記憶を呼び起こす桜
私小説風小説です。彼らの甘く切ない物語、最後までご覧ください。
平成23年4月6日。俺、田中翔馬は久々の休暇ということで、サイクリングをしていた。
昔は家族5人で暮らしていたが、中学校卒業前にある事件が起きて、俺以外の家族が全員死に、今は一人暮らしをしている。
ま、昔っから家族が大っ嫌いだった俺にとしては願ったり叶ったりで、今の方がとても充実してる。
で、本当なら、中学の時から付き合ってる恋人とデートに行く予定だったんだが、体調不良でキャンセル。家にいてもやることが無いから、最寄りから7つ向こうの駅の近くにあるゲーセンにでも行こうってことになって今に至る。
「ったく。あいつ、体調管理ぐらいちゃんとしろよな」
(しょうがないよ。だって彼女はガサツでズボラだから)
俺の話し相手になってくれてるこいつの名前はペガサス。
俺の唯一無二の親友で、細かいことは後々語るとして、ある使命から俺の体の中に居続けている聖天使であり、光の神だ。だから当然、姿を現さない限り、他の人には見えないし、声も聞こえない。
ちなみに、俺の家族を皆殺しにしたのもこいつ。
「けどよぉ……」
そうぶつくさ言いながら、俺は自転車を漕ぎ続けていたが、ある光景に目が留まり、自転車を止めた。
それは川沿いに美しく咲き誇る、満開の桜。時期が時期だけにそれほど珍しいものではなかったが、不思議とその姿に俺は魅入られていった。
と、その時だった。頭の中に、今まで経験したことのない思い出がぶわっと湧き上がってきて、1人の女の子の顔が鮮明に浮かんだ。いや、あれは思い出したと言った方が正しいのかもしれない。
いずれにしても、俺は当惑した。あまりにも荒唐無稽だったのに、この世界と似すぎててリアルだったから。
(どうしたの? 翔馬君)
心配して尋ねるペガサスに、俺は感じたことをそのまま伝えた。
「ペガサス、思い出したんだ! 俺の大事な奴を、大切な妹のことを!」
俺の言葉にペガサスは最初、ポカンとしていたけど、やっぱ俺なんかよりずっと知識が豊富なだけあって、すぐに理解してくれた。
(まさか、前世の記憶を!?)
「これが前世の……?」
親友の答えに、俺は納得した。
断っとくが前世っつっても、俺が思い出したのは時間的概念の前世じゃない。空間とか可能性の方、いわゆる並行世界の俺の記憶だ。その証拠に思い出した記憶は全部、俺が生きてきた時間軸とまるっきり同じだった。
そして、そんな類似した世界にあいつはいる。
「……だったら、こっちの世界に妹が、千星がいなくても不思議じゃない」
(翔馬君、教えてくれる? 彼女のことを)
ペガサスにそう頼まれて、俺は話し始めた。前世の俺と千星のことを包み隠さず、全て…………
この作品に登場する翔馬とペガサスは、今後、様々な作品に登場する、いわば僕の分身です。彼らのセリフの大半は、僕の心からの主張です。