妖刀編
立身出世を夢見て村を旅立った。
村の道場では剣術の免許皆伝をもらった。
道場の師範は俺に餞別として、一振りの刀をくれた。
道場で一番の名刀らしい。
その刀はいわく付きで刀が持ち主を選ぶという。
海を渡った遥か西に剣に認められた者だけが岩に突き刺さった剣を抜けるという伝説があるというが、この剣の場合は認められた者だけが剣を鞘から引き抜けるという。
まるで『妖刀村正』のようだが、この餞別にもらった剣が呪われているかどうかは誰にもわからないらしい。
何故かというと、この剣を鞘から引き抜けた者はいままでに一人もおらず、この剣が呪われているかどうかさえ誰もまだ知らないのだ。
俺は刀身が曲がっていて、鞘から引き抜けないだけだと思っている。
刀は軽くない。
使えない刀を貰っても正直困ってしまう。
だが、師範が餞別だと言うなら貰わない訳にはいかない。
道場は縦社会で、師範がくれるというものを「いらない」とは言えないのだ。
ましてや、剣は武士の魂だ。
剣を師匠からもらうという事を意気に感じなくてはならないのだ。
なので師範の顔を潰さないために抜けない剣を腰に帯刀しなくてはならない。
都へとやってきた。
仕官先を探さなくてはならない。
困った事に、田舎の道場の免許皆伝など都では何の権威もないのだ。
俺は途方に暮れてしまった。
都に出れば、仕事は引く手あまただと思っていた。
なのに都で物を言うのはコネと賄賂であった。
どちらも持っていない俺は仕官しようにも、屋敷にすら入れて貰えない日が続いた。
都の橋の下で雨露を凌ぐ事数週間、俺は橋のたもとで数名の男達に絡まれている娘さんに出逢った。
「なあ、俺達と遊ぼうぜ」
「良いだろう?減るもんじゃなし」
絵にかいたような子悪党だ。
俺は娘さんと数名の男の間に割り込んだ。
「やめときましょうよ。
娘さん、困ってるじゃないですか」
「んだと?
俺達とやんのかコラ!?」
男達は輩丸出しの態度で喚き散らした。
俺は「やれやれ」と言いながら、鞘の付いた剣を構えた。
いや、鞘がついていたのは相手を気遣ってではない。
鞘から抜いた状態でも峰打ちは出来る。
鞘から抜けなかったのでしょうがなくそのまま構えたのだ。
「やっちまえ!」
お決りの悪党の台詞を言いながら大男が大木槌を振り回す。
剣でそんな物を受け止めたら刀身は曲がってしまうか刃こぼれしてしまうだろうが、何せ鞘から引き抜けない剣である。
俺の考えでは曲がる心配などしなくても、既に曲がっているから鞘から引き抜けないのだ。
俺は躊躇なく、大木槌の一撃を鞘付きの剣で受け止めた。
この衝撃で刀身が微妙に曲がったせいだろうか?
長年抜けなかった鞘からスラリと刀身があらわれた。
俺はこの時初めて「この剣は魔剣かも」と思った。
剣というのは研がれて油などで手入れされて、初めて錆びず切れ味が維持される。
この剣は何年も鞘がついたまま手入れがされていないのに怪しく光り輝いている。
俺は悪漢達を峰打ちでうち伏せた。
峰打ちだから死なない訳ではない。
思いっきり刀で殴ったら普通に死ぬ。
ただ娘さんを血塗れにする訳にはいかないと思ったのだ。
「助けて頂きありがとうございます。
私は女性だけの反国家組織の一員です。
この国は賄賂が横行し、腐敗しきっています。
ぜひ貴女の剣の腕を我々の組織で振るってはもらえませんか?」




