ビジネスホテル編
店でもホテルでもマンションでも出来たばかりの時は利益が出る。
・・・出たような錯覚に陥る。
古くなった建物は修繕費、清掃費が余分にかかるのだ。
本当は建物が新築の時から積立て費用を正しく計上しておくべきだ。
それが『修繕積立金』であり『原価償却費』である。
建物に限らず一部「骨董品として価値が古くなるほど増す物」を除いて、物の価値は無くなっていく。
そして物が価値を失うのは何も「古くなって」ではない。
機械設備のほとんどが故障により価値を失うのだ。
古くなったビジネスホテルの天井はめ込み型のエアコンが故障して室外機ごと取り替える・・・となったら100万円以上はかかる。
しかも、エアコンを付けたのは新築時の同時期であり、故障するのもほぼ同時期なのである。
エアコンの場合使わない方がクーラーガスの減りは激しく、修理までのスパンは短くなるので使わない事は経費の節減にはならない、修理費用・交換費用は必要経費なのである。
業務用ガス湯沸し器も部屋ごとに設置されている場合、故障する時期はほぼ同じである。
だが、ガス湯沸し器は家庭用でも取替えに20万円近くかかる。
業務用であれば更に金額は張る。
ビジネスホテルは出来た時は綺麗だが修理費用、清掃費用に金を回せなくなってくると目に見えてスラム化する。
すると「あのビジネスホテルは幽霊が出る」などと言われるようになる。
ホテル側もエアコンの室外機が「トントントン」という音をたてるようになったとエアコンの交換の必要性を認めるより、「幽霊の足音だ」と認めて一枚魔除けの札を貼っておいた方が遥かに金がかからない。
科学的ではないが、合理的で経済的だ。
罰ゲームで俺はこの郊外にあるビジネスホテルに泊まる事になった。
実際に泊まった証拠と俺がビビっている様子をエンターテイメントとして楽しむために俺はスマホで動画を撮影しなくてはならない。
しかし本当にボロいビジネスホテルだな。
昔は地方に来たビジネスマンで賑わったらしいけど、それも今は昔・・・こんなボロいところに泊まるより旅館で泊まった方が少なくとも有料エロチャンネルは豊富だよな。
・・・こんな事はしていられない。
スマホで動画を撮影しなくてはならない。
俺は誰が描いたかわからない落書きみたいな絵が飾られている額縁の裏を見た。
・・・お決まりというか何というか・・・。
そこには予想通り魔除けの札が貼られていた。
もうこの手の札は『このホテルは幽霊が出る』じゃなくて『このホテルはもう修繕しようがないほどボロいし、そこら中から幽霊がいるみたいな異音がする』という証拠みたいなモンだ。
札を剥がしてマジマジと札を見る。
額縁に目を戻すと消えかけの薄く古い字でこう書かれていた。
『この札を絶対に剥がすな!』
んな事言われても・・・もう剥がしちゃった後だよ。
俺は粘着力を失った札を部屋のテーブルの上に置いて、外した額縁を元のようにかけ直した。
「する事がないな」
俺はベッドにダイブした。
ギシギシとベッドは音を立てる。
このホテル、ベッドのスプリングもまともに効いてやがらない。
いつの間にか俺は寝てしまったらしい。
俺は夢の中にいる。
ここは古びた洋館・・・ビジネスホテルが建つ前、ここには洋館が建っていたらしい。
ここに住んでいるのは画家か?
画家はホテルの部屋に飾られていた落書きのような絵を描いている。
モデルは・・・画家の娘だろうか?
・・・いや、女装させられた男の子だ。
画家が男の子に暴力を振るう。
「モデルが悪いから・・・
お前が男だから俺は売れないんだ!」
男の子は暴力を振るわれながら、ひたすらに謝る。
「ごめんなさい!
僕が男なのがいけないんです!
だからお願い!
殺さないで!」
俺は部屋をノックする音で目をさました。
ノックをしたのはフロントにいた中年男性であった。
・・・ったく、普通何か言う事があったら、フロントは内線電話してくるモンだろ。
そんなシステムすらないのか?
このオンボロビジネスホテルには・・・。
フロントの中年男性は言った。
「困るんだよね、あんまさんなり風俗嬢なりを連れ込む時に一声かけてもらわないと。
アンタも部屋に行く前にフロントで一声かけていきなさいよ」




