千の星を守る守護の暴風
私小説風小説です。彼らの甘く切ない物語。ご覧ください。
全て話し終えたあと、俺の心は怒りと悲しみに満たされていた。
「……あいつは自分の能力を誇示したりなんか全然しなくて、誰にでも好かれるいい奴だったんだ。なのに……」
俺は悔しくて仕方なかった。あの時、消火効率が悪くなってでも、千星と一緒に行動してれば、あんなことにはならなかったかもしれない。
それに、1つだけどうしてもわからねぇことがある。俺みてぇなマイナスだらけの歪んだ野郎が殺されんならまだしも、なんで千星が殺されなきゃならない? あんないい奴が殺される理由なんてどこにも無いはずなのに。
(翔馬君。そういうことは予知でもしない限り、夢にも思わないことだよ。僕も戦争で大切な者を大勢失った。彼女達の死を今でも後悔してる。僕が不甲斐なかったせいで、死なせたようなもんだから)
ペガサスに慰めの言葉をかけられた俺は、しばらくだんまりしていたが、千星のためにある決心をした。
今までは死んでもずっと、ペガサスの中にいて、こいつの弱い心を永遠に支えてやろうと思ってた。
けど、千星のことを思い出した以上、この世界に留まってる場合じゃねぇ。俺はペガサスの存在意義が果たされたのを見届けたら、千星を救いにあの世界に帰る。あの日の悲劇を繰り返させないために。
「俺はどんなことがあっても千星を守る! 千星を殺そうとする奴らの魔の手から、この命を賭けてでも必ず……!」
そう言いかけた直後、ペガサスは俺の左手を操って、俺の下顎をぶん殴った。
「つっ……何しやがんだ!」
殴られてブチギレる俺に、ペガサスは俺以上の怒りをぶつけてくる。
(翔馬君。京都でのこと忘れたの? 彼女がそれを本気で望んでると思ってる? 君が彼女を守るために死んだら、残された彼女はいったいどうなるんだ!?)
ペガサスの剣幕に、俺の怒りは一気に鎮まった。
(『死んでも』なんて、僕みたいな心の弱い者が口にする言葉だよ。翔馬君はそこまで弱くない。だから……生きてよ。生きて、彼女と一緒に幸せな日々を過ごしてよ)
親友の怒りと願いを聞いた俺は、さっきの言葉を深く反省した。
「……ったく、心が弱いお前にそこまで言われるとは、俺の心も相当弱ぇな。わかったよ。俺、千星をちゃんと守りきって、しわくちゃのジジィになるまで、あいつとの幸せな日々を送ってみせる! そのためにも、何の意味も価値も無いこんな世界、さっさとおさらばしてやるよ!」
俺の決意を聞いたペガサスは、さっきまでの怒りから一転、俺達の人生を応援してくれた。
これだけ親友に励まされてんだ。もう迷わねぇ。俺は記憶を呼び起こしてくれた桜に背を向けて、自転車のペダルを漕ぎ、風を切った。
もっとも決心しただけで、万事上手くいくとは思っていない。
今のところ犯人も動機もわかってねぇし、それ抜きにしても、元々、俺達の恋は実の兄妹同士の禁断の恋。前の世界に帰ったところで、強風並の逆風にぶち当たるだろう。いや、ひょっとしたら、風どころか巨大な壁かもしれねぇ。
けど、俺は怯まねぇ。どんな障害があろうと、あの悲劇を回避して、幸せな日々の中であいつに勿忘草を送って伝えたいんだ。
『千星のことも、千星との真実の愛も忘れてなかった』って。
そのために俺は、今度こそ千星を守り通す。
だって俺は千星という光を守るため、逆風を切り裂き、壁をも風化させる守護の暴風だから…………
いかがでしたか?これを読んでくださった方の中には、翔馬の妄想だと言う方もいらっしゃるかもしれませんが、あくまでこれは彼の実体験です。
彼やペガサスの語ることはエゴそのものだったでしょうが、この物語の全てが彼の体験であり、真実であり、そして覚悟です。




