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回転編

 「優しい男がモテる訳ないじゃろ」

 「え!?

 『優しい男の人が好き』って女の人の話、よく聞くけど?」

 「お前は『女に気を使える男』が『優しい男』だと思っておるのか?」

 「違うの?」

 「全然違うわい!

 お前が『嫌なヤツ』だと思っているヤツが女にモテているのを見た事はないか?」

 「・・・あるよ、しょっちゅう。

 『何であんなヤツがモテるんだろ?』って思う事もしょっちゅうある」

 「それはヤツらが女に気を使えているからじゃ。

 女はお前が『嫌なヤツ』と思った人物を『優しい人』だと判断しておるぞ?」

 「そ、そんな」

 「で、お前の事を『お節介で鬱陶しい人』と思っておる。

 「お前なんてマシな方じゃ。

 お前みたいなヤツは女に『気持ち悪い人』『犯罪者予備軍』『ストーカー体質の人』なんて散々に言われておる。

 因みにお前が『嫌なヤツ』だと思った人物はお前を『気を使うまでないヤツ』と判断しておる。

 だからお前を軽んじるんじゃ。

 それをお前は『嫌なヤツ』と感じ・・・」

 「あぁ!

 言わないでくれ!

 心当たりがありすぎる!

 ・・・俺はどうすれば良かったんだ?」

 「どうもするな。

 『機転が効く』かどうかは頭の回転じゃ。

 『優しい』と思われるか『何でこんな事するんだろ?気持ち悪い』と思われるかの差は持って生まれた頭脳の差じゃ。

 一度の判断の正解なら教えられるが、お前の人生の指示なんぞ、お前の親でも無理じゃ。

 人生をやり直すしかあるまい」

 「・・・やり直したいなぁ」

 「わかった。

 人生をやり直そう」

 「そんな簡単に・・・」

 「簡単ではない。

 お前は条件を満たしている。

 ①お前は死んだ。

 ②お前は人生半ばで不慮の死を遂げた。

 ③お前は人を助けて命を落とした。」


 思い出してきた。

 俺は定期テストの結果が赤点だった。

 クラスで赤点だったのは俺だけ。

 俺は一人で補習を受けていたんだ。

 再試験でも合格点が取れなかった俺は再々試験でようやく合格点が取れたんだ。

 『お前は要領が悪すぎる。

 再試験なんて本試験と全く同じ問題なんだから、わからないなら答えを丸暗記すれば合格点は取れるだろうに』と教師から呆れられた。

 帰りは遅くなってしまった。

 その上高校はかなり遠い。

 俺の学力で通える普通高校が遠くにしかなかったのだ。

 名前を書けば入学出来るような工業高校なら家の近所にもあった。

 だが工業高校にはどうしても行きたくなかった。

 手先の不器用な俺に、工業作業が出来るとは思えなかったのだ。

 すっかり帰りが遅くなってしまった。

 俺は最寄りの駅で下車する。

 郊外の駅は都会の駅と違いホームは少ない。

 でも都会の駅に停まる電車と郊外の駅に停まる電車は同一だ。

 ホームは少ないが15両編成の電車が停まれる細長いホームだ。


 ちょうど帰宅ラッシュの時間帯で駅のホームには人間はかなり多い。

 駅は田舎だが、最近は都会に通勤する人達のベッドタウンとして、かなりの賑わいを見せてきているらしい。

 子供の頃、駅前にはバスのロータリーとタクシー乗り場しかなかったが、今はドラッグストアとコンビニがある。

 駅のホームはちょっとした人混みだ。

 ドン!

 俺はぶつかられる。

 痛いなぁ。

 そちらを振り返るとそこには酔っ払いがフラフラしている。

 「あん?何見てるんだ?」

 酔っ払いは呂律が回ってない上に何か喧嘩腰だ。

 あんまり関わりたくはない。

 俺は知らん顔をした。

 俺にぶつかる、という事は当然他の人にもぶつかる。

 酔っ払いはカップルの女の子にぶつかった。

 「キャッ!」

 女の子は小さく悲鳴を上げる。

 カップルの男は女の子を庇い酔っ払いに「何やってんだ、オッサン!」と非難する。

 「何だ?やんのか!?」

 酔っ払いは男を突飛ば・・・そうとしたが、男は微動だにしない。

 逆に酔っ払いは自分が反動で後ろに弾かれたように線路から落ちた。

 「人が落ちたぞ!」

 誰かが怒鳴る。

 酔っ払いは動かない。

 向こうから電車の光が見える。

 俺は咄嗟に線路上に飛び降りた。

 「おい、君!」

 誰かが声をかける。

 酔っ払いを抱えてホームへ持ち上げる。

 自分の非力さが恨めしい。

 酔っ払いをホームにいる人達が引っ張り上げてくれる。

 思ったより時間がかかってしまった。

 俺はホームに上がろうとする。

 ホームにいる人達が俺を引き上げようとしてくれる。

 「オロロロロ・・・・」

 先に引き上げられていた酔っ払いが俺に向けて嘔吐する。

 「うわっ!

 汚ねー!」

 ホームに俺を引き上げようとしていた人は吐瀉物を避けず、俺の手を離さなかった。

 それは感謝すべき事かもしれない。

 だが吐瀉物でホームへ引き上げようとしていた手が滑る。

 手と手が離れる。

 俺は線路上に転落する。

 人々の悲鳴が折り重なるように聞こえる。

 何を大袈裟に騒いでいるのか?

 俺は人々の視線を追ってみる。

 そちらの方を見るともう目の前に電車が迫って来ている。

 運転士と目が合う。

 フルブレーキをかけてるんだろうな。

 キキキキキキキキと耳をつんざくような音が聞こえてくる。

 しかし無駄な抵抗だ。

 もう避ける事は出来ない。

 目の前に電車の車体が迫る。


 これが俺の最後の記憶だ。


 「知っておるか?

 駅のホームの下には避難スペースがあるのを。

 駅のホームには電車に知らせる非常用ボタンがある事を。

 酔っ払いは不幸じゃな。

 自分を助けた人間が少しは頭が回転するなら『自分のせいで人が死んだ』なんて言われずに済んだのにな」

 「俺が悪いのか!?」

 「悪いに決まっておるだろうが。

 いつでも賢人の足を引っ張るのは愚者じゃ。

 愚者は生きてるだけで『悪』なのじゃ。

 そもそもお前が再々試験など受けずに普通に帰宅出来ていれば、こんな災難になど巻き込まれておらん」

 「・・・そうかよ。

 悪かったな!」

 「でもお前は過程はどうあれ一人の命を救って命を落とした。

 だから我々神はお前に『やり直し』の機会をあたえねばならぬ。

 お前は条件に満たしてしまったからな」

 「『神』?」

 「そうだ。

 お前らは我々をそう崇めている。

 それはともかくお前は『やり直し』に際していくつか『違う人生』が選べる」

 「『違う人生』?」

 「そうだ。

 やり直したとしてもお前らは同じく間違えた人生を歩んで、同じような終わりを迎えるだろう。

 そうならないように少し『違う人生』の要素を『やり直し』に際して差し込むんじゃ。

 さあ、お前の望む『違う人生』を述べよ!」

 「希望、と言われても。

 『モテる男』になりたくなくなってきたな・・・。

 別に俺はあんなイヤなヤツになりたい訳じゃない」

 「『モテる男』になりたくないのか?」

 「モテたくない訳じゃないよ?

 『モテない男』のままは嫌だ。

 あっ、そうだ!

 頭の回転が速くなりたい!」

 「禅問答のようじゃな。

 俗に言う『モテる男』にはなりたくない。

 それでいて『モテない男』のままではいたくない。

 なのに実のところモテたい。

 それで頭の回転が速くなりたい。

 『やり直しの人生』の希望は以上じゃな?

 お前の希望通りになるかはわからん。

 もう一つ注意点がある。

 お前の希望を元に我々はお前とお前を取り巻く環境に『変化』をもたらした。

 お前はその『変化』に戸惑い、『矛盾』を感じるだろう。

 しかし全てその矛盾は『お前の希望』を出来る範囲で叶えた事が原因なのだ」

 「俺はアホだからお前の言っている事がよくわからん」

 「なんとなく『そういうモノだ』と理解していてくれれば良い」

 「何だかわからんが了解した。

 とにかく人生をやり直せるんだな?」

 「その通りだ」

 「ならあんまり文句は言えないな。

 その上、俺の希望をある程度『神』が聞いてくれる。

 それこそ、これ以上望んだら罰が当たる!」

 「そう思ってくれるなら話は早い。

 ではもう一度人生をやり直すが良い」

 俺は暗闇に落ちていった。


 「気付いたぞ!」

 俺は瞳を開ける。

 ここは家の最寄り駅のホームだ。

 俺はホームのベンチに横にならされているらしい。

 俺は身体を起こそうとする。

 「まだ動かないほうが良い!

 頭を打っているんだから」駅員が俺に説明する。

 俺が頭を傾げる。

 『頭を打つ』?何でだ?

 「覚えていないのか?

 君は転落した酔っ払いを助けるために線路へ飛び降りたんだ。

 酔っ払いをホームへ抱え上げた後、君はホームへ引き上げられたんだ。

 その時引っ張り上げている人の手が滑って、君はホームで頭を打ってしまったんだ。

 まぁ、不幸中の幸いだよ。

 転んだ位置がホームだったんだから。

 もし線路上に転んでたら『痛い』じゃ済まなかったところだ」

 色々事実が変わっている。

 神が矛盾が生じている、と言っていたのはこういう事か。

 ・・・って自分でビックリだ。

 理解力が格段に上がっている。

 その証拠にこの奇怪な現象を完全に理解出来ている。

 神は俺の『頭の回転が速くなりたい』という希望を聞き届けてくれたらしい。

 しかし頭の回転が速くなればなるほど、気になる事がある。

 『モテる男になりたくない』

 『モテない男になりたくない』

 『モテたい』

 この希望はどうやって叶えたんだろう?

 無茶苦茶矛盾しているように思えるけど。


 まぁいいや、とにかく家に帰ろう。

 俺は立ち上がろうと身体を起こす。

 「無理に起き上がろうとしなくて良い!

 失礼だったかも知れないけど、君の鞄から生徒手帳を見つけて、そこに書かれてる緊急連絡先から君の家の人に連絡させてもらったよ。

 急いで帰らなくても、すぐに君の家族の人がクルマで迎えに来る事になってる」

 そっか。

 家族には心配かけちゃったな。

 じゃあお言葉に甘えて少し休ませてもらおうかな?

 「しかし君、凄いね!

 生徒手帳見せてもらったよ。

 ずいぶん遠くの学校に通ってるんだね!」

 遠くにしか通える学校がなかったんだよ!頭悪いから。

 「ご両親はさぞかし鼻が高いだろうね。

 娘が名門女子校に通ってて!」

 駅員が俺に生徒手帳を返してくる。

 こんな生徒手帳知らないぞ?

 白鷺女学院高等学校?

 女子校では県内随一の進学校じゃねえか!

 生徒手帳には写真を貼られている。

 そこには美少女の写真が貼られている。

 名前を見る。

 『岡田朝陽』

 俺の名前だ。

 よく「中性的な名前だ」と言われる。

 父親が「男の子が生まれても女の子が生まれても良いように」とつけたジェンダーレスな名前だ。

 と、いうことはこの女は俺なのか?

 回転が速くなった頭脳が一つの結論を導き出す。

 『モテる男になりたくない』

 『モテない男になりたくない』

 『モテたい』

 一見、この希望は実現不可能なぐらい矛盾しているように見える。

 だが、矛盾はしてないし実験可能な希望だ。

 要はモテる『男』にならずモテれば良い、それだけの事なのだ。

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