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ジム編

 「忘れました!。」

 「またですか?。

 今回は何を忘れたんですか?。」

 「今回はスイミングゴーグルです。」

 「・・・良いですか?。

 当スポーツジムは確かにご利用者様同士のあらゆる貸し借りを禁じております。

 理由は言わなくてもわかりますよね?。

 『トラブルの原因になるから』です。

 利用者様同士で貸し借りをするなら、当スポーツジムがある程度の物であれば貸し出し致します。

 しかし感染症のおそれがあるので素肌に触れる物、粘膜に接触する可能性のある物の貸し出しは推奨しておりません。

 ましてやあなたは四回連続忘れ物をしております。

 当方が貸し出しに応じるのは今回限り『四回まで』です。

 悪く思わないで下さい。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 本気で忘れ物をしている訳ではない。

 忘れ物をすればスポーツジムの受付の『あの子』に話しかけられるんだ。

 スポーツジムには色々な部屋がある。

 僕が通っているプール。

 エアロビクスをしている部屋。

 筋トレなどをしている部屋。

 ヨガ教室をしている部屋。

 ボクササイズをしている部屋。

 栄養相談やトレーニングメニューなどを話し合っている部屋。

 他にもスカッシュのような球技をしている部屋などもあり、受付の子が、プールを利用する僕に必ず対応してくれるはずもない。

 だが彼女を呼び止められる魔法の言葉がある。

 『忘れ物をしました。』


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「忘れ物をしました。」

 「言いましたよね?。

 『忘れ物の貸し出しは四回まで。

 次回からは対応しない』と。

 一応お聞きします。

 何を忘れたんですか?。」

 「水着です。」

 「私も忘れっぽい性格で、よく忘れ物をします。

 こっそり貸そうとも思ったんですよ?。

 でもさすがに水着は貸し出し出来ません。

 この感染症にナーバスになっているご時世に素肌の粘膜に接触する水着を貸す訳にはいきません。」

 「じゃあ『水着を購入しろ』って事?。

 僕そんな金持ってないですよ?。」

 「スポーツジムはスポーツ用品店じゃありません。

 競技用の水着はいくつか置いてありますが、エクササイズ目的でプールに通われている方には高いだけの水着です。

 農夫がF-1マシンとトラクターでどちらか迷うようなものです。

 貸し出しは出来ませんし買うと高くつきます。

 水着は取りに戻るか余所で買うのをおすすめします。」

 「かなり家は遠いんですよ。

 取りに戻れないんです。」

 「職場の近くのスポーツジムなんですね」

 「いえ、職場からも遠いです。」

 「じゃあ何故ウチのジムに通っているんですか?。」


 営業で行った遠くの街の駅前でティッシュ配りをしている女の子がいた。

 僕はその女の子に一目惚れしたんだ。

 仕事が終わると家の方向とは反対の方向に行く電車に乗る。

 そして各駅停車の電車に揺られる事30分、乗り換え駅に到着する。

 そして15分乗り換えた電車に揺られ降りた後、バスに乗り30分ほどでその女の子が受付をしているスポーツジムに到着するんだ。

 

 「私が質問しているのに回想シーンに入らないで下さい!。

 とにかく家からも職場からも遠いんですね?。

 では今日は帰ってもらうしかないようですね。」

 「そこを何とか!。

 来るだけでも相当時間がかかるんです!。

 水着は貸していただかなくても結構です。

 裸で泳ぎます!。」

 「あなたが良くても、当ジムでは裸でプールサイドをうろつかれたら迷惑です!。

 お帰り下さい!。」

 「今回に限りです!。

 もう二度と忘れ物はしません!。

 今回に限り水着を貸してもらえませんか!?。」

 「冷静に考えて下さい。

 あなたは人が使った水着を着れますか?。

 着たいですか?。」

 「うっ、それは・・・。

 確かに気持ち悪いかも・・・。」

 「でしょ?。」

 「何か方法はないんですか?。

 人が使ってない水着を借りれるような・・・。」

 「そんなのあるわけないでしょ!。

 ・・・と言いたいところですがあります。

 ありますがテスト品ですよ?。」

 「テスト品?。

 ドモホルンリンクルみたいな感じ?。」

 「当たらずとも遠からずですね。

 当ジムでは『どんな体型にもなれる』という謳い文句を掲げています。

 スイミングスーツはある程度伸縮性がある物です。

 ですが当ジムの開発したスイミングスーツは『自分のサイズに合った水着を着る』のではなく『水着に自分の体型を合わせる』という物です。」

 「よくわからない・・・。」

 「わからないと思います。

 何せ『今までにない新発想』なんですから。

 そのモニターを集めているんです。

 その水着のモニターをやるならテスト品の水着を差し上げられますが?。」

 「その水着は全く新しい物なんだよね?。

 見た目も物珍しい・・・というか着ていて笑われるような事はない?。」

 「ありません。

 あったとしたらそのテスト自体が大失敗です。

 我々は『水着の体型に自分の体型を合わせる事』を目的としております。

 『スタイルを良く見せるストッキング』とかありますよね?。

 矯正下着や矯正ストッキングと同じように『体型を矯正する水着』みたいな物だと思って下さい。

 矯正ストッキングを着て笑われる人はいませんよね?。

 この水着を着て笑われる人も同様にいません。

 そしてこの水着を着てエクササイズする事で実際にこの体型を目指すのです。

 もう一度言います。

 物珍しさはありません。

 笑われる事もありません。

 ただデメリットはあります。」

 「デメリット?。」

 「この水着を着てもらうという事は『このテストに参加してもらう』という事です。

 テストは途中でやめられません。

 モニタリング期間中は必ず、この水着を着てもらいます。

 その誓約書も書いてもらいます。

 この水着の開発費もただではないのです。

 軽い気持ちで『新開発の水着を着てみたい』と思うならやめておくべきです。」

 「き、危険はあるの?。」

 「時間には拘束されます。

 そういう意味で『遊びではない』という事です。

 生命の危険はありません。

 健康被害もありません。

 体型の変化を目標とした水着です。

 『何も変わらない』という事はありませんし、あったらテストは大失敗です。

 今のところ言えるのはそれだけです。

 どんな変化があるのかテストの中で明らかになっていくでしょう。

 それが今からわかっているならテストなどやる意味がありません。」

 「わ、わかった。

 ちょっと怖いけどそのテスト品の水着、着て見るよ。」

 「ではテストに先駆けて『どんな体型が好みか?。』というアンケートに協力お願いします。

 そのアンケート結果に合わせて用意させていただく水着が変わります。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 Q.あなたの憧れの体型は?。

 「うーん、そんなマッチョになりたくはないんだよな。

 『細マッチョ』かな?。」

 Q.あなたの理想のタレントは?。

 「そうだな・・・『細マッチョ』のタレントと言えば・・・。

 伍村拓蔵(ゴムタク)かな?。」

  ・

  ・

  ・

 こんな調子でアンケートに答えた。


 「ありがとうございます。

 それではアンケート結果を用意させていただく水着に反映させていただきます。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「お待たせしました。

 ではこの水着を着て下さい。」

 「上もあるの?。」

 「最近の競技用水着は男女共に上半身まで包まれている物が珍しくありません。」

 「うん、オリンピックなんて見てるとウェットスーツみたいな水着着た男の選手もいるよね。

 僕が着るのはスポーツジムが開発した水着だったんだ。

 全身タイプの水着の可能性も考えておくべきだった。」

 「それにこの水着は『矯正水着』という側面もあります。

 胸筋や腹筋の矯正が行われる時に全身が包まれていてもおかしくないでしょう。」

 「うん、その通りだ。

 じゃあ、水着着てくるね。」


 「次回からこちらのピンク色の壁の更衣室をご利用下さい。」

 「なんか言った?。」

 「聞こえなかったなら良いんです。

 ではテスト期間終了後の事を話させていただきます。

 『元に戻りたい』そう願われるかも知れません。

 しかし今回はテスト期間だから無料なのです。

 『どんな体型でも自由自在』を謳っているからには元の体型にも戻れます。

 しかし、この水着を買おうとすると400万円かかります。

 このジムで働きながら少しずつ400万円を積み立てて行ってもかまいません。

 私がそうでした。

 しかし、慣れたらこの身体が良くなってしまったのです。

 あなたもきっとそうだと思います。

 何せ『好きな異性のタイプ』をアンケートで聞かれて伍村拓蔵(ゴムタク)と言うくらいですから。」

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