0: プロローグ
よく友達や妹に言われていた。俺、秋山悠人は目つきが悪いと。
俺がまだ五歳の時、俺の母親は車に轢かれそうになった女子を助けて死んだ。いなくなった後、俺は中学生まで親父と妹と三人暮らしだった。
親父は大手企業で働いてたおかげでお金には困らなかった。
そして高校生になった俺は、地元から離れた県外の高校に通ってそこで一人暮らしをしていた。
アパート代は父さんが払ってくれたが、頼りきるのが嫌だった俺は、週六日ほぼ毎日コンビニやファストフード店でバイトをして食費と交通費はなんとか自分で稼いでいた。
高校では特に目立ってない……といえば嘘になるが、普通に仲のいい友人もいたおかげ学校生活を楽しかった。
もちろん目立っていたのはこの目つきのせいだ。特に睨んでもいないのにヤンキーに絡まれたり、女子や後輩に怖がられていたりしたっけなぁ………。
何故こんなことを今考えているのかというと、それは今から少し遡る。
五分前、俺は朝早くに本屋に行き新しいマンガや小説を買いに来ていた。本屋には新刊などの欲しい本がかなり多くあったが全部買うほどの余裕が金銭的になかったから、とりあえずめぼしい本を三冊ほど買って店を出た。しかし、本を買っているうちにバイトの時間ギリギリになってしまった。
その日はバイトがあり、シフトの時間の前に本屋に寄っていた。まだ六月の中旬、昨日降った雨でできた水たまりが其処彼処にある。
そんな水たまりを踏み、水がズボンにかかるのも気にせず、俺は急いでバイト先へ向かっていた。
「あー、少しのんびりしすぎたな………やばい、遅れたら店長に叱れる…………!」
急いでいて注意散漫になっていたからか、俺は上から落ちてくる看板に気づかなかった。
「危ない!!」
知らない人が叫んだ声で気づいたが、時すでに遅し、俺は平たい看板の下敷きになっていた。
体中の骨が折れ、臓器は潰れ、口から血が吐き出てくる。目は霞んでいき、意識もどんどん薄れていった。
痛い……体が熱い…………。
予想外の出来事で冷静な判断がほとんど出来ず、身体中に駆け巡る苦痛に耐えることで既に精一杯だった。
周りでは、悲鳴やら野次やらが多く聞こえていたが、あまりにも痛くて何を言っているのかは気にしていられなかった。それどころか、次第に聞き取るのも大変になっていった。
ああ……俺はここで死ぬのか……まだ本読んでいなかったし……もったいないなぁ……あ、でも……看板って思った以上に重かったんだな……。
周りから救急車のサイレンが聞こえてくるが、次第にそれが救急車ということすらわからなくなってきた。
次第に意識が薄れていき、もう目は開けられず声も聞こえない。立ち上がることも、腕を動かすこともできない。そしてついに、俺の意識は完全に途絶えた。