混浴を賭けて
私小説風小説です。彼らの甘く切ない物語。最後までご覧ください。
午後5時頃。テーマパークをあとにした俺達は、宿にチェックインした。
部屋に入ると、一番値段の安い部屋の割には広くて、窓の外からは満開の桜が見える。
この宿はどの部屋からも桜が間近で見れるのをウリにしてて、しかも窓を閉めさえすれば、俺みたいな花粉症の奴でも安心して花見ができるってことで、春になるとほぼ毎日満室になるらしい。
そんないい部屋に感動してから、俺達は荷物を置き、桜を見ながらゆったりと茶を飲んだ。
しばらくの間、今日1日の感想を言い合っていた俺だったが、茶を飲みきった頃に思いつきから、千星に卓球1ゲーム勝負を申し出た。敗者は勝者の言うことを何でも聞くっていう罰ゲーム付きで。
もちろん、ただで勝てるとは思っていない。
前にも言ったが、千星の卓球の腕は全国大会レベルだ。それは卓球部が無く、バレー部に入った今でも変わらない。
その力の差をわかっていた千星は最初、俺に勝ち目が無いって理由で断ったけど、粘り強く交渉して、1ポイントでも取ったら俺の勝ちっていう超ハンデ戦にしてもらうことで、勝負を受けてくれた。
ん? そこまでして卓球をしたい理由? 俺が勝つっていう大番狂わせを起こして、恥ずかしがる千星と一緒に家族風呂で混浴するためだよ。それ以外何がある?
てなわけで、俺達は晩飯前に卓球勝負をした。
こっちは気合い十分だし、千星だって人間だ。ミスの1つや2つぐらいするはず。そこさえ突ければ勝機はある。そう思い、構える俺に放たれた本気のスライスサーブが、俺の甘い考えを粉砕した。
数分後、俺は1ポイントも取れずに敗北した。
こっちがサーブの時はまだ2ラリーぐらい続いてたが、千星がサーブの時は玉に触れることすらできず、絵に描いたような完敗を喫した。
まさかここまでとは思わず、深く落ち込む俺を見て心配した千星は、やりすぎたと反省した。俺から言い出した勝負なのに、こんな気分にさせちまうなんて、情けねぇことこの上ねぇ。
それでも千星は俺に気遣ってくれて、
「そうだ、お兄ちゃん。汗かいたし、晩ご飯まで時間があるからお風呂に入ろう」
って、気分転換も兼ねて言ってくれた。
なのに、下心丸見えな俺は、そんな千星の優しさが混浴のお誘いかとちょっと期待してしまうが、流石にそんな上手い話があるわけがない。
案の定、千星に申し訳無さそうに断られた俺は、オッサン共のきったねぇ裸を見ないようにしながら、男湯を満喫することになった。
壁1つ挟んだところにいるってぇのに……そう思うと、ため息が漏れてくる。