表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/130

繁殖編

(サラブレッド)の繁殖で血統が重視されるのは「種馬」と呼ばれる雄馬だ。


雌馬の血統は一応見られるが「母親の父親」という風に雌馬のレース成績より、祖父にあたる種馬の血統が重視されるという。


何故そこまで雄馬が大事にされるか、というと雄はそこらじゅうで種をバラ撒き1年に百頭単位で子孫を残せるが、雌は一度受胎したとしても一回しか子孫を残せないからだ。


犬などのように一度の出産で3~6頭出産するならまだしも、馬の場合は一度の出産で1頭しか子馬を産まないのが通常で、稀に双子の馬が産まれたとしてもその2頭は「能力の低い馬」の可能性が高く、産まれた瞬間に研究馬つまり獣医の卵達の解剖練習用の馬となる。


なので基本的に一回の受胎で1頭の子馬、つまり1年で多くて1頭しか子孫を残せないのだ。


馬だけではない。


日本でも『大奥』、アラブでも『ハーレム』の歴史がある。


西洋ヨーロッパでも貴族には側室を持つ者がいた。


必要なのは少数の優秀な雄と多数の雌である。


逆に少数の雌と多数の男性の場合、性的な意味以外に全く意味はない。


意味はないどころか多数の雄の種は無駄になり、DNA鑑定しなくては『どの雄の種か』がわからずデメリットしかない。


多夫一妻がない訳ではない。


山岳民族で少女が男性兄弟に嫁ぐケースがある。


しかしそれは逆ハーレムとは程遠いもので、山小屋に寝泊まりし放牧している兄弟の元を少女が一人で山を登ったり降りたりしながら行来する。


全ては「血筋を残すため」であり、性的な意味はないではないが決してそれだけではない。


ハーレムを形成する者に肉食、草食、雑食の区別は全くない。


ライオンでもゾウでも人間でもハーレムは形成される。


それは「優れた遺伝子を残そう」という生命の根元的な営みである。


「能書きはだいたいわかった。


でももうライオンもゾウも馬も絶滅してるんだろ?


何でこんなVTRを見せられたか未だにわかんないんだけど」僕は600年コールドスリープしていたらしい。


600年前、人類は増えすぎ、人類の3/4は天然資源保全のためと環境破壊を食い止める為にコールドスリープした。


僕もその中の一人という訳だ。


そして長くても300年後にはエネルギー問題と環境問題が解決し目を覚ます予定になっていた。


だが今から500年ほど前、第三次世界大戦が勃発したそうだ。


戦局は混迷を極め化学兵器、生物兵器、核兵器・・・あらゆる大量破壊兵器が使われた。


その第三次世界大戦で120億人いた人口は20万人ほどまで減ったという。


自然界にいる動物もほぼ絶滅したが、人間の食事になる家畜や生産されている野菜や果物などの作物はある程度遺伝子操作され残っていたため、人間の数が激減したこともありあまり食糧不足にはならなかった。


問題は人口の激減である。


120億人から20万人に減ったのはコールドスリープしていない人間の数であり、コールドスリープしている人間はほぼ第三次世界大戦で施設が破壊された際に死滅したと思われていた。


破壊を免れているコールドスリープの施設がある・・・と発覚したのは最近の事だ。


しかしそのコールドスリープの設備はほぼ全て故障か停電していた。


設備の内部は死体の山・・・と言ってもほぼ全てが白骨死体ばかりであった。


500年で死体は腐敗を通り越していたのだ。


その中で奇跡的にコールドスリープ設備も環境力発電所も生きている個所が見つかり、中でコールドスリープしている一人の男が発見された。


それが僕という訳だ。


しかし600年ぶりに目を醒ましてみると男がほとんどいない。


というか起きてから男を見ていない。


「男はどこにいるの?」僕は健康チェックをしている看護師の女性に聞いてみた。


「男は絶対数が少ないんです。


第三次世界大戦で戦士として戦った男は激減してしまいました。


その結果、人類は人工受精で冷凍精子で繁殖して行く事で絶滅を免れたのです。


おかげで20万人まで減った世界人口も現在では4000万人を越えるところまで回復しているんですよ」看護師の女性は言った。


そっか・・・ってちょっと待てよ?


第三次世界大戦があったのって500年前で200年続いていたって言っても300年前には終息してるはずだろう?


その後産まれた子供達は男女半々なんじゃないの?


つーか医療が発展してる社会じゃ、男児の方が女児より多く生まれ育っていくはず、医療が未発展な地域だと体質的に弱い男児が産まれてすぐに死にやすいんじゃなかったっけ?


しかし怖くて僕はその事を看護師の彼女には問い質せなかった。


僕が目を醒ましたこの世界がもしアマゾネスのような女性達が幅をきかせている社会なら男は殺されるか奴隷にされるしかない。


僕が「気付かれないように何とか逃げ出せないか?」とソワソワしていると、それを察した看護師の女性が笑いながら言った。


「この時代は極端に人間の減った世界よ?


その上、産まれた男を殺す訳ないじゃない。


冷凍精子は沢山あるから人類を増やすには女性が必要なのよ。


貴方のいた時代より男女の産み分けの技術が進んでいるんで、女性が多いだけよ」


それを聞いて僕はホッとした。


ちょっと待てよ?


冷凍精子がいくらでもある、という事は男は必要ないという事じゃないか?


「この世界に男は僕以外にいないの?」僕は看護師さんに聞いた。


「そんな訳ないじゃない、沢山あると言っても冷凍精子だって有限なのよ?


人数は少ないけれど新しい冷凍精子を産み出すためにも男性はこの時代にも何人かはいるわよ。


みんなが同じ冷凍精子を使っていたら近親交配が進んでしまうしね。


それに産み分けだってそんな完璧じゃないわ。


女を産もうとしても男が産まれてしまうケースがない訳じゃないの。


でも男が産まれても殺さないわよ。


男に与えられた仕事は何も『冷凍精子』を生産するだけではないわ。


女性社会を作り上げて機械化、オートメーション化が進んでも一部には男にしか出来ない力仕事も残ってるのよ。


それにこの時代は『男が産まれたから即殺す』なんてドライな時代ではないわ。


確かに『男性中心の社会は争いを産む』と第三次世界大戦後、女性中心の社会が作り上げられたと言うわ。


でも女性社会でも争いもトラブルも起きるし、女性同士の争いは男性が絡む争いより陰湿な事が多いみたいだし・・・『男性=トラブルメーカー』なんて扱いではないわよ」看護師さんは呆れながら言った。


良かった。


僕は今すぐ処分される訳ではないみたいだ。


「しかし貴方、本当に肉体労働には向かない身体してるわね」看護師が呆れながら言う。


「身体動かすのは好きじゃないし得意じゃないんで・・・すみません」僕は申し訳ない気分になって思わず謝った。


「別に謝る事じゃないのよ。


でも貴方は目を醒ましたこの時代で生きていかなくちゃいけない。


でも貴方はどんな仕事をして生きて行くべきかしら?


肉体労働がダメなら女性達と一緒に働くしかないけど。


あ、この時代で発達したのは男女産み分けだけじゃないのよ?


男はね、よほど優れた遺伝子を持っていないと『種』を残せないの。


優れた遺伝子を持っていない男は肉体労働をするしかないの。


その肉体労働をする肉体すら持っていない男は・・・この時代で発達したのは男女産み分けと性転換よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ