勇者編
「勇者になりたい!」
「勇者が必要な世界は限られています。
平和な世界には勇者が必要ありません。
また武力による争いを必要としない世界もあります。
『救世主は必要、でも勇者は必要ない』正直そんな世界ばかりです。
貴方がいた地球だってそうでしょう?
武力による統治を誰も望んでいないのです。
科学や話し合いの力で平和が訪れるなら、それに越した事はないのです」
「全く勇者を必要とする世界は存在しないの?」
「無い事はありません。
世の中綺麗事だけではありません。
科学や話し合いだけで全ての事柄が解決する訳じゃありません。
絶対悪に対抗する手段としての『勇者』が必要とされる事はあります」
「だったらその世界に転移させてよ!」
「平和になった途端に人々は勇者の持つ大きな力を恐れる、というケースは珍しくありません。
大きな邪悪な権力を打ち倒したら、次に権力を持ちそうな勇者を暗殺する、というケースも」
「せっかく世界を救っても、待ってる未来が火炙りや断頭台や毒殺・・・ってのは面白くないな。
そんな権力闘争が起きなそうで、陰謀渦巻いてない勇者を必要としている世界はないの?」
「あるにはありますが・・・。
貴方は人間でない存在に産まれ変わる事に抵抗はありますか?」
「人間じゃないの?」
「亜人です。
ケモミミと言われる人種です。
『狼人族』と呼ばれる人種です」
「良いじゃん、良いじゃん!」
「『狼人族』は権力に全く興味がなく家族を何よりも大事にします。
貴方が群れの中で絶対的な力を持っていたとしても、それに対して文句を言ってくる者はいないでしょう。
また貴方が年老いて群れのボスの座を退く日が
来ても、先代のボスは勇退という形をとり、蹴落とされる事は絶対にありません。
狼人族は家族を絶対に傷つけませんから」
「その世界に転移させてよ!
勇者になれるんでしょ?
アンタらからチート能力がもらえれば」
「本当に良いんですね?」
「良いってば!
そこまで人間って言う立場に拘りないから!
勇者になれるなら別にケモミミになっても後悔はないから!」
「・・・わかりました。
では貴方を『狼人族』として転移させます。
貴方は勇者として、責務を全うして下さい」
「わかったってば!」
俺の意識は一瞬で真っ暗になったと思ったら、瞼に白い光を感じて瞳を開ける。
俺は祭壇の上にいる。
俺は勇者として何やら宗教的儀式でこの世界に呼び出されたようだ。
周りの人々は誰も彼もケモミミがついている。
彼らは口々に歓声を上げる。
「おぉ儀式は成功だ!」
「勇者様の降臨だ!」
「これで世界は救われる!」
話は早い。
どうやら既に俺は勇者として認識されているようだ。
「どうもー!勇者でーす!」って漫才師のような登場をするのも如何なモノだろうか?
とっくに目が醒めて、薄目で周りは見えているがちょっと威厳を見せながら起き上がろう。
・・・にしても寒い。
この素肌に風が当たる感じ、もしかして俺真っ裸?
異世界転移ってもんがよくわかっていないけど、そういうモノかも知れない。
ターミネーターだって未来から来たヤツらみんな素っ裸だったじゃん。
うわっ、こっ恥ずかしい。
でも寝てるフリしてる男が突然股間隠すのダサいよね。
俺はさりげなく足を組んで股間を隠した。
よし!凄い良い感じにさりげない仕草が出来た!
・・・と思った瞬間「くしゅん」と可愛いくしゃみが出た。
いくら何でも寒すぎなんだよ。
いつまで裸で放置しとくつもりなんだよ!
俺のくしゃみでようやく司祭のような初老の男が俺に大きな布地をかけてくれた。
くしゃみをした事で俺は『狸寝入り』していたのがきっとバレてしまっただろう。
俺はそそくさと起き上がった。
きっと顔は真っ赤に違いない。
「勇者様、よくぞ我々の呼び掛けに応じて下さいました」集落の長老っぽい老婆が俺に言う。
長老が女の人って珍しい。
「うむ」俺は威厳たっぷりに言ったつもりなのに、かなり甲高い声が出た。
「つきましては・・・大変失礼ではありますが『子作り』を・・・」
「『子作り』!?」俺はマヌケな叫び声を出した。
権力者にとっては『子作り』も仕事だったという。
俺が勇者ならその遺伝子を残し、『勇者の子供達』を作るのもまた大切な役割なのだろう。
しかし、転移早々子作りかよ!?
イヤじゃないけど。
でも全然ハーレムを作るんだと思っても胸がときめかない。
どうやら俺は色事より冒険ロマンで胸が一杯らしい。
「それより魔王を倒す冒険に出なくては」と俺はかけられた布を身体に巻き付け立ち上がった。
「勇者様が冒険に出るなんてとんでもない!
冒険に出るのは勇者様のお子様達でございます!」
「え、冒険に出なくて良いの?」
「当然です!
我々が選んだ屈強な者の遺伝子を持った相手と子作りに励んでください!
狼人族は一度に平均8人の子供を産みます。
一度の出産で『勇者の子供達のパーティ』が2つ出来上がります。
勇者様は闘わなくて結構です。
というか闘わないでください。
今までに闘った経験ないでしょう?
我々が必要としているのは『勇者様の中に眠る最強の遺伝子』です!」
「はい、わかりました。
あーあ、所詮は種馬扱いか。
確かに闘った事もない、訓練した事もない素人が突然魔王退治の冒険に出る、なんて甘い考えだよな」
「いえ、勇者様の中には『最強の遺伝子』が眠っています。
闘いの中でそれが目覚める可能性は充分にあります。
ですが、勇者様には子作りに専念していただきます。
勇者様のお腹の中のお子様に万が一の事があったら一大事ですから。
勇者様の母体第一です!」




