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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界に転移して奴隷になったけど、思いの外、居心地が良い件について

作者: 特撮仮面

 目が覚めたら檻の中だった。何を言ってると思うか分かんねぇと思うが安心してくれ、俺も全く理解できてねえから。


「――――?」

「え? …なんだって?」


 金髪にビール樽のような身体をした男が俺の檻の前に近づいてきて何やら話し始める。一体何がどうなっているんだ。彼の言葉は全く理解できないが、彼の服装とその背後に立っている屈強な男たちの服装から何となく役職を察する。

 ビール樽の男は物凄い髭を生やし、上等な服ときらきら光る宝石をたくさん身に着けている。そして側の屈強な男たちは手に槍を、身体には鉄製と思わしき鎧を着込んでいる。

 まるで教科書に出てくる中世ヨーロッパのような世界ではないか。もしかしてコスプレか何かか。だとしたらなんで俺をこんな檻の中に閉じ込めているんだ!?

 俺は衝動のままに檻の外に手を伸ばす。その瞬間、目の前に鈍く光るものが差し込まれた。

 槍の穂先。普段包丁やハサミくらいしか見たことが無い自分でも分かる、これならば人の身体を簡単に貫けるだろうと分かる武器。そんなものを突然目の前に出されて怯えない者が居るだろうか。俺は情けない悲鳴をあげて腰を抜かしてしまう。

 こいつらは一体何なんだ、ここはどこなんだ、俺は――混乱する俺の耳に男の声が聞こえてくる。


『聞こえていますか、そこの少年』

「だ、だれだ!?」


 さっきまで聞こえなかったれっきとした日本語。俺は慌てて周囲を見回すが自分以外に檻の中に居るものはおらず、そうなれば、と目の前に居るビール樽の男に視線を向ける。

 すると彼はまるで三日月のように口元を歪めると宝石を撫でながら言った。


『君は見たところ東の民のようだが…名前は?』

「お、俺は日比野世界ひびのせかい

『苗字、ですか。……すいませんが貴族の方ですか?』

「貴族? いや、一般家庭ですけど」


 俺がそう言うと、ビール樽の男と鎧の男たちが顔を寄せ合って何やら話し合い始める。微かに、いかい、とかおう、とか色々聞こえてくるけどどんな内容の話をしているかは理解できない。


『ふむ、貴方は今身分を証明する物など持ち合わせていますか?』

「身分……と言ってもなぁ」


 今の俺はラフなジャージにタンクトップ一枚という姿であり、そんな身分証明をするようなものなんて――とそこまで考えたところでふと俺は思いだした。


「あ! これがある!!」

『……何ですかこれは』

「運転免許証。知らないのかよ」

『うんて、なんですって?』


 怪訝な表情をするビール樽の男に俺は運転免許証について説明する。するとビール樽の男はどんどんと興奮していき、気付けば俺は自分の居た日本のことを粗方語りつくしていた。


『なるほどなるほど……面白い拾い物をしました。日比野君、今日は休みなさい。君の処遇はこちらが決めます』

「え、あ、はい……」


 そう言ってビール樽の男と屈強な護衛たちは去っていった。


 この日から、俺はこのソール帝国帝都、ソール・オルトゥスで奴隷としての生活が始まるのであった。



※※※※※※※※



「おはよう、日比野君」

「おはようございます先輩!」


 この世界にやって来てもうすぐ一年が経過しようとしていた。最初は言葉が通じなくてとても困ったものだが、ビール樽の男――名前はセウィチ・W・ノルドポルと言い、このソール・オルトゥスの上級市民で人材派遣会社を営んでいるらしい――は親切に翻訳魔法でこちらに分かりやすく説明してくれ、また仕事先の人々は皆自分に優しく、時に厳しく言葉を教えてくれた。そのおかげで俺は今、立派な奴隷として生活をしている。

 奴隷、この世界にも奴隷と言う物が存在し、昔はそれはもう酷い扱いをされていたらしいが、このソール帝国では昔から所謂奴隷制度というものが存在しないらしい。

 なら何故奴隷という単語が存在しているのか。それはこの奴隷という存在が、異国から流れ着いてきた移民や俺のような身元不明者の俗称だからだそうだ。

 このソール帝国には、上級都民、下級都民、奴隷の三つの身分が存在している。上級都民、もしくは上級市民や貴族と呼ばれる人々は、他の二つの身分と比べて多くの資産を持っており、それに合わせた税を納めている者のことを言い、それ以下が下級、そして家すらない者が奴隷となる。

 だから、奴隷なのに多少なりと税金を持ってかれてしまうのだ。だが、その代わり所謂奴隷と呼ばれる物のような、酷い扱いを受けることはない。多少売買されることはあるものの、それでも一般的な奴隷と比べれば扱いは天国と地獄くらいは違うだろう。それに低賃金と言えどもしっかりと仕事は斡旋してもらえるし、色々得する部分だってある。


「で、仕事終わったらどうする? また、行くか?」

「…行きますよ」


 例えば店での買い物。仕事の給料以外に、セウィチさんから渡される会社員としての給料があれば、しっかりと生活するだけの――きちんと計算すれば独立して名誉ソール帝国民の資格を得て下級市民として生活することだってできるし、品質は悪いが奴隷には奴隷用の品物をしっかりと売ってくれる。

 そして、今先輩が誘ってくれたように、同じ奴隷である女性たち――娼婦として金を稼いでいる女性たちを抱くことだって可能だ。しかも奴隷価格で。ただ、平均賃金が安いために人気娼婦のような高嶺の華に手は出せないが。


「そろそろ他の子にしたらどうだよ? あの子は難儀だぞ?」

「何言ってるんスかッ!? サキュバス娘とかドストライクじゃねえですか!!」


 俺が拳を握りしめ熱く語ると、先輩ははいはいと苦笑しながら去っていった。

 その背中に声をかけようとするけど、現場監督の声が聞こえてきて俺は少し釈然としない気持ちを抱きながら現場へと向かうのであった。


 今日の仕事は街道の整備だ。このソール・オルトゥス周辺の道を全て点検し、必要なら石の交換や縁石の修理などを行う仕事。大量の石を運びつつ素早い仕事が要求される、とても大変な仕事だった。だが、今回は運がいいらしい。


「カイさん!!」

「お、世界か。今日は一緒の仕事みたいだな」

「はい!! 今日はよろしくお願いします!!」


 鬼のような、龍のような威圧感のある兜。全身の棘がその鎧をより凶悪に、狂暴な印象を抱かせる。

 見た目はとてもおっかない鎧を着た人であるが、この、カイ・S・マオウという男性はこれ以上なく良い人だった。人は見た目に寄らないとはこのことを言うのだろう。


「さて、ちゃっちゃと済ませるか。とりあえず――」


 手伝ってくれと言われ、俺は嬉しくなって思わず思い切り返事をしてしまった。

 カイさんが来てくれて何故ここまで嬉しいのか。それは彼が魔法を使用できることに起因する。

 魔法。異世界と言うだけあってその技術は凄い興奮して、実際色々便利な代物――なのだが、残念ながら奴隷では魔法の力の宿った道具なんて買えないし、魔法が使える人というのはそれだけで貴重な戦力となりうるため軍事や研究の部門に就く人が多いと聞く。


「うん、いつも通り少ないのな。お前ら俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ」

『てへぺろ☆』

「うん、後で全員説教な」


 俺の教えたごまかしをすると、彼が少し拳に力を入れていった。

 流石に怒られるかッ!? 彼はどれだけふざけても大体許してくれるので今回もいけると思ったがそんなことはなかったらしい。

 だが、カイさんはため息を吐くと俺たちが引っ張ってきた荷台から砂利と水の入った水筒を持ちだし、地面に座って不思議な呪文を唱え始めた。


「カイさん! こっちの縁石頼みます!!」

「カイさん! こっちも!!」

「ほんと頼る気満々だなお前たちは!?」


 すると、不思議な陣が地面に浮かび上がり、カイさんの手にある一滴の水と掌に掬った砂利がみるみる形を変形させて道路に敷き詰めている石になってしまった。

 これが、魔法。本来ならば国益のために使用されるはずの魔法を、彼はこんな奴隷の仕事にも快く使用してくれる。彼曰く、豊かに出来る力を使って何が悪い、ということだが、そんな考え方ができるのは世界広しどカイさんくらいなものだろう。そして、皆そんなあけっぴろな彼のことが大好きなのだ。


「世界、さっさと運んで来い!!」

「はい!」


 俺はこっちで量産しとくからと言われ、俺は次々と作られていく石材を台車に載せて運び始める。

 俺の仕事は、こうした荷物運びなどの力仕事がメインになっている。これは元々俺が身体を鍛えていたことや大学をスポーツ推薦で入学した実力が起因となっているのだが、まあそれは別の話。



 そうやって仕事をし終えた日は、俺は真っ先に奴隷小屋に走る。

 手にはいつもより重い皮袋。カイさんの力があったとは言え整備区画の制覇どころか次の日の区域まで仕事をしたことで臨時のボーナスが貰えたのだ。

 その時現場主任に言われたことを思い出す。


「早くしないと誰かに盗られるかもしれねえぞ……」


 そんなことは絶対に嫌だ。俺は奴隷小屋――娼館となっている紅い天幕の小屋に飛び込んだ。


「あのっ!! サクさんお願いしますッ!!」

「はい、サクさんですね。少しお待ちください」


 きわどい格好をした受付のお姉さんが苦笑しながらそう言う。

 相変わらずなんだね、とでも言いそうな顔だが、仕方がない。サクさんは自分の理想の女性なんだから。



「…また来たのね、貴方」

「何度でも来ますよ。サクさん」


 紐のような、最早服として機能していない服を着込み、その上に上質なコートを纏った蠱惑的な女性。彼女の名前はサク・イリュージョニス。魔族の中でも吸精能力に長けた夢魔の一族、サキュバスであり、この娼館で最も奇抜な女性。

 彼女の何が奇抜なのか――それは、彼女が処女であり、決して男性に手を出さず出させないことに起因している。

 彼女と一晩過ごす男性は、彼女の手によって眠らされいい夢を見るようなのだが、その夢を見た後はもう二度とサクさんを指名することが無いのだ。

 サクさんはとても肉感的な身体をしていて、正直こうして見ているだけでも若さが暴走しそうになるくらいなのに、不思議なことに他の男たちは一度サクさんと一晩過ごしてしまうとそれ以降は特に何も感じなくなってしまうらしい。


「今日もいつもの夢?」

「はい! よろしくお願いします!!」


 彼女の檻に入り、ベッドに腰かける彼女の太腿に頭を預ける。

 まるで高級な枕のように俺の頭を受け止め、反発してくる柔らかく暖かい彼女の太腿の感触に酔いしれながら俺は目をつむった。

 今日も良い夢が見られそうだ。



※※※※※※※※



「……眠ったのね」


 静かに寝息をたてはじめた彼を見て私はホッと息を吐いた。

 今日もいつものように振る舞えていただろうか。身体の奥底から湧き上がる衝動に気づかれていないだろうか。

 彼は歪な人だ。ヒーローと悪の組織。天涯孤独の身となり、多くの者に恐れられながらも踏ん張って、必死に生きてきた。そしてそれは今でも変わらない。

 あまりにもかわいそうで、あまりにも健気で狂いそうになる。彼が夢の中で自分への想いをぶつけていなかったら今頃どうしていただろうか。

 彼は私の夢の中でその内側にある欲望を全部叩き付けてくれる。その言葉の、その欲望のなんと甘味なことか。今まで味わったことのない感覚は、必死で私のことを想ってくれる彼の姿は私を夢中にさせる。

 だが、ここでことを仕損じてはならない。夢の中で何度も聞いた彼の独占欲と、その為に必要な名誉ソール帝国民の権利と私の買収。ああ、この愛しい人が私を買ったとき、私は彼をどうしてあげようか。

 まずはよく買ってくれたと褒めてあげよう。抱きしめて、キスをして、彼は初心だからきっと顔をリンゴのように真っ赤にするに違いない。いや、あえて意地悪を言ってみるのも悪くないかもしれない。嗚呼、嗚呼、でも、何よりもまずは――


 彼を蕩けさせてあげよう。


 彼は私を買うために一生懸命頑張っている。なら私は買ってくれた彼に一生を、この命全てを懸けて幸せにしなければならない。彼は頑張っているのだ。だから私が頑張った分だけご褒美をあげよう。彼に最高の家を、家族を、愛する物を与えよう。彼は一生懸命な人だ。だから彼の魅力に気づいてしまう人が出てくるかもしれない。それはいけない。彼を蕩けさせるのは自分の役割であり、幸せなのだ。それは奪われてはならない、奪われることのない絶対不可侵のモノ。

 そうなるとまずは国に帰る必要がある。でも未来を想ってこれほど楽しいのはいつ以来だろうか。魔王と共に居た頃から? いや、あんなものとは比べ物になら無い幸福感。生まれて初めてだ。


「安心して、私が貴方を一生甘く、蕩けさせてあげるから……ふふふっ」



※※※※※※※※



 今日も夢見はバッチリ。サクさんに今日も最高でしたと挨拶して俺は天幕から出る。

 太陽がまぶしい。けど、この太陽はきっと俺の明るい未来を暗示しているに違いない!!


 名誉ソール帝国民まで、そして何よりサクさんを手に入れるまであと少し。


「がんばるぞぉおおおおお!!」


 俺の奴隷ライフはこれからだッ!!



※なお、この主人公奴隷卒業と同時に人生も卒業する模様。


pecoさんの活動報告、異世界に転移して奴隷になったけど、思いの外、居心地が良い件について、という内容のネタから生まれたこの作品。折角なんで地味にうちの二作品と世界観が一緒だったりします。


軽い人物紹介

日比野世界君:大学生。イジメられてたり天涯孤独だったりヒドイ人生だったけど、カラテとジュウジュツで大体何とか出来る最強人間。奴隷生活に馴染んできてもうこのままでいいかなと思うことも。夢はサクさんとの甘々生活。

カイ:拙作のある異世界の魔王事情の主人公。何か無茶苦茶怖い鎧纏ってるくせに普通に良い人。というか変人。帝都では猫探しと猫捕獲の達人、家事万能な鎧姿の妖精が居るという噂が…。

ヒーローと悪の組織:拙作の悪の大幹部の日常から、ヒーローと悪の組織。あの世界、天涯孤独、片親、復讐者普通に居る実は結構ヤバい世界なのよね。

セウィチ:ビール樽の人。世界君を拾った張本人であり、人材派遣会社の社長でお金持ち。何か普通に良い人。

護衛の人達:自称双璧のマッスル。筋肉術と呼ばれる一子相伝の技を使用することで筋肉に疲労と乳酸を蓄積させることを引き換えにあらゆる奇跡を起こすことができる。

サクさん:娼婦の人でサキュバスの人。ムチムチボインで性技の味方。エロ過ぎて世界君ずっと股間の波動砲が充電されちゃう感じ。実は実家がお金持ちで本人も滅茶苦茶強いけど気まぐれで奴隷してる人。将来の夢は世界君との甘々トロトロな生活。尚、この人愛がバベルガグラビドン並に重く、正常状態でダメンズ製造機なため世界君がこのままいくと彼女に日常の全ての世話を焼かれて、砂糖にサッカリンと練乳を混ぜて三倍高い跳躍と三倍の回転力で三百万甘さによって蕩けてしまう模様。


 世界君の明日はどっちだ!!

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