恥じらう乙女心
私小説風小説です。彼らの甘く切ない物語。最後までご覧ください。
平成18年6月13日。この日、千星は10歳の誕生日を迎えた。
千星は、中ぐらいの容姿であるあの両親からは考えられないほど、美しく育った。
それだけじゃない。幼稚園から始めた卓球やテニス、バドミントンやバレーボールはおとん譲りの運動神経で、全国大会レベルの実力があり、勉強の方も学年トップクラスの成績を修めていた。
その上、親の教育が良かったのか、性格も優しくて素直で、大人しい一方で芯が強く、おまけに家事まで完璧と、まさに才色兼備で文武両道の誇れる妹だった。
強いて欠点を挙げるとしたら、50メートル走11秒台という鈍足っぷりくらいで、鳶が鷹を生むとはこのことだと、当時中3の俺は思っていた。
そんな兄貴として劣等感を抱えつつも迎えたこの日の朝、俺は日課である花壇の勿忘草に水やりをしている千星に、誕生日を祝う言葉をかけてから、何が欲しいか尋ねた。千星は少し悩んでから、恥ずかしそうに何かを呟いた。
「ん? 何て?」
「だから、その……熊の……ぬい、ぐるみ……」
千星が欲しがる物に思い当たる節があった。
近所のおもちゃ屋に新しく入荷されたデカい熊のぬいぐるみ。そのキュートな見た目に、千星は通る度にずっと気にしていた。幸い、小遣いとお年玉を貯め込んでいた俺なら手が届く金額だ。
俺が買ってくることを伝えると、千星は頬を赤らめて礼を言う。
「そんなに恥ずかしがる物じゃねぇだろ?」
「だって、10歳にもなって……」
女子の精神年齢の成長は男子より早い。千星も1人の女子だと改めて知った俺は、妹の頭を撫でて、
「千星。ぬいぐるみをかわいいとか、欲しいとか思うのに、歳は関係ねぇ」
「そう?」
「あぁ。そういう乙女らしいとこがあっても、俺はいいと思うぞ」
って言って、ためらうあいつの背中を押してやった。おかげで千星も吹っ切れたみたいだ。