事故物件編
「えっと予算は・・・家賃二万五千円ですか。
でトイレあり、風呂あり、ユニットバス不可。
徒歩駅まで5分以内ですか・・・。」
「あ、あとはワンルームなら8畳は欲しいですね。」
「こんな条件の部屋があると思います?。」
「あるでしょう?。
よく『事故物件は安い』なんて言うじゃないですか。」
「よくご存知で。
しかし『事故物件』は我々不動産屋にとっては、不良在庫のような物です。
寝かしておくよりは安価でも手放したい。
でも『利益を出す』という行為と『損を切る』という行為は違います。
わかりやすく言うと『店で儲けようと思った時、上客に見切り品は売らない』じゃないですか。
いきなり客として飛び込みで来たあなたに『事故物件』は紹介しません。」
「そうは言っても、正直払うお金はないですよ。」
「そうですか。
残念ですがお帰り下さい。」
「事故物件、紹介して下さいよ。
僕気にしませんから。」
「『事故物件を紹介する不動産屋』という噂が立っても迷惑です。儲からないし『百害あって一利なし』です。」
「人が死んでなくても『曰く付き』の物件ってあるんじゃないですか?。
それを紹介してもらう訳にはいきませんか?。」
「あるにはあります。
借り手がつかなくて困ってます。
それに確かに家賃は破格の安さだ。
しかし本当にそこで良いんですか?。」
「一応どんな『曰く付き』か聞いても良いですか?。」
「二人連続で住んでた男性が失踪したんですよ。
しかも二件とも部屋に失踪した男性の事を知ってるという女性を残して。
警察は今も『事故』と『事件』の両面から二件の失踪を追っています。」
「女性が失踪事件の鍵なんじゃないですか?。」
「その二件とも別の女性なんです。
しかもその二人の女性に全く面識はありませんでした。
それに男性の失踪後、どちらの女性もパニックなのか意味不明な事をくちばしりました。
共通点と言えば、どちらの女性も身元不明である事と、話をしても『どうせ信じてもらえない』と諦めているような態度をしている事です。」
「その部屋を借りて良いですか?。」
「話を聞いてました?。
行方不明になる可能性があるんですよ?。」
「二件とも知り合いを名乗る女性が部屋にはいるんですよね?。
心配要りません。
なぜなら『僕の知り合いに女性はいないから』です。
行方不明の条件が『知り合いの女性を残して』という事なら『知り合いの女性』が僕にはいません。
僕は女性とは無縁のモテないボッチなんです。」
「悲しい事を自信満々で言わないで下さい。
・・・ではあまり気乗りはしませんが、物件を紹介しましょう。」
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結局紹介された物件を借りる事にした。
門部屋で8畳、ワンルームでロフトもついている。
オール電化で、失踪事件があったせいかセキュリティが高い。
階ごとに防犯カメラがついていて、入り口はオートロックだ。
築年数が若干いっているのと夕方西日が射すし、目の前に首都高が走っていて若干うるさいのだけが少し気に食わないが、この物件で家賃二万円は破格の安さだ。
事故物件だから何だって言うんだ。
僕は気にしない。
怪奇現象なんて起こる訳がない。
僕は昔、山の中で火の玉を見た。
火の玉は緑色っぽかった。
それから数年後、森の中の火の玉は枯れ葉や動物の死骸が腐って発生した『リン光』だと判明する。
『リン光』の特徴は緑色っぽい色だという。
その時から僕は『怪奇現象は科学的にまだ判明していない科学的現象』だと思うようになった。
失踪事件が怪奇現象の訳がない。
なにかしらのトラブルがあったのだ。
そのトラブルが金銭的なものか、人間関係が起因するものかは知らないし知りたくもない。
金銭も人間関係も悲しいくらい僕とは無縁だ。
心配する必要もない。
色々解明されていない事もある。
だがそれを解明するのは警察の仕事だ。
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押し入れの裏にお札が貼ってある。
本当にこういう気休めやめてくれよ。
「噂になる」
↓
「念のためお札を貼る」
↓
「お札が見つかる」
↓
「お札があるって事は噂は本当だったんだ!。」
↓
「噂は更に広がる」
ビジネスホテルなんかで額縁の裏にお札が貼ってあったりするのはそういう事だろ?。
実際に怪奇現象を体験した人はいない。
でも怪奇現象の噂だけが広がる。
気持ち悪いから関係者が御札をもらってきて貼る。
その御札を野次馬が発見して更に大騒ぎする。
そのスパイラル。
噂だけが先行して、まるで怪奇現象が実際あったかのような話になる。
その噂を周りの人が気味悪がったお陰で僕はここを二万円で借りられる。
僕が前に住んでた下宿が同じ二万円だった。
人の家の二階を間借りするのは、まぁ我慢出来た。
風呂なしで毎日銭湯に行くのも、まぁ我慢出来た。
トイレが共同なのも和式なのも、まぁ我慢出来た。
部屋の広さが四畳半なのも、まぁ我慢出来た。
窓を開ければ騒音、閉めれば夏場は40°越えでエアコンなし、エアコンをつけようにも室外機を取り付ける場所もなし、扇風機を抱き締めて暑さに耐えて耐えられなくなったらコンビニに涼みに行く、そんな暮らしもまぁ、我慢出来た。
我慢出来なかったのは、時々長州力そっくりの大家の娘が空き巣に入る事だった。
店子にとって大家は神だ。
娘を告発したら、出ていかなくてはいけない。
でももう我慢も限界だった。
空き巣に入られ20万円以上盗まれたせいで引っ越し費用がほとんどない。
敷金礼金込みで「家賃二万五千円」以内のところしか引っ越し費用が払えない。
ようやく見つけた引っ越し先なのだ。
僕は忌々しげに押し入れの御札を剥がして破った。
僕はオカルトなんて何とも思わない。
荷物の整理は明日にしよう。
僕は新居のロフトのベッドで横になった。
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夢を見た。
雨の中、女性が高速道路を軽自動車で走っている。
大きな車に後ろから煽られている。
女性は普段スピードを出した事は無かった。
だが煽られて無理矢理猛スピードで走らされている。
雨でスリップした軽自動車はガードレールに突っ込む。
軽自動車はガソリンタンクに引火し、またたく間に炎上する。
女性は炎上に巻き込まれ命を落とす。
(憎い・・・憎い・・・女だと思ってバカにして・・・。
男ってだけでそんなに偉いの?。
殺しはしない。
殺してしまってはあの男と同じになってしまう。
ただ女の気持ちをわからせてやりたい!。)
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おかしな夢だ。
夢の主人公が自分ではない。
なんだったんだろう?。
そう言えば目と鼻の先に首都高があるな。
高速の騒音が聞こえたからあんな夢みたのかな?。
それはともかく、疲れていたのか洋服のまま寝てしまった。
少し痩せただろうか?。
服がゆるい。
そんな事より、ご近所さんに挨拶しないと。
仲良くなればトラブルだっておきにくい。
前に住んでた所だって大家の娘と仲良くなってたら、泥棒に入られなかったかも知れない。
とにかく隣近所に挨拶しよう。
僕は挨拶の品を持って、右隣の部屋のインターホンを鳴らした。
「はーい。」
若い美しい娘さんが玄関先に出てくる。
学生さんだろうか?。
「昨日、ここに引っ越してきた者です。
これからよろしくお願いします。」
娘さんは笑顔で挨拶に応じた。
「ご丁寧に。
こちらこそよろしく!。
良かった、このアパート若い女性私だけで心細かったのよ。
これから宜しくね!。」
何が『良かった』なんだろう?。




