覚悟編
殺した。
殺した。
一万人の幸せのため、千人には死んでもらう。
そう思っていた。
気付けば一人の悪人を活かすために一万人以上を殺していた。
「この戦いが最期の戦いだ。
待っているのは誰も泣かなくて良い世界だ。」そう信じて殺し続けた。
だが、戦いは終わらなかった。
そして、その戦いは帝国の上層部だけのための物だと知った。
しかし今更、戦いを止められなかった。
止めてしまうと、それまでに犠牲になった命達が全くの無駄になってしまう。
犠牲になった仲間達も少なくない。
そいつらが死の間際に「必ず戦いを止めてくれ。世界を平和に変えてくれ」そう言い残して息絶えたのを思い出すと、そこで止まる訳にはいかなかった。
敵にも言い分がある。
敵にも正義がある。
いや、敵こそが正義だ。
帝国が他民族、他種族を大虐殺している現実を知った。
戦争が起こることで潤っているのは帝国上層部の一部だけだ。
それ以外の帝国臣民は戦争が起こるたびに重税をかけられ、大事な世継ぎ達は徴兵に取られ、そのほとんどは帰って来なかった。
帝国の内部は腐りきっていた。
民族粛正は当たり前のように行われていた。
『人間こそが優秀、それ以外は劣等民族なんだ』と。
俺は『自分は人を殺す機械だ』そう自分に言い聞かせた。
そう思わねば、明らかに間違った人殺しをしている自分に言い訳が出来なかった。
その時も殺した。
殺した。
沢山殺した。
どれだけ殺したかなんてもうわからない。
ついにレジスタンスの指揮官を追い詰めた。
レジスタンスの指揮官は元帝国の騎士だった少女だ。
「最後に言い残す事はあるか?。
元同期のよしみだ。
聞いてやろう。
何で帝国を裏切ったんだ?。」
その時、俺は少女の言い分を聞きたかったのだと思う。
『同期』と言っても『同僚』じゃない。
スタートが同期の『帝国兵士』と言うだけで、花形の『帝国騎士』と汚れ役の『掃除屋』では比べるべくもなかった。
「迷いが見えるぞ?。
掃除屋、これだけ殺しておいて今更良心に苛まれているのか?。」と少女。
「与太話をするためにお前の止めを待った訳じゃないんだがな・・・。」と俺。
「与太話をしたつもりはない。
もう罪のない民を殺せなくなった。
心に迷いが産まれた。
だから私は帝国を裏切り、レジスタンスを立ち上げた。
お前の質問に対する答えになっているか?。
これは死ぬ前に誰かに懺悔したかった事だ。
私もお前と同じ、無実の民を数えられないほど殺したよ。
最後にその懺悔をする相手が『帝国の掃除屋』っていうのが、因果応報なんだろうがね。
帝国の大臣が一人の平民の娘を慰み者にしようと拐った。
『娘を返して下さい』と嘆願する父親の首を大臣の命令で落とした。
次の日、慰み者にされた娘の死骸をドブ川に捨てさせられた。
父親の首を落としたのも、娘の死骸を捨てに行ったのも私だよ。
私は地獄へ落ちる。
ただその地獄には帝国の腐りきった上層部も道ずれにしてやる・・・と思ったんだけど・・・思ったより道ずれに出来なかったな。
それどころか、仲間が私の代わりに何人も殺されたり処刑された。
何ともまあ、呆れるのは私の罪深さよ。」と少女。
「・・・せめてもの手向けだ。
お前を『戦士』として死なせてやる。
剣を抜け。
構えろ。」と俺。
「ありがたい。
・・・と言っても、もうまともに腕も上がらない。
死ぬ事には変わりはないがな。」と剣を構える少女。
少女は剣先を俺の胸に向ける。
そのまま突進してくるつもりだろう。
もう腕を振る事も出来ないほど、傷ついて、疲弊していたのだ。
万が一にも勝てるとは思っていない玉砕覚悟の戦法だ。
俺も正眼に剣を構える。
俺は少女の出方をみた。
目を瞑り、少女が突進してきた。
俺はその突進を身体で受け止めた。
俺の心臓に少女の剣が突き刺さる。
「お前の勝ちだ。
だが、今日はこのまま逃げろ。
今日お前らが忍び込むことはバレていたんだ。
内通者がいる。
この道を真っ直ぐ行けば逃げれる。
死ぬなよ。」俺は血を吐きながら言う。
「何で・・・。」
「何でもクソもあるか!。
そんなの騎士の座を捨てて、親兄弟処刑されて、それでも反乱軍を率いてるお前に質問されるまでもねーだろ!。
もう嫌なんだよ、悪人のために働くのも!。
善人殺すのも!。」俺は絶叫した。
「・・・最後に言い残す事はあるか?。」と少女。
「このクソみたいな世界を変えてくれ。」と俺。
確約は出来ないだろう。
出来ないからこそ、少女は果てしないレジスタンス活動を続けているのだろう。
だが、息を引き取ろうとしている俺に少女は「わかった」と力強く答えた。
だんだん意識が遠ざかっていく。
きっとこのまま死ぬのだろう。
俺は死んだ。
死んだはずだった。
なのに・・・『ここはどこだ?』と思う一方で『ここはレジスタンスのアジトだ』と思う自分がいる。
「お嬢!。
おはようございます!。」お世辞にもあまり柄の良くなさそうな男達に頭を下げられる。
「『お嬢』って誰だ?。」と疑問に思うのも自分だし「そう言えば自分が『お嬢』だ。」と納得している自分もいる。
俺は何故か自分が誰か知っている。
自分はレジスタンスの『聖女』とレジスタンスの『剣神』の間に産まれた娘だ。
『聖女』とは自分がわざと負けた、レジスタンスを作った少女だ。
自分の名前は『レン』。
掃除屋だった前世と同じ名前だ。
偶然なのか?。
それとも『聖女』が調べあげたのか?。
とにかく剣の腕は『剣神』と『聖女』に鍛え上げられ、前世でも『聖女』を上回るほどの技量を備えていた。
つまり『血統書付きのサラブレッドが二人分努力をした状態で、師匠にも恵まれまくって、なぜか人の五倍以上の実戦経験がある状態』が今の自分だ。
どのくらい強いのかと言うと『剣神』と呼ばれた父親と真剣勝負をして、十回中九回は勝つくらいだ。
しかし今世は前世とは違い、レジスタンスが小さな国を作り上げていて、自分は小国のお姫様らしい。
そして今日は小国同士、対帝国の包囲網を作るための政略結婚の見合いを『姫』と『王子』がする日らしい。
・・・どうすりゃ良い?。
前世で命を投げ捨てる覚悟くらいは出来ているつもりだった。
なのに男と結婚する覚悟がイマイチ出来ていないらしい。




