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入学編

 「ここに俺は三年間通うのか・・・」


 俺は男子校の校門前で校舎を見上げため息をつく。


 しょうがない。


 滑り止めのこの男子校である水産高校しか合格しなかったんだから。


 しかし三年間、全寮制の男だらけの青春を過ごすのか・・・。





 校門をくぐると制服や教科書など、学生生活に必要な物を荷物を配っている教師から受け取った。


 「お前が噂の・・・」


 教師が無遠慮に俺の体を嘗め回すように頭の天辺からつま先まで見る。


 何だよ、感じ悪い。


 確かに専願で「この学校に入ろう」とこの高校しか受けなかったヤツらと比べると、進学校の滑り止めとしてこの高校を受験した俺はちょっと毛色が違うかも知れないが・・・でもそんな風に希少動物を見る目で教師が見ないでも良いじゃないか!


 そういった異端視がいじめを助長させるんだぞ!


 教師がそんな態度を取ってどうするんだよ!・・・まあいいや。


 なんか俺だけ他の人達より受け取った荷物が小さい気がする。


 ・・・気のせいか。


 『隣の芝生は青い』こういう場合、他人だけ贔屓されてるように感じるモンなんだな。


 いけない、いけない・・・この卑屈な根性を直さないと友人は出来ない。


 全寮制の高校で三年間一人きりはきっと地獄だろう。


 俺は校門をくぐると先ず、クラス分けの掲示板を見に行った。


 俺の名は・・・あった。


 俺は1-C、一年C組だ。


 ちょっと待て、何で俺の名前だけ赤丸で囲われているんだ?


 よく見るとどのクラスでも一人だけ必ず赤丸で名前を囲われたヤツがいる。


 この赤丸はなんだろう?


 特待生か?・・・いや、それはあり得ない。


 特待生などクラスに一人ひとり作らなくても、この私立の男子校には「特別進学クラス」がある。


 彼らは進学校へ入れるのに、わざわざこの私立の男子校の名を上げるためにこの高校の「特別進学クラス」に進学した連中だ。


 「特別進学クラス」の授業料は無料で一流の講師陣の授業を受けられ、おまけにこずかいまでもらえるという。


 そんな連中がいるのに進学校に落ちた俺ごときが特待生になれる訳がない。


 


 


 クラス分けの掲示板の上には「新入生は保健室へ行って下さい」と書かれている。


 保健室?


 まずはクラスに集合させられて「新入生の皆さん、ご入学おめでとう」から始まるありがたくもくだらない担任のお言葉をもらうんじゃないのか?


 いきなり健康診断?


 体力診断?


 俺が疑問で頭を一杯にしていながら、保健室に続く行列に並んでいると・・・


 「今から注射を行います。


 利き腕をたくし上げておいて下さい。


 なお、事前にお伝えしておいた高校を受験した時の受験票を保険医に手渡して下さい。


 それが個人特定の資料の代わりになります。


 アレルギー等がある方は事前に注射をする保健医に言って下さい」と行列をテキパキと捌いていた看護師が大声で言った。


 予防接種?


 まあ水産高校だし、船に乗って異国の港へ行く事もあるんだろう。


 色んな病気の予防接種を受けないと安全ではないだろうし、逆に予防接種を受けていない者は入国禁止なんて話もあるのかも知れない。


 だから必ず入学式の日に予防接種を行う・・・あり得る話だ。


 でもそれって入学式の後でも良いんじゃないか?





 注射にはそれほど時間がかからないようで、行列はどんどん短くなり俺はあっという間に保健室に到達した。


 「失礼します」俺は保健室に入って、写真が貼られている受験票を保険医に手渡した。


 保険医は良い言い方をすれば「妙齢の美女」悪い言い方をすれば「年齢不詳の怪しい女」だった。


 「あぁ、君は・・・この子にする注射はこれじゃない。


 そうそう、これだ」保険医と看護師がゴチャゴチャと何かをやりながら言っている。


 配属されるクラスによって行く国が違うのだろう。


 行く国が違えば、当然必要になってくる予防接種も違ってくる。


 最初、看護師から保険医に手渡された予防接種注射は、きっと俺が行く国向けではなかったのだろう。





 「失礼したね。


 この注射はちょっと痛い注射なんだ。


 痛い注射は苦手?


 いやいや、普通の事さ。


 『痛いのが得意』とか『痛いのが好き』なんてほうが珍しいんだよ?


 じゃあ痛みを紛らわすために雑談でもしようか?


 ここは水産高校だから魚の話でもしようか?


 クマノミは知ってるかな?


 そう『ニモ』で有名だね。


 そのクマノミは生まれた時はみんなオスなんだよ。


 でもね群れの中で一匹だけ選ばれた個体がメスに変わるんだ。


 そうしてクマノミは繁殖していくんだ。


 君も選ばれた個体なんだよ・・・」






 ハッと意識を取り戻す。


 どうやらここは保健室のベッドのようだ。


 情けない・・・俺は注射の時、血を見て意識を失ってしまったようだ。





 起き上がるタイミングで校内放送が入る。


 「新入生は制服を着て体育館に来て下さい。


 只今より入学式を行います。


 繰り返します・・・」


 良かった、そんなに時間は経過していないようだ。


 半日意識を失ってたとか、そんな話じゃなくて本当に良かった。


 でも更衣室に移動する時間はないな。

 

 何より更衣室の場所知らないし。


 しょうがない、今ここで着替えてしまおう。


 俺はベッド脇に置いてある校門前でもらったブレザーの制服を着る事にした。










 あれ?ここ男子校だよね?


 間違って渡すにしても、このブレザー、下スカートなんだけど。

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