神編
人間の文明は昔もっと発展していたらしい。
だが、人間は天に届くような高い塔を作ろうとした。
それは神々の怒りを買った。
神々は人間の文明を破壊するために、人間に総攻撃をしかけた。
人間の力では神々の攻撃を防ぐ方法はなかった。
攻撃は防げなかったが『神殺し』を達成した者達は何名かいる。
神は人間の文明原初に戻したが滅ぼした訳ではなかった。
だが人間の中に神を殺せる者、その子孫がいる事を恐れた。
神は『神殺し』の子孫を始末する事にした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「よく食うな」
「・・・・・」
「まあ良いや好きなだけ食いな。
でも、君が何者なのか教えろよ。」
「覚えてない。」
「『覚えてない』って何をだよ?。」
「何も。
何も覚えてない。
一つだけ覚えてる。
お前に会いに来た。」
「そりゃどうも。
熱烈な告白だな。
君みたいな可愛い女の子から『会いに来た』って言われて悪い気はしないな。
・・・で、僕に会ってどうするつもりだったんだよ?。」
「覚えてない。
お前知らないか?。」
「僕が知る訳ないじゃんか!。
君、行く所あんの?。
僕に会った後、どこに泊まるつもりだったんだ?。」
「泊まるあてはない。」
「まあ、僕の所に来た人を路頭に迷わせちゃ寝つきが悪いや。
好きなだけ泊まっていきなよ。
幸い部屋なら沢山余ってるし。
僕のご先祖様、何してたか知らないけどこの地域の有力者だったみたいで家だけは広いんだよ。
来るか?。」
「行く。」
「少しは悩めよ。
男の家に行くんだぞ?。
別に良いけど。
それより何て呼べば良いんだ?。
自分の名前も忘れちまったのか?。」
「名前は『ナンナ』。
『ナンナ』って呼んで。
何故か自分の名前だけ覚えてる。」
「『ナンナ』って・・・。
日本人離れした顔だな~、って思ってたけど日本人じゃなかったのかよ。
その割に綺麗な日本語だな。」
「何人だったか思い出せない。
覚えてるのは名前だけ。」
「わかった。
じゃあ僕の家においで。
でも『働かざる者食うべからず』
家事は任せるからね。
それ以外の時間は何してても良いよ。
記憶が戻るように動いてりゃ良い。」
こうして僕と記憶喪失の少女『ナンナ』との同居生活がスタートした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ナンナは何も知らなかった。
忘れているだけかも知れないが。
その代わり記憶力は抜群に良い。
家に来た時、家事は全く出来なかったが一週間もすると一通りの家事が人並み以上に出来るようになっていた。
最初の頃「記憶探しの方法がわからない」と言っていたのでパソコンでネットの検索方法を教えた。
「これでわかるのか?。」とナンナ。
「わかるかも知れない。
ネットなんて使い方次第だ。
わかるもわからないもナンナの検索方法次第だ。」と俺。
ナンナはそれから何時間もパソコンとにらめっこしていた。
そしてパソコンから離れた時、一通り家事の方法を覚えていたのだ。
ナンナは感情が乏しかった。
泣かない。
笑わない。
怒らない。
叫ばない。
そして驚いたのは『美味しい』という感情がない事だ。
ネットで調べた通りの材料で調べた通りの分量で調べた通りの方法で料理を作る。
「美味しい」と僕が言うと「これが美味しいのか?。」と首をひねっている。
「ナンナは美味しくないの?。」と聞くと「食べ物を美味しいと思った事はない。」と言っていた。
「わかった。
この味が『美味しい』か。
記憶した。」
アスリートが「身体のために栄養を摂っている。食事を『美味しい』『楽しい』と思った事はない。」なんて言う事があるが、あんな感じかな?。・・・とか日本の食事が口に合わないのかな?。・・・なんて思っていた。
この時ナンナの記憶が戻り始めている事に気付かなきゃいけなかった。
ナンナは記憶喪失になって間もない。
「食事を『美味しい』『楽しい』と〝今までに〝思った事がない」というのは記憶喪失以降の話だけではないはずだ。
この頃からナンナに感情が芽生えてくる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
庭に野良猫の子猫が住み着いた。
「食べるの?。」とナンナ。
「食べないよ!。」
「何で?。」
「可哀想でしょ?。」
「牛や豚は食べても可哀想じゃないの?。」
「牛も豚も可哀想なの!。
でも食べないと人間は死んじゃうじゃない。」
「食べられた牛や豚も死ぬよ?。」
「人間は他の動物を殺して食べないと生きていけないからね、でも不必要な分まで殺しちゃダメなんだ。
だからこの子猫は殺さない。
で、この子猫はまだ小さくて一人じゃ生きていけないからナンナ、君が世話して。」
「どうして?。」
「僕が行き場がなくて困ってたナンナを助けたようにナンナもこの子猫を助けて。
動物はみんなこうやって助け合いながら生きてるんだよ。」
「・・・わかった。」
「ナンナが名前つけて。」
「じゃあ・・・ジャブで。」
「な、何か左で世界を征しそうな名前だね。」
「細かい猫パンチを何発も打つから・・・。」
「わかった。
今日からナンナがジャブの親になるんだよ。」
「ジャブは男?。女?。」
「もう少し大きくならないとわかんないな。
・・・でも男の子か女の子かわからなくても可愛いだろ?。」
「・・・うん。
可愛い。」
(ナンナが初めて自分の気持ちを口にした!。)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
月日は流れた。
ナンナが無表情だったなんて嘘のようだ。
今でもナンナが初めて笑った日の事を思い出す。
ジャブがほとんど動かなくなった。
動物病院の先生は「理由はよくわからない。子猫には良くあることだ。」と言っていた。
ナンナは三日三晩寝ずにジャブの看病をした。
三日目に今までにほとんど動かず鳴かなかったジャブが「ミー」と鳴きながら、ナンナの膝によじ登ってきた。
この時のナンナの満面の笑みを僕は忘れられない。
ナンナはよく笑うようになったが、怒っている姿を僕は見た事がなかった。
僕はいつの間にかナンナに恋をしていた。
僕は勇気を出して告白する事にした。
自惚れる訳じゃない。
だが打算はあった。
「記憶喪失って事は、覚えてる範囲じゃ親しい男は僕だけだ。
よっぽど僕の事嫌いじゃなきゃ、断らないよな。」と。
だが、打算通りにはいかない。
「告白ありがとう。
すごく嬉しかった。
でもごめんなさい。
気持ちには答えられない。」とナンナ。
僕は精一杯平気なフリをしながら言う。
「ダメなのは良いんだけど、一応今後のために理由を聞かせてもらっても良いかな?。」
本当は全然良くない。
告白なんてするんじゃなかった。
一緒に住んでるのに気まずすぎる。
気まずいだけならまだ良い。
「気まずすぎるから出ていく」なんて言わないかな。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
思い出した。
私はアイツを殺しに来たんだ。
アイツの先祖は『神殺し』だ。
預言があった。
アイツの子孫が神族の天敵になる。
「天敵が生まれる前に、その父親を殺してしまえ。」と言われて私は人間界に来た。
神界から人間界に転移する際に事故があった。
そして私は記憶を失う。
あろうことか私は暗殺対象に保護された。
そして更にあろうことか暗殺対象は私に恋に落ちた。
私も暗殺対象に恋に落ちた。
しかし全てを思い出した。
私には夫がいる。
神々の結婚は人間の結婚とは違う。
夫にはもう数十年会っていない。
しかし神には永遠に近い寿命がある。
数十年しか寿命がない人間とは訳が違う。
しかし不貞は許されない。
不貞を行った神々もいくらでもいる。
しかし亡くなった夫は光を司る神バルドル。
真実を司る司法神フォルセティはバルドルとの間の子だ。
私はどうして良いかわからず姿をくらませた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ナンナどこに行ってたんだよ!?。
心配したんだぞ!?。」
「・・・ごめんなさい。」
「怒ってない。
僕こそごめん。
僕が告白なんてしたから気持ちに答えられないナンナは『ここにいたらいけない』なんて思ったんだよな?。
告白の事なんて忘れて、いつまでもここにいて良いからな!。」
「そうじゃないの。
私は『ここにいる方法』『あなたの告白に応える方法』を探していたの。」
「それは見つかったの?。」
「うん。
夫を殺した悪神ロキは雌馬になってスヴァジルファリの子馬を産んでるの。
子馬の名前はスレイプニール。
つまり、他の種族に変身して性を変えれば、不貞にはならないってことよ。」
「ごめん。
何を言ってるのかサッパリわからない。
ナンナ、結婚してたの!?。
それにナンナが男になったところで男の僕とは愛し合えないよ!。」
「大丈夫。
ロキは女神を胡桃に変えたわ。
それはさすがに無理でも私も男を女に変えるくらいは出来るわ。
それに私の使命を思い出して。
『預言の神殺しの父親を殺す』
あなたを父親になれなくしたら、ミッション完了だと思わない?。」
「ナンナは女の僕を愛せるの!?。」
「変な事を言うのね?。
あなたも『ジャブは雄でも雌でも可愛い』って言ってたじゃない。
他の種類の動物は雄でも雌でも愛しいわ。
だからあなたは男でも女でも愛しているわ。」
これがナンナの初めての愛の告白だった。




