ダンジョン編
現代日本にダンジョンが登場し始めから早くも半世紀が経過した。
最初、ダンジョンは単なる立ち入り禁止エリアだった。
だがダンジョンは放っておくと魔物を産み続ける。
ダンジョンから溢れ出した魔物はダンジョンの外に出て民衆を襲う事が明らかになった。
政府は定期的にダンジョンで魔物討伐する事になった。
しばらくダンジョンでの『間引き』が行われた。
しかし、日が経つにつれて深刻な事態が判明する。
『ダンジョンは成長している』
『ダンジョンは数を増やしている』
『成長したダンジョンはより強力な魔物の生み出している』
人々は魔物の間引きが場当たり的な対策である事を知る。
そして、成長したダンジョンが産み出した魔物は『飛び道具無効』、つまり銃火器が全く効かない。
という事は銃火器を装備した自衛隊が戦力にならないのだ。
そこで誕生したのが民間の『冒険者ギルド』
『冒険者ギルド』とはダンジョンで手が回らなくなった自衛隊に変わってダンジョンでの魔物討伐をする『賞金稼ぎ達』の集団だ。
俺はそんな賞金稼ぎの一人だ。
討伐したモンスターの証明部位をギルドの受付に提出する。
「はい、8万円ね」
ギルドの受付嬢が明細を差し出す。
報酬はカード内の電子マネーに振り込まれる。
俺が今、ここで受け取るのは振り込まれる金額の明細だけだ。
8万円か、『日給8万円』と考えると『悪くない』と考える人もいる。
『命の値段が8万円』と考えると『割に合わない』と考える人もいる。
色々な考えがあるがこれが俺の生業だ。
それともう1つ『割に合わない』と考える人は多い理由に『冒険者は探索準備に金がかかる』というのもある。
より高い報酬を受け取るには、より強力なモンスターを倒さなくてはいけない。
より強力なモンスターを倒すためには強力な装備が必要だ。
強力な装備を買うには沢山の金が必要だ。
時々思う、『自転車操業とはこの事だ』と。
研究が進むに連れて『わかってきた事』と言うモノもある。
『ダンジョンは意思を持っている』
ダンジョンは頻繁にその姿を変える。
具体的にどう『変わる』のかというと、ダンジョンの通路が変化するのだ。
『道順が変わる』とでも言えば良いのか。
先にも『ダンジョンは成長している』と言った。
『成長の過程で道順も変わるんじゃないか?』
もちろんそういう学説を唱えた学者もいた。
しかし、探索が進んで冒険者達の意見を聞くと、『どうもそうではないらしい』と。
ダンジョンは『奥まで招き入れる冒険者』と『侵入を拒絶している冒険者』がいるらしい。
『侵入を拒絶している冒険者』がダンジョン内に足を踏み入れると、ダンジョンは冒険者を道に迷わせる。
そして、元来た入り口に冒険者を誘導する。
つまり『帰れ』と門前払いするのだ。
逆に『奥まで招き入れる冒険者』は簡単に下層へ、下層へと行ける。
もちろん、下層のモンスターは強力で導かれるまま下層へ行った冒険者は酷い目に合うのだが。
『ダンジョンに好かれる冒険者』の特徴は明確だ。
『男である事』
『ダンジョンから嫌われる冒険者』の特徴もまた明確だ。
『女である事』
女性冒険者がダンジョンの地下三階より下に潜った記録は皆無だ。
いつの間にか女性冒険者はいなくなった。
生業として成立しないからだ。
モンスターは冒険者の命を狙って攻撃してくる。
ダンジョンで命を落とす冒険者は少なくない。
ダンジョンからは日々、冒険者の遺体が運び出される。
そしてそれと同じくらい多いのが『行方不明者』だ。
どこへ行ったのかはわからない。
有力な学説は『ダンジョンは生きている。行方不明者はダンジョンの餌になった』というものだ。
『ダンジョン研究』が進むとわかってきた事がもう1つある。
『ダンジョンは女性を拒絶しているんじゃない。
ダンジョンの奥には女性が暮らしている』というものだ。
信じない者も多い。
だが、俺はダンジョン探索中、ダンジョンの奥で裸の女性を確かに見たのだ。
そんな話はどうでも良い。
女性は俺を見て、攻撃の意思を全く見せなかった。
何かを言おうとしていたが、瞬間的に俺と女性の間に壁がせり上がった。
まるで、ダンジョンが『この男と女性が出会うと都合が悪い』と判断して意図的に地形を変えたようだ。
謎は謎のままだが俺に危害がなくて、俺の生業に影響がないならどうでも良い。
むしろ女性には会いたくない。
女性に合うとせっかく地形を記憶しても、地形が変わってしまう。
デメリットしかないのだ。
『女性がどこから来た何者達なのか』、俺は気にしない事にした。
ダンジョンにはパーティを組んで攻略するのが普通だ。
だが『未踏破エリア』を探索する冒険者はソロの事が多い。
何故か?
優れた冒険者にとって仲間は『足手纏い』なのだ。
俺は地下13階まで到達していた。
俺が優秀な冒険者であるというのもある。
俺が『ダンジョンに気に入られてダンジョン奥まで招待された』というのもある。
しかし渡りに船だ。
ダンジョン奥のモンスターの証明部位の方が大金になる。
それに『未踏破エリア、踏破ボーナス』『未発見モンスター、討伐ボーナス』も手に入る。
この階層を踏破しモンスターを討伐すれば、より強力な装備が手に入った上に、半年は遊んで暮らせる!
欲が俺の瞳を曇らせた。
地下13階層には1つ目の大男のモンスターが登場した。
(こんなの力じゃ敵わない!)俺は瞬時に判断した。
逃げようにも一歩のストロークが違い過ぎる。
俺と同じように動けるなら逃げれる可能性は低い。
それに逃げた先にもう一匹1つ目の大男がいたら?
そうなれば2対1になってしまう。
『数の有利』というモノは絶対的に存在する。
だから冒険者達はパーティを組むのだ。
ソロ冒険者は格上の敵と遭遇した場合、取れる作戦が貧困だ。
後悔は後回しだ。
今はやれる事をやろう。
基本に立ち返ろう。
昔、ギルドの教官は何て言ってた?
『巨漢の敵に力で対抗するな。
「1キロ重けりゃ、1キロ強い」と思え。
そんな時「柔よく剛を制す」という言葉を思い出せ。
巨漢の敵は足を狙うんだ。
神話じゃ無敵のアキレスも足首の腱を切られて負け、巨人タロスも足の釘を抜かれて失血死する。
それに巨漢なんて足くらいしか激戦の中じゃ狙えないだろ?」
そうだ、足を狙うしかない。
それにたとえ勝てないとしても機動力を奪えば逃げきれる。
生き残る可能性が高くなるのだ。
俺はポーションを五種類取り出した。
これを全部飲んだら大赤字だ。
でもそんな事言ってられない。
『命あっての物種』だ。
『スピード向上』
『攻撃力向上』
『防御力向上』
『反応視力向上』
『魔力耐性向上』
鼻血が吹き出る。
完全な薬物過剰摂取だ。
しかも強力な薬物を同時摂取している。
副作用だって出てるかも知れない。
だけどそんな事は言ってられない
大男の棍棒が俺に迫る。
だが、棍棒の動きはまるでスローモーションだ。
反応視力が上がっているのだ。
大男の股の間をスライディングでくぐり抜ける。後ろから地面を揺らす轟音が聞こえる。
棍棒の打撃が空振って地面を抉ったのだ。
あんな一撃を直撃したらひとたまりもない!
俺は大男の後ろにいる。
大男は俺を見失っているようだ。
千載一遇のチャンスだ!
後ろから大男を攻撃出来る。
しかし大男は大きすぎる。
しかも皮膚は堅そうに黒光りしている。
果たして剣撃は通るだろうか?
通ったとしても効果あるだろうか?
一寸法師のように『針の剣』のような効果しかないんじゃないだろうか?
悩んでもしょうがない。
最も効果的と思われる場所に剣撃を行おう。
俺は大男の右足首、人間で言う『右アキレス腱』のあたりに剣をおもいっきり振り下ろした。
思った通りだ。
大男の皮膚は堅かった。
足首は俺が全力で斬ったにも関わらず、全然切断には至らなかった。
だが、剣は折れながらも大男の皮膚を切り裂きアキレス腱を1/3程度断裂させる事には成功した。
次善の策、成功だ!
大男の機動力を奪ったのだ!
武器が無くなったのは痛手だが、大男から逃げられる!
逃げるつもりだったし、何より武器がなくては敵は倒せない。
俺は一目散に逃げる事にした。
大男は半狂乱になりながら棍棒を振り回している。
しかし既に俺は棍棒が届かないところまで逃げていた・・・と、油断していた。
確かに振り回す棍棒は届かなかった。
だが、振り回す棍棒の風圧は俺に直撃したのだ。
俺は風圧を受けて吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた俺はダンジョンの壁に激突した。
ダンジョンの壁が崩れるくらいの大きな衝撃だ。
『防御力向上』のポーションを飲んでいなかったら俺は潰れて死んでいただろう。
意識が遠退きかける。
ダメだ、ここはダンジョンだ。
意識が無いところをモンスターに襲われたら命を落とすしかない。
地上へ逃げるのだ。
それしか生き残る方法はない。
俺はとにかく浅い階層を、地上を目指した。
武器はない。
モンスターが出ても対抗する手段はない。
俺はモンスターに攻撃されながらも逃げ続けた。
しかしポーションを飲んでいるせいか幸いにも致命傷には至らなかった。
・・・がついに力尽きた。
地上まであと少し、地下二階まで来た所で俺は身体が動かなくなった。
俺はダンジョンの地面に倒れた。
ダンジョンの地面が盛り上がり俺を飲み込む。
ああ、これがダンジョンで行方不明になったヤツの末路か。
俺は『ダンジョンに喰われる』んだ。
新米冒険者パーティが地下二階を探索している。
「早く深層に潜れるようになりてえなあ!」
「焦ったら命を落としたり、行方不明になるぜ!
ギルドで『功を焦った冒険者が行方不明になった』って言われたばっかりじゃねえか!」
「お前ら、ちょっと待て!
人が倒れてるぜ!
こりゃ驚きだ!
裸の女だぜ!」
「この女が噂に聞く『ダンジョンの女裸族』か!
コイツの周りに行方不明になった男の冒険者証が落ちてるぜ!」
「この女、ここに放っておく訳にもいかんだろ?
取り敢えずこの女おぶって予定の地下三階を目指そうぜ!」
「ダメだ。
そういや、女は地下二階以上潜れないんだっけ?」
「いや、地下三階以下でも女の裸族を見たって話だぞ?
しかも女の裸族とは接触出来ないって」
「つまり『女を二階以下には潜らせない』『女を三階以上には上がらせない』『ダンジョン内で女と接触させない』って『ダンジョンの意思』が働いている、って事か?
何のために?」
「「「さあ?」」」
「よくわからないけど潜れないんじゃ、地上に上がるしかねーよ」
地上に連れて行った女から証言を得て『行方不明者がどうなったか?』という衝撃の真相が明かされる。
ダンジョンは男の冒険者からエネルギーを得ていた。
そしてエネルギーの得られない女の冒険者を地下二階以下には潜らせなかったのだ。
そして真相が明らかにならないように一度地下三階以下に来た女を、地下二階以上には上げなきようにした。
地下二階で力尽きる冒険者はいないはずだった。
深層から逃げて来てそこで力尽きた者以外は。




