抱いてはいけない感情
私小説風小説です。彼らの甘く切ない物語。最後までご覧ください。
平成20年8月25日午後1時頃。大阪市内の単位制高校に進学した俺は、軟式野球部の部活を終えて帰路についていた。
学校を出た時は夏らしいうだるような暑さと日差しだったが、東大阪市に入った途端に雲行きが怪しくなり、あっという間に土砂降りになった。
雨具なんて用意してなかった俺はまともに浴びてしまい、家に着いた時にはパンツまでずぶ濡れになってしまう。
「ふいー、ひっでぇ雨。雨は好きだけど、ここまで降られちゃあなぁ」
俺は玄関先で服を絞りながらそう言い、シャワーを浴びようとパンツ一丁で、風呂までの動線上にある居間の戸を開けた。
と、ほぼ同時に風呂場の戸が開き、そこから出てきた千星と鉢合わせとなった。
家の風呂だから体にタオルなんて巻いてるわけないし、兄妹同士だから変な感情なんて、普通湧くはずがない。なのに俺は、わかりやすく動転して、居間の戸を慌てて閉めた。
下着姿の俺が帰って来たことに、千星も少なからず驚いてたみたいだけど、そんなことが吹っ飛んじまうくらい、俺は心臓が飛び出そうなほどドキドキしている。
俺は冷静になろうと深呼吸し、脳裏に焼き付いた千星の裸を思い返す。
(千星の奴、成長してたなぁ……特に一部分)
根がスケベな俺は、12歳になった妹の裸にムラムラして、鼻の下が伸びきっていたが、俺の中にいるペガサスの咳払いと指摘が聞こえてきて我に返った。
(翔馬君。完全にタイプだよね? 彼女のこと)
俺は認めたけど、内心、複雑だった。
さっきも言ったが俺と千星は実の兄妹だ。天国じゃそんなの普通らしいけど、ここは地上で、日本だ。今まで当たり前だった常識が、最愛の妹にドン引きされんじゃねぇかっていう不安を駆り立て、俺に二の足を踏ませる。
そんな俺にペガサスは優しく応援してくれた。
(翔馬君。常識に縛られる気持ちはわかるけど、それにとらわれずに想いを伝えて、幸福を勝ち取らなきゃ、そういう愛は実らないと思うよ)
俺は照れ隠しから否定したが、長年一緒に生きてきたダチには全部お見通しで、俺が2年前からあいつのことが好きだったことまで言い当てられた。
そのことに悪態をついた俺は、親友の応援を心に留め、千星が着替え終わるのを待ってから、風呂に向かった。