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お盆編

「孫を抱くまでばあちゃんは死なんぞ~!」最後に会ったばあちゃんは病院のベッドの上で弱々しく強がっていた。


それから数週間後、ばあちゃんの通夜と告別式はしめやかに執り行われた。


父親の葬式の時「順番が違うだろうが。


このバカ息子が・・・」と寂しそうに焼却場の煙を見上げていたばあちゃんを思い出す。


そのばあちゃんが父親の葬式の時、俺に聞いてきた。


「なあ、死後の世界ってあるんじゃろうか?」


「わからない。


でも死後の世界はあると信じたい。


『死んだら全てが終わり』と考える事は『幽霊がいる』と考えるより俺は何倍も怖い」と俺はばあちゃんに答えた。


「そうだな。


あのバカ息子はきっとワシが逝くのを待っててくれてるな」ばあちゃんはそう言うと弱々しく笑った。


従兄弟の子供達が、ばあちゃんの初盆の法事が行われている古い寺で肝試しをしている。


わからない・・・幽霊の何を怖れているのだろう?


ばあちゃんや父親が俺に危害を加える訳がない。


そして、死んで幽霊になった人のほとんどがこの世に大切な人を残して来たのだろう。


そんな人達が、無差別にこの世の人間を害する訳がない。


勿論、生前悪人だった人もいるだろう。


だが、そんな人はごくごく一部だろう。


罪を犯した人は相当数いるだろう。


だが死ぬまでにその罪を償わなかった人などどれほどいるのだろうか?


また死刑になったような人でも仏教の考え方では「死んだらどんな悪人も仏様になる」と言われている。


本当に怖れるべきは「生きている人間」なのだろう。


孫達が「逢えるものならもう一度、ばあちゃんに逢いたい」と思っているのに対し、孫の子供達・・・ばあちゃんの曾孫達はばあちゃんを幽霊扱いしていた。


しょうがない。


この子達はばあちゃんとの思い出がほとんどないのだから。


俺が正月に田んぼに冬眠しているザリガニを取りにばあちゃんに連れて行ってもらった時「本当に不憫やねえ。


正月早々からモンペはいて田んぼを鍬で掘り返しとる」と近所で噂されていたらしい。


でもばあちゃんにとってその思い出は宝物なのだ。


そしてその思い出は俺にとっても宝物だ。


この子達にはその思い出がないのだ。





「アンタ覚えてるの?」


今は嫁入りして名字が変わって子供も二人いる姉ちゃんが言う。


「え?何が?」


「アンタ、昔からわがまま言ってばあちゃんを困らせてたでしょう?


ホラ、私は初めての女の孫で、アンタは次男な上に男の孫は沢山いたからアンタはお古の洋服ばっかりもらって、私は新品の洋服ばっかり買ってもらって・・・


私は沢山洋服がもらえるアンタを羨ましく思ってたんだけどアンタはばあちゃんに新品の服を買ってもらえる私を妬んでたのよね」


思い出した。


「姉ちゃんは女の子だから服を買ってもらえるんだよ」今は亡き父親が俺をなだめる。


「じゃあ僕も女の子になりたかった!


それで新しい服が欲しかった!」俺は無茶苦茶なワガママを言う。


ばあちゃんは困り果てて言う。


「そんな事言っても、お前は男の子として生まれて来ちゃったからな。


女の子に変わる方法はないんだわ。


わかった、女の子に変わる方法がわかったらばあちゃんがお前を女の子に変えてあげるからそれで我慢してな」




「ばあちゃんは俺を女の子に変えれたら変えるつもりだったのかな?」


「ばあちゃんは嘘が大嫌いだったじゃない。


ばあちゃんが女の子に変える方法知らなくて良かったわね。


知ってたらばあちゃん、絶対アンタの事、女の子にしてたわよ。


あら?ばあちゃん生きている間に女の子に変える方法はわからなかったみたいだけど、今頃その方法がわかったみたいね?」

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