坂編
「ごめんくださ~い!。
誰かいらっしゃいませんか~!。」
「おやおや。
珍しい。
こんな山小屋に何か用事ですかな?。」
「自動車で山道を走っていて、誤って脱輪してしまったのです。
それで、車が溝に落ちて動けなくなったんで、近くの家に助けを呼ぼうとしたんですが、近くの建物がこの山小屋だけだったんで・・・。
スマホの電波は通じないみたいで。」
「そりゃ妖怪『溝落とし』のしわざじゃな。
群馬の峠道には時々現れるんじゃ。
すまほ?何じゃそれは?。
群馬じゃポケベルが流行り始めたけど、それみたいなモンかの?。」
「スマホはないのか。
すいません、電話貸してもらえませんか?。」
「悪いのお。
電話故障中なんじゃ。」
「じゃあ、パソコン!。
パソコンのメール・・・電話もないのにパソコンはないか。」
「失礼な事を言うな!。
パソコンくらいあるわ!。
こう見えても巷じゃ『群馬のハイカラハイテク婆さん』と呼ばれとるんじゃ!。
ワシのパソコンは群馬の最新機種『PC8801』じゃ!。
パソコン通信だって出来るんじゃぞ!。」
「突っ込みどころ満載だけど、とにかくネット・・・じゃなくてパソコン通信で助けを呼びたいんだけど、パソコン貸してもらえませんか?。」
「悪い。
『テレホタイム』以外、パソコン通信はしないんじゃ。
じゃないと『みかか死』してしまうじゃろ?。」
「『ダイヤルアップ』かよ!。
『みかか死』って久しぶりに聞いたな!。
もう歩いて助けを呼びに行くしかないな。
婆さん、近くに人は住んでるか?。」
「山頂に旅館があったな。
確か溝にはまった車をロープで引っ張り上げられる、ウィンチのある車もあったような・・・。」
「それだ!。
婆さん、山頂って近いのか?。」
「急斜面の道、『男坂』を行けば20分も歩けば着くじゃろう。
しかし生半可な急斜面じゃない。
疲れるだけじゃなく危険じゃ。
わしはお薦めはせん。」
「じゃあ婆さんは山頂には行かないのか?。」
「わしは遠回りして歩いて行くんじゃ。
なだらかな『女坂』を通ってな。
一時間はかかるがの。」
「わかった!。
『急がば回れ』だな。
俺もその『女坂』を行くよ!。
サンキュー婆さん!。」
「ちょっと待て!。
人の話も聞かんと行ってしまった。
群馬の山には神様も妖怪もおるのに。
男が『女坂』を通ると、神罰が下るという言い伝えがあるのにのう。」
ようやく山頂に到着した。
「すみませ~ん。」
「お祭りを見に来たんですか?。
お祭りに参加される方には和服を着ていただきます。」
「お祭りを見に来たんじゃないんですが。
それにコレ、振り袖じゃないですか。」
「振り袖じゃない・・・。
申し訳ありません。
もう結婚されているんですね。
すぐ留め袖を準備させてもらいます。」




