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保険編

 「『1日保険』?。

 なんだ、これ?。」

 「例えば先輩が山登りしたり、スキーやスノボしたり、身体を動かしたりした時に怪我をしたり、事故を起こしたり、事故に巻き込まれたりする可能性だってありますよね?。」

 「まあな、何が起こるかわからないからな。」

 「そういった時に『一日だけ』保険に入るんです。」

 「かけ捨てか?。」

 「もちろんです。

 そうでないと保険会社にメリットはないですから。

 誰も怪我しなかった時、保険会社は丸儲けになる訳です。」

 「なるほど。

 保険に入るか入らないかは保険料次第だな。

 高いのか?。」

 「高いと言うのか・・・。

 安いと言うのか・・・。」

 「どういう意味だ?。」

 「一ヶ月単位の保険と比べると保険料は安いですね。

 しかし一ヶ月単位の保険と比べると保険料は割高ですね。

 例えば『一日保険』は500円くらいです。

 ワンコインなら『安い』と言えなくもないかも知れません。

 でも『三十倍して一ヶ月換算すると一万五千円』と考えると法外な高さの保険料という事になります。」

 「なるほど。

 結局『一日保険』に加入するもしないも、『高い』と感じるのも『安い』と感じるのも当人次第って事だな。」

 「その通りです。

 『安心』って目に見えない物を『いくらで買うか』『買わないか』という話ですね。」

 「『一日保険』に何で種類があるんだ?。」

 「そこまでは知りません。

 保険の内容が違うとか、支給上限額が違うとか・・・そんな感じじゃないですかね?。

 でも『一日保険』で二千円ってかなり高いですね。」

 「でも二千円で安心が買えるなら俺はこれにするよ。」

 「それじゃ登山に行きましょうか!。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「聞こえますか?。」

 誰かが話しかけている。

 「聞こえますか?。」

 意識が覚醒する。

 俺は右手を上げる。

 話す事は出来ない。

 「何があったか覚えてますか?。」

 声が聞く。

 俺は右手を振る。

 覚えていない。

 一体、俺はここで何をしているのか?。

 ここはどこなのか?。

 「あなたはサークルで登山に行ったんです。

 そんな高い山への登山ではありません。

 ハイキング気分で参加したんでしょう。

 でも登山していた山が突然噴火したんです。」

 おぼろげに思い出した。

 火山灰だろうか、とにかく視界が真っ暗になった。

 火山ガスを吸い込んだんだろうか?。

 火山灰を吸い込んだんだろうか?。

 とにかく息苦しい。

 仲間とはぐれた。

 仲間がいたところで出来る事は何もない。

 集団でガス中毒になるだけだ。

 

 暑い。

 何も見えないが音は聞こえる。

 きっと拳大の石が降って来ている。

 そんなのが当たったら一たまりもない。

 頭から上着を被って落石に備える・・・と言ってもどれだけ効果があるかわからないが。


 暑いし息苦しい。

 朦朧としてきた。


 もうダメかも知らん。

 俺はそう思いながら意識を手放した。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「あなたは山で救助されたのです。

 私は医師で、ここは山の麓の病院です。」

 俺は助かったのか?。

 みんなは無事なのか?。

 聞きたいが目も開かないし、口も開かない。

 「不自由だとは思いますが『はい』は右手を上げて下さい。

 『いいえ』は右手を振って下さい。」

 俺はとりあえず右手を上げた。

 「おそらくあなたはサークルの仲間を心配しているでしょう。

 幸いにも行方不明者もいません。

 死者も今のところ出ていません。

 怪我人は出ました。

 軽傷者は8人、重傷者は1人。」 

 重傷者が出たのか。

 誰だろう?。

 「因みに重傷者はあなたです。

 あなた以外、深刻な怪我をした人はいません。

 しかしあなたの怪我は深刻です。

 生命維持装置に繋いで何とか命をとりとめている状態です。

 この状態も長くはもたないでしょう。

 あなたが自分の意思で動かせるのは右手のみ。

 身体の左半分は落石でほとんどが壊死しているか、存在しません。

 今はまだ大丈夫ですが、生命維持装置との拒否反応はおそらく起こるでしょう。

 そうしたら生命維持装置を外さざるを得ません。

 そしてあなたは生命維持装置がない状態では生きていけないでしょう。」

 そうか、俺は間もなく死ぬのか。

 死ぬのは怖い。

 死にたくない。

 でもどうしようもないらしい。

 「ですが、あなたの入っていた『1日保険』は上限なしです。

 つまり、いくら治療費がかかろうと全て保険会社が負担すると。

 しかも自動車でいう『車両保険』のようなサービスにも対応しています。

 『生命維持装置』は最先端医療で保険対象外なんですよ?。

 五分作動させるだけで、数千万円かかる。

 でも入ってた保険が良かったんですね、お金は使いたい放題です。

 ただ『車両保険』のようなサービス、『身体保険』というのがどんなサービスなのか、どんな保険なのかわかりません。」

 俺もわからない。

 保険の証書も読んでないし、サービス内容も知らない。

 だけど『1日保険』の掛け金を1500円ケチらずに払ったから今、こうやって命をながらえている。

 「今、手術の準備出来たようです。

 では今から、あなたのオペを行います」と医者は言った。

 怪我が深刻で手の施しようもなかったんじゃないの?。

 まあ、助けてもらえるなら助けてもらうに越した事はない。

 手術代は保険料から払われるから心配はいらない。

 俺は返事を出来なかった。

 出来ても手術を断るつもりもなかったが。

 「一刻を争う」と言っていた。

 だったら説明している時間もない、というのはおかしいとは思わなかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 


 麻酔から覚醒する。

 そうか、手術は終わったんだ。

 左手を確認する。

 「無事だったのは右手だけで、左半身の損傷が酷かった。」って言ってたし。

 左手が俺の思い通りに動いている。

 それに前回の覚醒時と違い、まだぼやけているが目が見える。

 「無理に動こうとしないで下さい。

 大手術でしたし、まだ麻酔が効いているんです。」

 ぼやけているが目の前の白衣を着た男が言う。

 「これから嫌でもリハビリで身体を動かさなきゃいけないんです。今から慌てて身体を動かす事はないですよ。」男の隣の女性が言う、看護士だろうか?理学療法士だろうか?。

 「『とにかく現状が知りたい、知るまでは安心して眠れない・・・』という顔ですね。」と医者が言う。

 わかってるじゃないか。

 俺はどうなってるのか知りたいんだ。

 訳がわからない事が沢山ある。

 たとえば「左半身は壊死しているか、そもそも既にないかのどちらか」と言われていたはずだ。

 なのに左手があり、俺の意思で動かせる。

 よくよく考えるとおかしい。

 前回覚醒した時は右手以外まともに動く部位はなかったはずだ。

 目も開けれなかったはずなのに、今回目が開けられるし、ぼんやりだが見える。

 そもそも最先端医療の生命維持装置を繋いでいないと、死んでしまう存在だったはず、「手の施しようがない状態」だったはずだ。


 「納得がいかない顔をされてますね。

 では『どういう話になったか?』を保険会社の方からあなたに説明していただきましょう。」と医者。

 「あなたが加入していた『身体保険』というのは保険会社の新サービです。

 全く新しいサービスなので、似たようなサービスで説明しますね。

 では似たようなサービスで『車両保険』を例に出して説明させていただきます。

 『車両保険』に加入していると、車が廃車になるような大事故でも代わりの車を保険料で乗れますよね。

 それと同じような感じだと思ってください。

 元の身体がもう使い物にならなくても、『身体保険』に加入していれば保険会社が代わりの身体を準備します。

 しかし、新しいサービスです。

 新しい身体もそんなに用意は出来ない状態なんです。

 今回も出来るだけ条件を前の身体と合わせました。

 年齢、人種、そして何より拒絶反応の少ない肉体・・・あらゆる条件でベストの肉体を脳死体の中から選びました。

 かつては脳死体から使える臓器の移植をしていました。

 最先端医療では逆に脳死体に無事な脳を移植するのです。」

 つまり、この身体は脳死した『誰か』の身体な訳だ。

 「『よく身体を提供してくれたな』と思っていませんか?。

 身体が見つかった理由はいくつかあります。

 一つ目『最先端医療だから』

 今まで、この施術は行われませんでした。

 二つ目『医療費無制限だから』

 この施術には医療保険が効かない上に莫大な費用がかかります。

 この新サービスの『身体保険』に加入していない限り、本来一般庶民が受けられる施術ではありません。

 三つ目『故人の肉体が唯一生きられる手段だから』

 脳死を『人の死』と考えるかどうかは判断が別れるところでしょう。

 亡くなった方の承認があれば脳死者からの臓器移植が可能です。

 ですが愛する方が亡くなった後、遺体を切り刻むような行為をするのは遺族の方は耐えられない場合も多いようです。

 でも身体を提供するのは故人の意思だ。

 それで、身体そのものを提供する方法を選ぶ方々がいらっしゃるのです。

 つまり新しい施術である『脳を乗せ変える』方法に応じるのです。

 この方法は身体を切り刻まない上に『愛する方の身体は生きている』という施術です。

 勿論、この施術を嫌がる遺族もおられます。

 この施術後、お墓に入るのは脳の燃えた後の炭のみです。

 お墓にほぼ何も入れないのを嫌がる方々も多いのです。

 なので施術に耐え得る、拒絶反応の少ない身体を探すのに苦労しました。

 出来るだけ、あなたと条件を合わせたつもりです。

 しかしどうしても条件が合わない部分もありました。

 だからと言って、もう施術は行わなければなりませんでした。

 生命維持装置を使えるタイムリミットも迫っていましたし。

 その部分は事後承諾になりますが了承してください。」

 何が何だかわからない。

 わからないが施術を受けたから俺は生き延びたようだ。

 贅沢は言ってられない。

 俺は生きたくても生きれなかった脳死者の犠牲の上で、生きていられるのだ。

 俺は頷いた。

 頷くだけで体力がゴッソリ削られる。

 「無理はしないで下さい。

 リハビリは明日から始めましょう。

 あなたには『理学療法士』『作業療法士』『言語聴覚士』の三名がつきます。

 歩いたり身体を使うリハビリは『理学療法士』に、社会生活や喋り方のリハビリは『作業療法士』『言語聴覚士』の指示に従ってください。

 特にあなたは『今までと違う社会常識』『言葉遣い』を覚えなくちゃいけないでしょうし。」

 言葉遣い?。

 何でそんなもん変えなきゃいけないんだ?。

 「不思議そうな顔してますね。

 そりゃ性別が変われば言葉遣いも変えた方が良いでしょう?。」

 

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