鴨川にて
私小説風小説です。彼らの甘く切ない物語。最後までご覧ください。
清水寺をあとにした俺達は、五条大橋とかを散策してから昼食をとり、午後2時頃、鴨川を訪れた。
これまた見事に満開の桜並木があり、俺達はその下を優雅に散歩した。
つっても、俺は五条大橋の欄干から、牛若丸みたい飛び降りてカッコ良くキメようっていう、17にもなってガキっちいバカなマネをしてしまい、着地をミスってデカい尻餅をついちまったから、ケツがズキズキと痛んでるけど。今更ながらやんなきゃよかった。
そのことを話のネタにしながら歩く俺と千星を、桜達は暖かく迎えてくれた。
そのあまりの美しさに、会話が一段落した俺達は見とれてたけど、俺と千星とじゃ美しさの捉え方が違っていた。
俺は桜の美しさは、春の間の短い刹那的なものだって思ってたけど、千星はそれぞれの四季ごとの姿に味や風情があって、どれも甲乙がつけがたいって語ってた。
一方からしか見えてなかった俺は、そんな千星の感性や視点に脱帽する。
「ほんっと、千星にはかなわねぇな。感性も知性も」
「感性はお兄ちゃんの方が上だよ。それに、私には無いものをお兄ちゃんは持ってる。桜が色んな美しさを持ってるように、誰しも色々な長所を持ってる。それはもちろん、お兄ちゃんだってそうだよ」
いつものことながら千星の言葉って、真っ直ぐで力強くて的を射てる。同じ天使が中にいる者同士なのに、どうしてこうも違うのかと、この時、俺は思った。けど、きっと千星のそういう性善説で常に正しいところに惹かれたんだろうな。
「多分、お兄ちゃんもペガサスさんも根っこではわかってるはずだよね? 人のそういういいところを」
千星の問いかけに俺は後ろめたく思いつつも頷き、うつむいた。
「……とっくにわかってる。絶対悪じゃないってことぐらい。俺もあいつも。でも……」
そう。今更引くわけにはない。
あの時の自殺失敗で、ペガサスは帰ることができず、『壊れた人形』を自称して、中止を言い渡された使命を存在理由にしている。記憶も完全には戻っておらず、自暴自棄となっているペガサスは、今や信念だけで心を支えてるだけの弱々しい存在に成り果ててしまっている。
そんなダチ公を見捨てることなんて、俺にはできない。なんてったって、千星と同じぐらい大切で、生まれてからずっと一緒の大親友だから。