エジプト編
俺はトレジャーハンター。
悪い言い方をすれば「コソ泥」「墓荒し」だ。
罰あたりにも古代の王家の墓から装飾品を盗む事を生業としている。
『墓荒し』が装飾品を盗んでいかなかったら、新発見や発見されていない王家の墓なども沢山あるだろうが、そんな事は俺には関係ない。
今回も俺が『誰の墓か特定されていない王家の墓』と目されている古墳に忍び込む。
古墳に忍び込み、暫く歩くと『王家の間』と目される広いスペースに出た。
この『王家の間』を真っ直ぐに進むと、おそらく『王家の墓』に辿り着くのだろう。
俺のコソ泥としての勘が『この古墳は大当たりだ』と伝えている。
『王家の間』の壁に古代エジプト文字で『この先に進む者に必ずや王家の呪いがふりかかるだろう』と書かれている。
この壁に書いてある文字は俺には脅しにはならない。
かえって「この奥には王家の墓があります」という道案内になってしまう。
実は『王家の呪い』かも知れないと言われているケースは一件だけである。
ツタンカーメンの墓を暴いた研究者が数週間後に急死して、それが唯一『王家の呪い』と言われているのだ。
研究者が呪いで死ぬなら、コソ泥は真っ先に呪いで死なないとおかしい。
俺が生きている事が『王家の呪いなんてない』という証明なのだ。
俺は道を踏み外した元研究者だ。
「志では腹は膨れない」と道を踏み外す者はスポーツ界にも多い。
マフィアの用心棒をしている元格闘家などは珍しくない。
かつて射撃競技でオリンピックを目指した暗殺者など腐るほどいる。
なので、古代エジプト文字を解読出来る墓荒しなどは珍しくはない。
俺は『当たり』を引いた幸運に少し浮かれていた。
その気持ちの浮わつきが俺に油断を産んだ。
「コトリ」床がスイッチになっていたのか俺が踏んだ床が音を立てて凹んだ。
「しまった!」そう思った時にはもう遅い。
壁の穴より無数のトゲが俺に向かって飛んできた。
出来るだけ払い落したが、トゲの何本かは太ももに刺さってしまった。
当然太ももにトゲが刺さった痛みはある。
だが、俺が生きているという事は・・・トゲには即効性の毒は塗っていないようだ。
それとも経年でトゲに塗られた毒性が消えたんだろうか?
それよりこれはただの罠であり、呪いの類のものではない。
呪いにあたるものもまだあるかも知れないし、まだ罠も無数にあるかも知れない。
一旦帰還して、太ももの傷を癒した後、もう一度この古墳の中に潜ろう。
そう思っていると・・・強烈な眠気に襲われた。
トゲに塗ってあったのは毒ではなく睡眠薬であったのかも知れない。
でもどうして?
トゲに毒を塗れば簡単に侵入者を殺せるはずだ。
わざわざまどろっこしく眠らせる理由がわからない。
・・・まあ良い。
トゲに塗られていたのは毒ではなく睡眠薬であったのだ。
その幸運をかみしめて睡眠薬が切れるまでしばらく眠ろう。
その後の事はその後考えれば良い。
「起きてください!」
何者かが俺の体を揺する。
「うたたねしている場合ではございません!
女王の責務をこなして下さい」
「女王?」
「そうです。あなたは女王クレオパトラ7世その人です。
まだ寝ぼけているんですか?」
これは夢か幻覚か・・・それとも現実なのか。