出るみたいだな……」
それにしても、この布団なんかチクチクするな。病院のベットって結構寝心地が良いって聞いたはずだけど……。
眩しいながらも、なんとか目を開けることができた。だが、目に映ったのは病気の飾り気のない天井でもなかった。もちろんさっきの事故自体が夢かと思ったが目に映ったのは見慣れた俺の部屋の天井でもない。
俺の目に入ってきたのは沢山の木とそこから差す日の光だけである。
え、どういうことだ?ここはどこ、私は誰?……ってのは冗談だが。さすがに名前は覚えている。
………あ、もしかして転生、あるいは転移ってやつか?いや、そういう場合は大抵神様か現地人がいるはずだけど………。
とりあえずやっと動かせるようになった体を起こしてみた。それにしても、俺の目線ってこんなに低かったっけ?いや、別に俺は背は低くないはず……。最後に測った時も百六十五センチはあったし。
「とりあえず、自分がどこにいるのか把握しないといけないな。近くに村があれば今の場所がわかるんだけどな………」
とにかくこの辺りを調べてみることにした俺は、ゆっくりと立ち上がってみる。
おっと、今バランス崩しそうになったな。やっぱりまだ体が思うように動かないな。立つのがやっとだ。
かれこれ三十分ほど歩いたところに偶然川があった。ちょうどいい、少し喉乾いてきたからな。
手で水を掬って飲もうとした時、俺は大変なことに気づいてしまった。
「あれ、俺の手ってこんなんだったっけ?」
今見えた手には明らかに猫のものらしき肉球がついていた。おかしい。見間違えか?いや、まさかな…………。
ゆっくりと川の水面を見ると、水面には自分の姿がらしきものが映っていた。
そこには長年慣れ親しんだ体はなく、薄茶色の毛をもつ猫が立っていた。
あ、あははははは………………。
「そ、それはねーよ!せめて人の体は残してくれよ!」
思わず大声で叫んでしまった。
俺は見知らぬ土地で、それはまあなんとも珍妙なことに、喋る猫に生まれ変わっていたのだ。
現実はいつもシビア。小説みたいに最初からチート全開イージーモードということもなく、最初からハードモード、いや下手したらルナティックモードだ。
この体で俺はどうすればいいんですか?誰か教えてくれーーー!