遺伝編
三毛猫のオスが生まれる可能性は三万分の一だとどこかで聞いたことがある。
「なぜ?」と言われても僕にはわからない。
「遺伝子でそう決まっているのだ」としか答えようがない。
僕の一族がが16歳になると同時に女の子になるのも、母親は説明できないらしい。
僕が母親に「何で?」と聞いたら「そうなっちゃうって決まってるからしょうがない」と母親は答えた。
染色体数で男女は決まるという。
三毛猫でも人間でも女性の染色体数の男性が稀に生まれて来るらしい。
それは『染色体異常』であり体質的に非常に弱く、生殖能力の無い個体でメスに変化する事はない。
つまり、僕の一族が16歳になると女性になるのは、遺伝的なモノではあるけれど、染色体は一切関係がない・・・という事になる。
そんな事はどうでも良い。
「どうして母さんは僕の3日後の16歳の誕生日を前に、そんな重大事実を明かしたんだ?」
「早かった?
もうすこし、後がよかったかしら?」
「遅すぎるんだよ!
あと3日で何が出来るんだよ?
女の子に変わる心の準備すら3日じゃ終わらないだろ!」
「3日間、子作りし続ける人なんて見た事ないわよ?
貴方が男として、親になりたいなら3日間で遺伝子を残すしかないわよ?
貴方もそうして生まれてきたのよ?」
おかしいと思っていた。
母親には16歳で子供を産んだ女性独特のヤンママ感がないと思っていたのだ。
父親は僕が物心つく前に事故でこの世を去ったという。
もし父親が生きていたら、母親が二人という訳の解らない状況だったのだろう。
「あなた、意中の女の子いないの?」母親が言う。
年頃の男子に意中の女子がいない訳がない。
だがタイムリミットは3日間なのだ。
「好きだ。なあ、子作りしようや」
・・・何の事はない、単なる変質者である。
でも少しずつ愛を育てて最終的に子作りに持っていくには、とにかく時間が足りない。
せめて意中の女の子と浅からぬ関係であるなら、可能性はある。
だが、僕はその女の子と話した事もないのだ。
ある訳がない。
童貞男子が『高嶺の花』である女子と話した事がある訳がない。
母親が溜息をつく。
「母さんがギリギリで大事な事を打ち明けるから、こんな追い詰められた状況になってるんだよ!
それに母さんこんな状況なのに全く焦ってないだろ!」
「焦る訳ないじゃないの。
母さんは孫は抱きたいけど、別に貴方が孫を産んだって問題ないと思ってるのよ?
16歳で親になった母さんだから言える事だけどね・・・。
慌てて急いで子供を作るより、覚悟を決めた後子作りした方が産まれて来る子供のためにも良いと思うわよ?
もちろん、母さんは貴方が産まれた事を後悔した事なんて一度もないけどね。
でもね、少なくとも母さんには相手がいたの。
貴方は今から相手に話しかけるんでしょ?
子作りのために相手に話しかけるならやめておきなさい。
母さんは少なくとも相手と愛し合ってたわよ?
それはタイムリミットが3日でも1ヶ月でも半年間でも同じ。
・・・ってそんな事言ってもまだ貴方には自分の気持ちはわからないか。
相手の女の子との接点は何もないの?」
「・・・接点。
あ、そういや小林さんは僕の悪友、宣也の幼なじみだって宣也が言ってた。」
「じゃあ、その方面から攻めてみるのも良いんじゃないかしら?
」
「そうするよ。
アドバイスありがとう母さん!」
走っていく我が子の背中を見送る。
背中が見えなくなると仏間の仏壇に母親は手を合わせる。
「私はあの子の母親をキチンとやれているかしら?
貴女が産んだ私と貴女の子も、もうすぐ16歳よ」




