傷編
「先輩は転んで膝をすりむきました。
さて先輩はどうしますか?」
「どう・・・って。
傷口をよく洗って、消毒して、傷口を乾かして・・・」
「ブッブー!どれも不正解です。
傷口は汚れを落とす程度に軽く洗いましょう。
消毒はしません。
傷口は乾かしません。
それどころか乾かさないために、サランラップを巻いたりします」
「『ブッブー』って何か腹立つな。
不正解もクソもないだろ?
『傷口きちんと洗って、消毒して傷口乾かしてた』俺だってちゃんと傷治ってるんだから」
脚切り落としたりしてねーぞ。
『正解が複数ある』って事で良いじゃねーか」
「でも正解の方法の方が綺麗に傷も治るし、治りも早いんです。
認めましょうよ『先輩の治療方法は時代遅れ』だって」
農業大学で女子はほとんどいない。
理由はいくつかある。
「農学」「林学」「水産学」「畜産学」などなど全て、理系科目なのだ。
高校時代、理系クラスに女子はほとんどいなかった。
なので理系の学科に女子が多い訳がない。
そして何よりの理由は「農業をやりたがる女子がいるわけがない」というものだ。
俺のいる林学科で女子は一人、しかもあんまり可愛くない・・・いや、ハッキリと言おう。
「林学科にいる女の子は二目と見れないブサイクだ」と。
だが空腹の獣達のいる檻に肉を投げ込んだら獣達は肉が旨いか不味いか・・・という話は置いておいて肉を奪い合うだろう。
林学科にいる女の子はモテモテで女王の如く振る舞って、その振る舞いを許されていた。
女王は林学科で一番のイケメンと付き合い始めた。
他の男共は血の涙を流したが、俺は
「お前ら冷静になれ!
この閉鎖的な空間だから、あのオラウータンみたいな女を有り難がるんだ。
お前らは本当にあの『森の賢者』と付き合いたいのか?
そこまで森を愛してるのか?
だから林学科に入ったのか?」
女王を悪様に言った俺は学科内で居場所を失った。
俺は出会いを求めてテニスサークルに入った。
だが考えて欲しい。
林学科と比べたら他の学科は女子が多いかも知れない・・・と言っても農業大学である事に変わりはなく違いは目くそ鼻くそだ。
見た目がまともな女子には必ずとびきりのイケメンの彼氏がいた。
俺が「ダルシム」と呼んだ女の子は「彼氏がいない」というだけの理由でサークル内で壮絶な争奪戦が繰り広げられた。
「先輩、争奪戦に加わらないんですか?」
「いや、口から火を噴いたり空中に浮いたりする女の子は俺はちょっと・・・。
ヨガの風評被害って彼女のせいだと思わない?」
このやりとりが後輩であるコイツとの腐れ縁の始まりである。
「さっき言った治療方法も時代遅れになりつつあるんですよ。
最新の治療方法、知りたくないですか?」
「ビックリするくらい興味ないな。
その治療方法も数年したら『間違った治療方法』って言われるんだろ?
傷なんて治りゃ良いんだよ。
治し方がどうとか本当にどうでも良い」
「そんな事言わないで下さいよ~。
話が終わっちゃうじゃないですか~。
僕は先輩と同じでダルシム先輩の争奪戦にもブランカちゃんの争奪戦にも加わってないんですから、先輩が相手してくれなかったらやる事なくなっちゃうんですよ~」
「真面目にテニスの練習すりゃ良いじゃねーか」
「この空間で真面目にテニスしてたら浮きまくりですよ?
・・・ってアレ?
先輩膝擦りむいてるじゃないですか。
どうしたんですか?」
「やる事ないからな。
さっき自主練で走り込んでたんだ。
その時躓いて軽く膝うったんだ」
「その傷口の治療、僕にやらせてもらえないですか!?」
「何で俺がお前の実験台にならなきゃいけねーんだよ・・・。
まあいいか。
傷口ゴシゴシ洗わないとか消毒しないって事はあんまり痛くないんだろ?
あんまり大袈裟にしなきゃ、治療しても良いぜ?」
「本当ですか!?
まず、傷口を軽く洗います。
ここであんまり強く洗ってしまうと、細胞が壊れてしまって治るのが遅くなるそうです」
「あー沁みる。
まあこれは必要な痛みだよな。
俺も昔はゴシゴシ洗ってその上消毒液かけてたんだから、自分でやってももっと痛かったんだろうし・・・」
「それであとはこの薬剤の染み込んだ布を患部に巻くだけ。
サランラップを巻いて、傷口を湿気を保ったまま保護してたんだけど、サランラップの替りにこの布を巻く事で細胞が作られるのを促すと臨床実験の製薬会社の人は言って・・・あっ」
「治療したがるからおかしいと思ってたんだよ。
お前、臨床実験のアルバイトしてたんだな。
俺の治療をする事でお前にアルバイト代が入るのな。
お前、バイト代が入ったら飯くらいおごれよ」
「まあ悪い事ばっかりじゃないから良いじゃないですか。
傷が治るのに今までは数週間かかっていたのに、新しい治療法では数時間で治るそうですよ!
あ、細胞が作られるのは傷口だけじゃなくて全身なのか」
「急にお前ら何なんだよ!?
飯ならコイツにおごってもらうから良いんだよ!」




