ファミレス編
「すいません。
『ウェイトレス募集』なのに男の僕がバイトに応募しちゃって。
迷惑でしたよね?」
「いえ、別に構いません。
確かにこのファミレスは、厨房スタッフも含めて全て女性です。
ですが、過去に男性スタッフの採用実績がなかった訳ではないんです。
『女性だらけだと男性は最初居心地が悪いんじゃないかな?』と思って『ウェイトレス募集』というチラシをファミレスのドアに貼っていただけで、別に『男性禁止』という訳ではないんです」
「よかった・・・じゃあ採用になった場合、僕は何をすれば良いんですか?
やっぱり男なんで裏方の厨房スタッフですか?」
「いえ、今現在厨房スタッフは足りています。
バイト募集のチラシも『ウェイトレス募集』だけでしたよね?
あなたが採用になった場合には、フロアスタッフをやってもらおうと思ってます。
あ、コーヒー冷めないうちに召し上がって下さい。」
「では、いただきます。
・・・緊張しているんでしょうか?
ちょっと味覚がおかしくなってます。
すいません、せっかくコーヒーを入れていただいたのに。
では話を戻します。
・・・フロアスタッフですか。
ウェイターみたいな感じですよね?
愛想のない僕に出来るかなぁ?」
「ウェイター・・・みたいなものですね。
大丈夫です。
最初は誰でも初心者です。
『僕につとまるかなあ』って不安そうな顔をしてらっしゃいますけど、大丈夫です!
ウチはまだオープンして半年に満たないファミレスです。
ですが、ウチのファミレスでバイトを始めた人で今までに辞めた人はいないんです!
それくらい居心地が良い職場ですよ~。
わからない事はやさしい先輩達に聞いて下さい!」
僕はこのファミレスのマネージャーの女性が嘘を言っていると感じた。
男性を採用した。
誰も辞めていない。
現在、女性だけの職場だ。
彼女の言う事には明らかな矛盾がある。
嘘をついて誤魔化すのには、それだけの疚しい理由があるのだ。
これは理由をつけてこのファミレスを退散した方が良さそうだ。
それを知ってか知らずか、女性マネージャーは一方的に話の締めに入った。
「では、あなたには明日の朝9時から働いてもらいます。
ユニフォームはこちらで支給いたします。
黒いストッキングだけは必ず用意して下さい」
そっか、向こうが用意したコーヒーを飲んで・・・。